稲垣吾郎のGracefullyトーク
× 小泉今日子さん <PARTⅠ>
Special キャリア マインド
[ 20.10.28 ]
パイオニアはつらい?
いやいや、楽しいよ
その笑顔に、歌声に、輝かしい存在感に胸を躍らせ、勇気をもらった日々がありました。
そしてそれは、かたちを変えながら今も続いています。
歌手としてデビューし、その後、俳優として、クリエーターとして、数々の作品を届ける小泉今日子さん。
現代の大人女子のリーダーが、満を持してAging Gracefullyに登場!
アンバサダー・稲垣吾郎さんとの「体験的アイドル論」、じっくりとお楽しみください。
よくぞ生き残った、私たち
- 稲垣
- 人生ではじめてキョンキョンに会った日のこと、僕、今でも覚えてますよ。
- 小泉
- 私も、なんとなく。たぶんゲストで出ていた生放送のテレビ番組で、デビューしたてのSMAPが外の中継に出ていて……。
- 稲垣
- そうです、そうです。それで放送中にスタジオに帰ってきたら、スタジオに小泉さんがいて、「わぁー」って思った。
- 小泉
- レコード会社も同じだったんですよね。だからアルバムも、わりと初期のものから聴かせてもらっていたんです。私はもう大人になっていたけど、音をちゃんと作ろうという主義のレーベルだったから、SMAPの曲は楽しく聴けました。
- 稲垣
- ありがとうございます。うれしいなぁ。
- 小泉
- 俳優としての活動も、稲垣さんはけっこう早くから始めてましたよね。
- 稲垣
- そうですね。最初は14歳で、NHKの朝ドラ『青春家族』。今年、30年ぶりに『スカーレット』に出させていただいたんですが、すごく緊張しました。キャリア30年にしてはじめて、っていうくらい……。
- 小泉
- そうですか? すごくきちんと役に取り組んでいらっしゃるなぁ、って思いながら見てましたけど。
- 稲垣
- なんか僕、これまでは一種の「鈍感力」でやってきたように思うんです。アイドルって……っていうか、小泉さんを前にアイドルを自称するのは気がひけるんですけど(笑)。
- 小泉
- フフフ。
- 稲垣
- とにかく忙しすぎて、歌もダンスもお芝居も、完全には覚えられていないくらいで本番をやるのが当たり前になっていたので。
- 小泉
- それ、わかります。
- 稲垣
- やっぱりそうですか。僕らの場合はグループだったから、お互いに補いあえたし、ドラマの共演者の方々も寛容に合わせてくださったんですよね。でも、今回は時間があったのでちゃんと台詞を覚えていったら、逆に「間違えたらどうしよう」って、変に構えちゃって(笑)。
- 小泉
- 歌をやっていて、その合間にドラマとかバラエティーとかやっていたから、仕方なくもあったんですよね。人前で歌うのも日常的なことだから、いちいち緊張しなかったけど、そういえば私も『あまちゃん』の流れで紅白に出たとき、手が震えました。「普通に緊張しちゃってるよー!」って。
まあ、昔が異常だったんですよね。あるプロデューサーには、「この人、若い頃からものすごいストレスの中を生き延びてここまできたから、たいていのことは大丈夫よ!」って言われたなぁ。
- 稲垣
- 僕も、どこかの現場のスタッフの方に「自分が1週間、SMAPの生活を経験したら、たぶん死ぬと思います」って(笑)。
- 小泉
- どんなストレスも、エネルギーに変えていくしかなかったですからね。本当、頑張って生き残りましたよ、私たち。
個性の時代の先頭に立って
- 稲垣
- 僕、小泉さんのことでもうひとつ、すごく印象に残っているエピソードがあるんです。たぶん雑誌か何かで読んだと思うんですが、ある日突然、事務所に黙って髪を刈り上げちゃったっていう……。
- 小泉
- そうそう。たしか19歳くらいの頃、イギリス人のアーティストのレコードジャケットの写真を見ていいなと思って、美容院に持っていって、「こんなふうにしてください」って。「いいの?」「ぜんぜん」。
- 稲垣
- 驚きましたよ。そんなことが許されるんだ! って(笑)。でも、セルフプロデュースのできるアイドルだったんですよね、小泉さんは。こういうところが魅力なんだろうな、だからファンに、とくに同性に支持されるんだろうなと。
- 小泉
- その辺は、わりと早くから周囲に納得させていたんですよね。「ちゃんと仕事はするから」と。だって、私のほうがわかるんだから! って思ってたんですよ。レコードを買ってくれる子たちが何をカッコいいと思うか、何を面白いと思うか、年の近い私のほうがわかるに決まってんじゃん! と。私、けっこうビジネスマンなので。
- 稲垣
- すごいなぁ。しっかりしてる……。
僕はその点、やっぱりグループの一員でしたからね。求められるものをちゃんと出そう、そういう存在でいようという思いのほうが強かったかもしれません。グループも、ひとつの人格ですから。
- 小泉
