稲垣吾郎のGracefullyトーク
× 天野惠子さん <PARTⅡ>
Special 更年期 ヘルスケア ジェンダー マインド 学び キャリア
[ 20.08.28 ]
健康リテラシーを高め、
更年期をラクに乗り切って
年を重ねるにつれ、どうしても避けられない体の変化や不調。
でも、正しく知って、必要なものを補い、変えるべきところを改めていけば、大人の日々はもっと豊かに輝き始めます。
女性のための医療をトップランナーとして切り開いてきた循環器内科医・天野惠子先生を迎えてのトーク、後半はAging Gracefully世代の女性たちからのお悩みQ&A。
アンバサダー・稲垣吾郎さんも、何か相談ごとがあるようで……?
あなたが告げれば、周囲も変わるはず
- 稲垣
- このサイトを読んでいる方々から、天野先生へお聞きしたいことがたくさん届いているそうなんです。えーと、これなんかどうでしょう。「更年期は家庭や職場で言いづらいです。うまく伝える方法はあるのでしょうか?」。何か、いい方法を教えていただけますか?
- 天野
- うーん、職場の場合だと、何かの拍子にポロッと言ってみると、意外と「あら、実は私も」と言う人、いると思うんですけどね。そうして、話す人が増えれば、職場の中でもそういうことを自然に言える空気ができてくるような……。
家庭でも、やっぱり女性が言わなきゃね。どんなふうに調子が悪いのか、夫やパートナーに伝えて、わかってもらう。日本人って、話さないのよ。夫婦やカップルのコミュニケーションも、下手でしょう?
- 稲垣
- たしかに。何というか、「話したら相手に負担がかかってしまうんじゃないか」という心配をしてしまうところは、ありますね。沈黙の美というか、ついついやせ我慢をしてしまう国民性というか。男としてもそのあたり、どう接したらいいのか……。
- 天野
- 自分自身が本当に大変になるまで「助けて」と言えない。それは、優しさでもあるのよね。でも、状態がどんどん悪くなってしまうと、さらに家族や周囲に負担がかかってしまうわけだから、やっぱり自分自身が正しい知識を持った上で、わかりやすく相手に伝えるためのノウハウを身につけるのがいいですね。たとえば、外来に来られる患者さんには、私が書いた更年期の本を渡して、該当する症状のところをマークして、それをさりげなくパートナーに渡してみたら?とおすすめしています。本を買っていただくことになるわけですけど(笑)。
- 稲垣
- それは熟読しないと(笑)。そして、ちゃんと話を聞くようにしないとな、と思いました。
- 天野
- 更年期症状の治療としては、なくなってしまった女性ホルモン、エストロゲンを補充するのが基本。でも、人間ってやっぱり心の動物だから、人に優しくされて、それによってやる気が起きたりすれば、痛かったり苦しかったりすることも忘れるんですよ。 患者さんたちを見ていても、家族関係が円満で周囲とうまくいっている人は、粛々と治っていく傾向にあります。
東洋医学を取り入れて、自律神経を整える
- 稲垣
- 次に、「イライラが増えたのは更年期? イライラを和らげる方法はありますか?」と。
- 天野
- イライラにはね、基本的には漢方の「抑肝散 (よくかんさん)」がよく効きますね。病院で処方してもらえます。
- 稲垣
- あ、けっこうピンポイントなんですね。運動するとか、そういうことかと思いましたけど、具体的だ。漢方薬、そういえば最近、病院で処方されることが多くなった気がします。
- 天野
- そうでしょう? 更年期の症状には、先ほど言ったようにエストロゲンの補充をするのが第一なんですが、血栓ができやすい、肝臓に障害があるといった既往症やいろいろな理由でそれができない方もいるんです。その場合、次に何がいいかといったら、東洋医学。
- 稲垣
- 漢方って、きっと体に優しいんだろうしいいだろうなと思っていました。ご縁のある長野県の佐久平の農家さんから、ときどきセンブリをもらうことがあって、たまにお茶にして飲んでいます。すごく苦いんですけど(笑)。
- 天野
- 子どもの頃はよく煎じていましたよ。下痢にも便秘にもよく効きます。私が女性外来を始めた頃は、まだ漢方に対する認識はすごく低くてね。でも、女性外来に関心を持ってくれた女性の医師たちに「私たち、これから何をやればいいんですか?」と尋ねられたとき、この人たちに何か成功体験をしてもらわなくては次につながらないと思ったんです。それで、漢方の使い方を覚えてもらおうと、全国津々浦々でセミナーを開いて、教えて歩きました。「君は漢方界のジャンヌ・ダルクだ」って言われたこともありましたね。
- 稲垣
- おお、すごい。
- 天野
- 薬だけでなく、ツボや鍼など、いろいろありますから、とにかく有効なことは何でもやって更年期をラクに過ごしてね、というのが私の伝えたいことなんです。
- 稲垣
- つまりは、自律神経を整えるということ?
