Aging Gracefully勉強会・番外編
おしゃれな上司が会社を変える? NEC役員にインタビュー
Project report ファッション キャリア
[ 19.10.21 ]
「スーツ一辺倒の男性の仕事服が変わらなければ、日本の職場の風景も、風土も変わりません」。「働き方改革とオフィスファッションの未来」をテーマに7月に開催した、Aging Gracefullyプロジェクトの企業向け勉強会は、講師のこんな言葉で締めくくられました。とはいえ、仕事服をどう変えていけば良いのか、悩む男性は少なくないのではないでしょうか。
そんな中、勉強会に参加されていたNECコーポレートコミュニケーション本部の高木綾子さんから「役員全員が、オフィスカジュアルで出席する懇談会を開きます」とご案内をいただき、2019年8月26日、東京・三田の本社に取材に伺いました。
今年、創業120周年を迎えたNEC。ファクスや衛星テレビ中継のパラボラアンテナ、PC、携帯電話と、情報通信技術のトップランナーとして歩んできた同社はいま、交通や物流のデジタル化、顔認証技術、人工知能を活用した創薬ビジネスなど、新分野に力を入れています。こうした挑戦のためには、働き方や諸制度、社内のコミュニケーションのあり方など、企業風土そのものを刷新する必要があるとして、2018年に策定した中期経営方針に基づき、社内に「カルチャー変革本部」が発足しました。
懇談会会場となったコワーキングスペース「BASE」も、カルチャー改革の一環として今年5月にオープンしたばかり。社員が自律的、創造的に働けるように、また、部署の壁を超えたコラボレーションが生まれやすくなるようにと、様々な工夫がされています。打ち合わせができるオープンスペースには、ソファやスツールなど様々なタイプの椅子が210席。ほかにも、ドリンクやお菓子を購入できるラウンジ、ヨガやストレッチを体験できるスタジオ、多彩なジャンルの雑誌を読める図書コーナーなどがあります。
コーポレートコミュニケーション本部の飾森亜樹子本部長によると、「社員一人ひとりが多様性を尊重し、社会の課題解決のために様々な方々との共創を通じて成長し、新たな価値を生み出していけるように、オフィス環境の整備だけでなく、透明性の高い評価制度の導入や、内向き業務のシンプル化など、様々な取り組みを進めています」とのこと。オフィスカジュアルの広がりも、その延長線上にあるといいます。元々、服装規定はなかったそうですが、「予定や仕事相手に合わせつつ、個性も出せる服装を選ぶにはセンスが必要。そして、話しやすい雰囲気づくりと、会社が変わっていくという意志を表すためにも、今回、役員にカジュアルスタイルで出席してもらうことにしたのです」と飾森さん。
今回、お二人の役員が取材に応じてくださいました。一人目は、ビジネスイノベーションユニット担当の執行役員、藤川修さん(54)。同社が昨年、新事業創出を目的に、シリコンバレーに設立した会社「NEC X」の創設メンバーで、初代CEOでもあります。「NEC X」発足時の記者会見にはデニムで登壇。プレゼンテーションも含めて、過去にはないスタイルで行いました。「イノベーションを手がける新会社なので、プレゼンやファッションも思い切ろうかなと」と、笑いながら振り返りました。
1988年の入社当初は毎日、スーツにネクタイでしたが、ロンドンやシンガポール、シリコンバレーなどでの勤務経験から、「相手と気持ちよくコミュニケーションができて、自分らしく、かつ、ビジネスの場にふさわしい緊張感を持って仕事をする、というバランスを持ったオフィスファッションを心がけるようになりました」と藤川さん。現在は新事業担当で、様々な業種の人と会うことから、日によってスーツや、ジャケットにパンツスタイルと、装いを選ぶようになったとのこと。「どう見られたいかを考えながら服を選ぶのは、難しいけど楽しい。妻にも相談に乗ってもらいます。部下や同僚からコメントをもらうのも、勉強になりますね」
この日のファッションのポイントは、コーポレートカラーである「青」のグラデーション。麻混の水色を基調とした杢(もく)ニットジャケットに、ノーネクタイでもしまって見える、藍色のバンドカラーのシャツ。ワンウォッシュのリーバイスのデニムと、青のパンチングレザーのレースアップシューズをつなぐのは、ブルーの杢ニットのソックス。ワントーンでまとめたことで、180センチ、70キロというランニングで鍛えたスリムな体形が、一層ひきたって見えます。
GLOW編集長の大平洋子さんは、藤川さんの装いについて「カジュアルなアイテムが多いのに、ワントーンできれいにまとめていて素敵です。ポケットチーフでドレスアップ感を演出しているのもおしゃれです」と評価しました。
藤川さんは、「オフィスカジュアルで何を着ればよいか、戸惑う人は少なくないと思います。日本的かも知れませんが、まずは行政や金融機関など、かっちりした業種から採り入れていけば、一気に広がっていくのではないでしょうか」と語りました。
次に取材に応じてくださったのは、チーフマーケティングオフィサー(CMO)で執行役員の榎本亮(まこと)さん(56)。外資系のコンサルティング会社やIT企業を経て、2015年にNECに入社されました。出社初日、ジャケットとパンツスタイル、モバイル端末を手に出勤したところ、「周りは全員、スーツとノートPCだったんです。あれ?って(笑)。カルチャーショックでした」
しかし、その後は社風が変わってきたのを感じるといいます。「外の風に当たってみようという雰囲気が広がってきた。CMOは、“チェンジマネジメントオフィサー”でもあると考えています。変わりたい、成長したいという思いは誰にもある。その背中を押し、組織に風穴を開けていくのが僕の役目です」と榎本さん。自身も日々、大学教授や取引先など、社外の様々な分野の人と積極的に会い、意見を聞くようにしているそうです。
ちなみにこの日の服装は、麻混の紺色のジャケットに、同じくリネン素材のシャツ、パタゴニアの黒のコットンパンツ。靴はスエードのメッシュのモカシンでした。「年齢を重ねるごとに、素材感を気にするようになりました。夏はリネンですね」
GLOWの大平編集長は、この装いについて「ソフトな素材のジャケットとパンツを合わせた、リラックスしたワーキングスタイルが好感度大です。知性と品の良さがにじみでています」とし、「何より、お二人ともスマートな体形維持がすばらしいです」と、高く評価しました。
榎本さんのファッションのこだわりはほかにも。ネクタイは「右肩上がり」のレジメンタル柄。ジャケットの色は紺か黒。スーツはポールスミスかポールスチュアート。カジュアルな日は、ホワイトデニムで出社することも。「ファッションはマナー。悪目立ちしてはいけませんが、没個性では寂しい。良いさじ加減を勉強中です」。ちなみに、パタゴニアのウェアは、「幼稚園時代からの趣味」という釣りにもよく着ていくとのこと。先日は伊豆大島で50キロのマグロを釣り上げたそうで、「楽しみがあるからこそ、仕事も頑張れます」と顔をほころばせました。
いかがでしたでしょうか? 印象的だったのは、仕事も趣味も謳歌しながら、自然体で仕事服選びを楽しんでいる姿でした。「その靴、いいですね」と、ファッションをきっかけに、職場で話がはずむこともあるそうです。そんな明るい職場ならきっと、部下も意見を言いやすいはず。働き方改革で様々な取り組みを進める企業が増えていますが、上司の服装が変わるだけでも、相当なインパクトがあるのではと感じました。