Aging Gracefullyプロジェクト 企業向け勉強会第5弾〈前編〉
「働き方改革とオフィスファッションのこれから」
Project report ジェンダー ファッション キャリア
[ 19.10.02 ]
朝日新聞社と宝島社の女性誌「GLOW」が取り組む「Aging Gracefully」(以下、AG)プロジェクトは、職場や家庭、地域で大きな役割を担う40代、50代の女性たちのエンパワーメントを目的としています。プロジェクトでは、この世代の女性をとりまく様々な社会課題について、企業や行政の方たちとともに考え、解決のヒントを探る勉強会を定期開催しています。
7月29日に朝日新聞社で開催した 第5回勉強会のテーマは「働き方改革とオフィスファッションのこれから」です。
2015年に女性活躍推進法が施行され、企業でも女性管理職が少しずつ増えてきました。また、リモートワークやフリーアドレス制など、働く環境も変わりつつあります。
こうしたなか、ビジネスシーンでの装いにも変化の波が訪れています。クールビズが定着し、外資系企業やIT企業を中心にカジュアル化が広がる中、商社やメガバンクといった伝統的な企業でも、ドレスコードの自由化に取り組むところが出始めています。
また、こうした流れとは別に、ミドルエイジの女性はヒールがつらい、冷えが気になるといった悩みも抱えています。管理職世代にふさわしく、かつ働きやすい装いとはどうあるべきか。
大丸東京店などで婦人服に長く携わり、現在は大丸松坂屋百貨店で営業企画室部長を務める笠井裕子さん、GLOW編集長の大平洋子さんを講師に招き、講演とディスカッションを実施しました。
金融、建設、IT、百貨店、飲料メーカーなど17社から、人事や広報、企画などの担当者ら19人が参加しました。
まずは、共立女子短期大学の渡辺明日香教授がまとめた「平成“はたらくファッション”振り返り年表」=図表下(https://doda.jp/promo/hataraku/)に沿って、笠井さん、大平さんがそれぞれ、平成30年間のオフィスでの装いの変化について解説しました。
平成初期の1990年代前半、男性は肩の大きいソフトスーツ、女性はボディコンシャスなワンピースが人気でした。また、バブル期は企業の予算も潤沢にあり、有名デザイナーを起用した制服を、女性社員のみに支給していた企業も多かったそうです。
1990年代半ばからは、カジュアルフライデーを導入する企業が少しずつ出始め、2005年からは環境省の旗振りのもと、クールビズがスタート。2007年の男女雇用機会均等法改正後は不況の影響もあり、女性の制服を廃止する企業が相次ぎました。
リーマン・ショック以降はファストファッションが全盛期を迎えます。また、SNSの普及により、ファッション情報の波及方法が激変。個人が自身のSNSで着こなしを紹介する動きが広まり、等身大のファッションアイコンとして注目を集め、トレンドが多様化しました。オフィスでの装いも、シリコンバレーのIT企業なども参考にカジュアル化が広がり、オンとオフの境目があいまいになっていったといいます。
ちなみに、服装規定を再考する動きは近年、海外企業でも起きています。米ゼネラル・モーターズ社は2009年の経営破たん後、従業員就業規則に10ページにわたり記載されていた服装規定を「Dress Appropriately(適切に装うこと)」という、たった二語に改定しました。この見直しを手がけ、後に同社初の女性CEOとなったメアリー・バーラ氏はその理由について、 「TPOに合わせた装いを自ら考えることができなければ、ほかのどんな判断もできないと思ったから」と語っています。
今年3月には米ゴールドマン・サックスグループが服装規定を緩和。職場でも自分らしい装いが認められることを望む、ミレニアル世代の「優秀な人材確保」を目的に、2年前に技術部門の社員を対象に導入した施策を、全社に広げた対応でした。また、赤いスカートスーツ、ハイヒール、口紅が女性客室乗務員のトレードマークだった英ヴァージン・アトランティック航空も、スラックスの着用を容認し、化粧の強制をやめる方針を示しました。こうしたことから、オフィスファッションの変化の背景には、大きく下記のような要因があると考えられます。
- ① 職場環境のデジタル化
→オンラインでつながればどこにいても仕事ができるようになり、フォーマルな装いをする機会が減る
→大手IT企業は、カジュアルな装いそのものが社のブランドイメージに
② 温暖化防止対策(クールビズなど)
③ ジェンダー平等への配慮(女性のみに着用を義務づけていた制服の廃止など)
④ 社員の判断力の強化
⑤ 優秀な人材の確保
こうした流れをふまえた上で、笠井さんは「令和のオフィスファッションとは」をテーマに講演しました。大丸東京店は丸の内や大手町といったオフィス街に近接し、金融や証券、商社といった堅い職場に勤める人が多数訪れます。このため、どこよりもジャケットとパンプスの品ぞろえを豊富にすることを心がけてきたそうです。
その上で、AG世代の装いについて笠井さんは、女性登用の流れのなか、「男性社会での紅一点から自然体のリーダーへ と、職場での見え方も変わりつつあります。それに伴い、装いで女性らしさをアピールする必要性は今後、減っていくのではないでしょうか」と予想しました。また、服装は自分のブランディング活動 だとし、「大事なのは清潔感と信頼感。TPOに合わせて『きちんと見える』から『ちょっとカジュアル』までの幅を持たせた、自分の『制服』を選ぶ力がこれからは必要です」と指摘しました。
また、AG世代特有の体形の変化については 「ハリのある素材を選ぶと、体のラインが目立ちにくくなります」と語りました。パンプスについても、「国産メーカーのものは、日本人の足に合わせた木型が多く、フィットするものを見つけやすい」とアドバイス。いずれも、納得するまで試着を繰り返すのがコツだそうです。
そして最後に「より変わらなければならないのは男性の装いです。ネクタイを外し、革靴をスニーカーにし、カバンをリュックに変えたらクールビズ、というわけではありません。 ぜひ、店員と対話しながら、似合う装いを探していただきたいです。男性の装いが変われば、職場の風景も、風土も、変わっていくのではないでしょうか」とまとめました。
(後編へ続く)