- 天野
- ええ。更年期の症状は、基本的にはすべてが自律神経失調症ですから。
- 稲垣
- 自律神経か……。僕はその点、器用なほうなのかもしれません。20代、30代、ずっと忙しく仕事をしてきたせいか、 けっこうオンオフが上手なんですよ。家に帰って部屋の電気をつけた瞬間、スイッチが切り替わる。帰ってからも仕事のことで心がザワザワしているようなこともないし、あんまりストレスがないというか。まあ、そう自分で思い込んでいるところもあるんですけど(笑)。
- 天野
- フフフ。それができれば十分ですよ。男性も女性も、加齢によるホルモンの減少は止められないですから、あとは自分の状況を変えていけばいいんです。
最終手段は……お風呂⁉︎
- 稲垣
- 今日、お話を伺って、体にいいこと、けっこう僕はできているんじゃないかと思えました。もしかして意識高い? じゃないですけど(笑)。まあ、僕のいる世界は女性も多いし、ありがたいことにこうしてお話を伺う機会も多いので、情報が多く、自然とバランスが取れるのかもしれないですね。
- 天野
- そうですね。私たちのときより今はいいなぁと思うのは、スマホなどで世界中から情報を手繰り寄せることができることだと思います。少し、ありすぎるくらいだけど。
- 稲垣
- 確かに、迷ってしまうところもありますね。昔は、病気の怖いところばかり調べちゃうから『家庭の医学』を読みすぎるなって、よくお医者さんに叱られました。今はネットでネガティブな要素を拾いがちで。
- 天野
- でも、そのおかげで、たとえば慢性疲労症候群のような、以前は発症してもわかるまでに何年もかかるような病気の患者さんが、発症してすぐ病院に来て治療を始められたりもするんですよ。ですから、これから大人の時間を元気に生きていくには、情報を正しく取り入れて健康リテラシーを高めること。そして、パートナーと仲良く過ごすこと。それに尽きると思います。
- 稲垣
- そうだ、先生……僕この間、朝起きたとき、足の親指の先のほうが痛かったんです。最初は深爪したのかと思ったんですが、外傷はなにもない。でも痛い。で、お風呂に入ったら治ったんです。これって、冷えてたせいでしょうか?
- 天野
- 冷えですね。朝の3時か4時ごろ、よく起こるんですよ。お部屋の温度がいちばん下がる時間だから。
- 稲垣
- 冷えって女性のイメージだったけど、やっぱりそうだったんだ。僕は体温が高めで暑がりだから、部屋に暖房をつけないし、素足で寝るし。女性と暮らしたら、たぶんリモコンの取り合いで大変なことになると思います(笑)。
- 天野
- 男性は女性よりも基礎代謝が高いですからね。でも、冷えは男性も要注意ですよ。お風呂はいいですね。私も、更年期の症状がひどかったとき、お風呂に入っている間だけ全部の症状が消えたんです。だから、体を温めることは本当に大事。ひどいときは、お風呂に一日3回入っていました。
- 稲垣
- 僕も3回くらい入るとき、あります。やっぱり間違ってなかったんだ! いやぁ、自信がつきました。
\吾郎のアフタートーク/
- 目からウロコの連続というか、たくさんのことを教えていただきましたね。性差医療という新しいジャンルを、先駆者として切り開いていった先生の生き方は本当にドラマチック。お人柄も、可愛らしいところもありながら、凛としてエレガントで。先生を主人公に、医療ドラマが作れるんじゃないかな? と思いました。ありがとうございました。
撮影=三浦安間 取材&文=大谷道子
ヘア&メイク=金田順子(稲垣吾郎) スタイリング=細見佳代(稲垣吾郎)
- あまの・けいこ
- 1942年生まれ。野中東晧会静風荘病院特別顧問。67年東京大学医学部卒業。女性専用外来の立ち上げに取り組み、2001年5月に鹿児島大学医学部付属病院、同年9月に千葉県立東金病院にそれぞれ開設。著書に『薬なしでも女性の血圧は下げられる!』『女性のためのコレステロールガイド』、編著に『漢方は女性の健康をたすける』など多数。最新刊は『女性外来のお医者さんが教える「更年期の苦痛」のやわらげ方』。
- いながき・ごろう
- 1973年東京生まれ。89年、NHK連続テレビ小説『青春家族』で俳優デビュー。最近の出演作に、NHK連続テレビ小説『スカーレット』、映画『半世界』『海辺の映画館—キネマの玉手箱』、舞台『No.9—不滅の旋律—』『もうラブソングは歌えない』、バラエティー『不可避研究中』、ラジオ『THE TRAD』『編集長 稲垣吾郎』、インターネット番組『7.2 新しい別の窓』など。9月18日、19年ぶりとなるフォトエッセイ『Blume(ブルーメ)』が発売される。