Aging Gracefullyプロジェクト 企業向け勉強会第4弾〈前編〉
「AG世代のメンタルヘルスマネジメント」
Project report 学び キャリア マインド ジェンダー 更年期
[ 19.07.22 ]
朝日新聞社と宝島社の女性誌「GLOW」が取り組む「Aging Gracefully」(以下、AG)プロジェクトは、職場や家庭、地域で大きな役割を担う40代、50代の女性たちのエンパワーメントを目的としています。女性活躍推進法の施行から3年がたちましたが、昨年の内閣府の調査では、第1子出産後に退職する女性は依然47%にのぼり、民間企業における課長職以上の女性管理職比率も、11%弱(2017年度)にとどまっています。
女性がキャリアアップしていく上では、組織の制度や風土、プライベートと仕事の調整など、様々な「壁」があることが予想されます。そうした中で自分らしく働き続けるためには、どんなメンタリティーを持つことが必要なのでしょうか。また、すでに管理職になった女性たちは、どのような思いで様々な「壁」を乗り越えてきたのでしょうか。
こうした問題意識から、朝日新聞社AGプロジェクトチームは5月28日午後、「AG世代のメンタルヘルスマネジメント」をテーマに、企業向けの勉強会を東京本社で開催しました。総合人材派遣業や金融、IT関連など19社から、人事やダイバーシティ、宣伝、広報などの担当者ら40人が参加しました。
第一部の基調講演には、産業カウンセラーで一般社団法人「日本メンタルアップ支援機構」代表理事の大野萌子さんが登壇しました。官公庁や大手企業でストレスマネジメントやコミュニケーション、ハラスメント予防に関する研修を手がけています。また、人間関係を円滑にするスキルを学ぶ「メンタルアップマネージャ」の養成講座も実施しています。
大野さんは冒頭、参加者にワークシートを配布し、最近感じた「喜怒哀楽」について、2分間で書いてもらいました。その心は、「『心の現在地』とも言える自分の感情に、もっと意識を向けること」。大野さんは「わきあがる感情は人に伝えたり、表したりしないと、感情自体が退化し、『感じにくく』なります。そうすると、自分の気持ちを認めづらくなってしまうんです」と語りました。
「喜怒哀楽」でいうと、ワーキングパーソンは「哀」を表さないケースが多く、厳しい家庭で育ってきた人は「怒」が出にくい傾向があるそうです。自責の念や、防衛反応、我慢といった「心のくせ」が出てしまうためだそうです。大野さんは、「メンタルヘルスの最も大事な点は、哀しみや怒りといった、負の感情との向き合い方。負の感情を把握すれば、早期のリカバリーが可能です」と語りました。
実際、強いストレスと隣り合わせにある、消防士や警察官の研修には、こういった負の感情を語り合う手法が取り込まれているそうです。大事件や災害に対応した人がトラウマになってしまうことが多いため、その経験について何度も話し合う場を設けることで、落ち込みを減らし、気分が前向きになるといった効果がみられるそうです。
「トラブル発生時こそ、責め立てたり、原因分析をしたりするだけでなく、気持ちを共有することが大事です」と大野さん。また、他人が経験したトラブルや失敗談を聞くことも、メンタルを鍛えることにつながるそうで、「『自分はこうやってみよう』『気をつけよう』と、心の準備をするのに役立ちます」と話しました。
ちなみに、日本で1年間に自死で亡くなる方は、男性が女性の2倍超。比率は例年、ほぼ変わらないそうです。一説には、男性は自分の感情を他者と話す機会が少ないからではないかといわれています。大野さんは「会社では、起きた出来事について『○○と感じた』と話す場があまりありません。一人暮らしの人も増え、職場でも家でも話し相手がいないケースが増えています。ちょっとした、どうでもいい話ができる場が、メンタルヘルスの観点からはとても重要です」と指摘しました。
そのほかにも、メンタルを健やかに保つヒントがいくつか紹介されました。その一つが運動です。やる気を出すセロトニンというホルモンの分泌には、1日20分の運動が必要とされており、週末にどこにも出かけずゴロゴロしてしまうと、分泌の効率が悪くなるそうです
さらに、大野さんは職場や家以外の居場所を持つ大切さについて触れました。心理学で、「場面に応じた自分の役割を演じる仮面」を意味する「ペルソナ」をたくさん持つことが、メンタリティーの安定につながるそうです。「職場ではベテランでも、習い事教室では初心者、といったように、色んなキャラの自分を出せる場所を持っていると、一つの場所で否定されたとしても、別の場所で認められればプライドを保てます」
そして、「メンタルが弱い人は、往々にして切り替え、気分転換が苦手な傾向があります。短時間でも、無心になれる時間を持つように心がけてみてください。1人で、いつでも、どこでもできる趣味があるといいですね」と語りました。
最後に大野さんは、最近、研修や講演先で聞く話として、働く女性のモヤモヤには世代別の傾向があることを指摘しました。「30代は生き方が多様化し、自分と他人を比べてイライラ。40代は責任ある仕事を任せられたり、更年期で不調を抱えたりしてメンタルバランスが乱れがちです」。そうした中で自分の軸を持って前向きに働くには、「○○すべき、という『べき』論にとらわれず、価値観を柔軟にチューニングすることが大事」と指摘しました。
「『何が大事か』は、自分の置かれた立場や環境、生活状況に応じて当然、変わります。あれもこれもと頑張り過ぎないでください」と大野さん。気持ちを大切に、セルフケアも採りいれてストレスに対処しながら、豊かな職業生活を送って欲しいと、参加者にエールを送りました。