新アンバサダー・稲垣吾郎 インタビュー
人間としての魅力を、その深みを増すために、
大人は、変わることを楽しもう。
Special マインド ジェンダー
[ 20.04.23 ]
変化を受け入れ、優雅に、愉快に人生を謳歌する「新しい大人」が、この国と社会を変えていく。
3年目に入った「Aging Gracefully」プロジェクトの新アンバサダーは、稲垣吾郎さん。
初の男性アンバサダーとしてプロジェクトに期待すること、
ひとりの大人として今、これからについて、胸に思い描いていることを尋ねました。
大人になることが、ずっと楽しみだった
大人になるって、どういうことだろう? あらためて考えるとよくわかりませんが、でも、確かに大人ではあるんですよね。もう46歳なんだから(笑)。
思えば、ずっと「早く大人になりたい」と僕は願っていた気がします。10代で入った芸能界という世界では、子どもであってもひとりひとりに役割があり、一人前に扱われる。当然、早く大人になることが求められるので、それが僕の気持ちと合っていたのかもしれません。
そうしたこともあってか、年をとることに対して、僕はあまりネガティブな思いを抱いたことがないんです。どちらかというと能天気に、ポジティブに捉えてきた。もちろん、年齢を重ねてはじめてわかる変化は、自分にもありました。体も疲れやすくなるけど、実は心もけっこうくたびれがちになるんだ……とか。
若い頃、大人になればもっと頑丈な人間になれるんだと思っていました。どんどんタフになって、いつかは仙人のように達観した、聡明な人間になれるんじゃないかと。でも、ぜんぜんそんなことはなくて、まだまだ発展途上なんだなと、日々、痛感しているところです。
変化を経て発見した、新しい自分の個性
仕事を始めてからの日々を振り返ると、20代、30代は本当に忙しくて、毎日、時間が飛ぶように過ぎていきました。まるで竜宮城にいたような感覚です。そんな中で2017年、「新しい地図」を立ち上げたことで、僕自身にはとても大きな変化が起こりました。
まず、なんといっても、立ち止まっていろんなことを思考できる時間的な余裕が生まれたこと。ひとつの仕事にゆっくり向き合って取り組める今の状況は、僕にとって理想的なかたちです。今までなかなかできていなかった、周囲への目配りもできるようになってきました。
そして、新しい自分を発見できたこと。たとえば、僕はグループにいたときは、あまり自分から積極的に話すタイプではありませんでしたが、今はラジオやテレビ番組などで、MC的な役割を依頼されることが増えてきました。
そういうことは自分にはできないだろうと、ずっと思っていたんです。でも、やってみるとすごく楽しい。もともと人と話すことは好きですし、自分で言うことではないかもしれないけど、ちょっと人たらしなところもあるし(笑)。それは人のことが好きだからそうしているわけですが、状況の変化によって発見した新しい個性を、今は自分でも楽しんでいます。
自分をアップデートする力が、大人には備わっている
40代、50代になると、女性も男性も、自分のスタイルがある程度できあがっていますよね。どういう人が好きだとか、どういうものに囲まれていたいとか、自分なりの世界観が確立されつつある。ただ、「私はこういう人間だ」と決めつけてしまうと、煮詰まってしまうこともあるし、自分が変わることに怖さを覚えたりもしてしまいます。
たぶん、スタイルって、本来はもっと流動的な、変わりゆくものなんじゃないでしょうか。もちろん、それぞれが心の芯に確立してきたものは素晴らしい、それこそ〝オンリーワン〟の個性です。それを無理に壊す必要はないけれど、たまにちょっと崩してみたり、冷静に見つめなおしてみたり……。マイナーチェンジというか、アップデートというか、そういうことを心がけると、もっともっと、生きるのが面白くなるかもしれません。
年齢を重ねて生じた変化にも、抗うのではなくて、当たり前に受け止めて、その瞬間瞬間を楽しむ。年齢とともに衰えてきたりする部分もあるけれど、「あの頃が自分のピークだった」と振り返ってばかりいるのは、哀しいこと。心と体の変化を受け止めて弱さを補えるだけの経験と知識が、成熟した大人には備わっているはずだと思います。
垣根を越えて、もっと本音で語り合えたら
そんなわけで僕は、あまり長いスパンでの人生設計図というか、青写真のようなものを、昔も今も描いてはいません。健康、仕事、お金、家族のこと……どれも心配といえば心配ですが、性格もあってか、あんまりそのことで頭を抱えたくない。正直、行き当たりばったりですが、そこで起こるハプニングを、僕は楽しみたいほうなんだと思います。
皆さんは、どうですか? つねづね、女性のほうがいろんな面を持っていて、人間として複雑で、そのぶん豊かだなぁと僕は感じています。
すごいなと思うのは、人生のステージで、魅力が変化すること。20代は可愛らしかったのが、30代で美しくなって、40代になると華麗さや妖艶さが増してきて、どんどん聡明で充実した人間になっていく。さらに、女性の顔、母の顔といろいろな表情も持っていて……それに比べると、男はずっと変わらず、単純かもしれない(笑)。
もちろん、50代、60代になれば可愛くなくなる、美が衰えるということではなく、年代ごとにチャームポイントが移り変わりながら、魅力の深みが増していくということ。Aging Gracefullyって、きっとそういうことなんじゃないでしょうか。
いろんなことに興味のアンテナが張り巡らされていて、貪欲で。レストランに行くと、男性は好きなものだけガッツリ食べるけれど、女性はおいしいものなら何でも、ちょっとずつでも全部食べたいんじゃないのかな。僕も、絶対的に後者です。きれいなものも好きだし、それに囲まれて生きていたいと思ったりする。でも、本当は男性も、そういうことを求めるのは軟弱だと言われてきただけで、本質的な部分では同じなんじゃないかと思います。
こうした話を、垣根を越えてもっとできるといいんですよね。「もう大人なんだから」と言われても、実はまだまだ迷っていて、だから皆と話したいし、励ましあいたい。自分の殻に閉じこもっていないで、生きることについてのさまざまなテーマに、知恵や力を合わせてプロジェクトで取り組んでいく。アンバサダーとしてこうした機会に参加させていただけることを、心から光栄に思っています。
撮影=三浦安間 ヘア&メイク=金田順子 スタイリング=細見佳代 取材&文=大谷道子
- いながき・ごろう
- 1973年東京生まれ。グループでの音楽・ステージ活動に加え、89年、NHK連続テレビ小説『青春家族』で俳優デビュー。以降、ドラマ、映画、舞台、バラエティーと幅広いジャンルで活躍。最近の出演作にNHK連続テレビ小説『スカーレット』、映画『半世界』、舞台『No.9—不滅の旋律—』『君の輝く夜に〜FREE TIME,SHOW TIME〜』、バラエティー『不可避研究中』、ラジオ『THE TRAD』『編集長 稲垣吾郎』、インターネット番組『7.2 新しい別の窓』などがある。