- そうですよね。私はグループ活動の経験がなかったから、けっこう大変だったりもするのかな? と思ってました。
- 稲垣
- でも、期待を外さずにと思いながら、別に妥協するわけでなく、楽しくやってもこられたので……。そのぶん、ひとりのときはいろんな役に挑戦させてもらったり、小劇場でお芝居をやったりもして。そうしたバランスも、いま思うとよかったんじゃないかと思います。
- 小泉
- アイドルが自分たちの冠番組を持ったりすることって、たぶんSMAPの前にはなかったことでしょう? 私もたぶん、この世界の中ではパイオニアだったかもしれないけど、SMAPもまさに男性アイドルグループのパイオニアだったんだと思うんですよ。
- 稲垣
- うわぁ。小泉さんにそう言っていただけると、本当に感激……。
- 小泉
- 「新しい地図」になってからの活動を、私は具体的にはまだきちんと見たことがないんですが、その名前も含めて「やったな!」って、私はスカッとしたんですよね。ネーミングも素敵だし、先頭を走ってきた3人が、ここから何をしてくれるんだろう? と。
- 稲垣
- 大きな環境の変化ではあったんですけど、まあ、変わらざるを得なかったんだな、と思います。まだまだ、はじまったばかりなんですけど。
- 小泉
- テレビも芸能の世界もそうだけど、少しずつ古いものが終わりを告げている時代で、これからはもう本当に個々の時代になっていくと思う。その新しいかたちをいち早く見せてくれた感じがしたので、本当、これからの皆さんの活動を楽しみにしています。
夢を語るだけでは、終わりたくない
- 稲垣
- 今は作り手としても活動していて、舞台や映画のプロデュースを手掛けていらっしゃるんですよね。
- 小泉
- はい。会社を立ち上げてお芝居の制作をメインでやって、映画はまた別の会社を作って、そこにプロデューサー補として参加するかたちで。プロデューサーっていうと、なんとなく椅子に座って見物しているような姿を想像されがちなんですけど、私たちの場合は本当に人手が足りなくて。8月の末に公開した『ソワレ』(外山文治監督作)は和歌山でロケを行ったんですが、車で和歌山に入って、私が役者さんの送迎をやってました。
- 稲垣
- 小泉さんが送り迎え⁉︎ 役者さん、びっくりじゃないですか(笑)。
- 小泉
- 「コンビニ、寄りますか?」とか言ってね。運転、うまいんですよ。フフフ。クラウドファンディングのリターン商品を作ったり、そのお知らせをしたりするのも、全部私の仕事。舞台のプロデュースのときは、毎日、ちゃんとロビーに立ってます。
- 稲垣
- すごいな……。いつかやろうって、ずっと思っていらしたんですか?
- 小泉
- そうですね。もともと歌手の頃から、アルバムを作ったりコンサートをやったりするときに、自分でアイデアを出して、演出にも関わったりしていたので。その後、舞台にも出演するようになって、面白い人たちや若い人たちが世の中にはたくさんいることを知って、その人たちをちょっとでも紹介したい、そんな仕事がしたいなと思うようになったんです。
40代の頃から、そんな夢を周囲に語っていて、「50になったら、やります」ってずっと言ってた。で、実際に50歳になって、「これ、言ってるだけで終わったらカッコ悪いな」と。それで、会社を作って動き出したという感じですね。
- 稲垣
- 新しいことをやるのって、怖くなかったですか?
- 小泉
- うーん、自分が40歳になったとき、人生80年だとしたら、ちょうど今が折り返しなんだなと思ったんです。そうすると、案外、先に進むことに恐ろしさを感じなくなった、というか……。これまではおそるおそる前へ前へと歩いてきたけど、ここからは折り返しだから、一度来た道を帰るんだ、行き先もわかってるから怖くないんだって。ゆっくり、楽しみながら歩いていこうと。
- 稲垣
- そうかぁ……。僕は40代になっても、ぜんぜん感覚が変わらなくて。ずっとグループでやってきたこともあるし、どこか「40だから」って認めちゃいけないような気持ちもあったりして。
- 小泉
- へぇー、そうなんだ。
- 稲垣
- 自分自身では受け入れているけど、あんまり年齢を考えてもいけないし、周囲に意識させてもいけないのかな……っていう。
- 小泉
- でも、外から見た印象では、稲垣さんは精神的に年齢相応なのかなという感じですよ。趣味人というか、文学の香りもするし、若い頃から映画のエッセイを書いていたりして、そういうものにきちんと向き合う時間を持っている人なんだって。俳優としても、主役にこだわらずにやりはじめたのは、稲垣さんがいちばん早かったですよね。悪役とかも。
- 稲垣
- そうですね。マネジメントの手腕でもあったと思いますが、30代半ばくらいになって、ずっと主役をやっていくのも大変だし……と。もともと目立ちたいわけではないので、って言うと、なぜ芸能界に? って感じですけど(笑)。僕としては、ただただお芝居が好きで、その作品が好きだから。
- 小泉
- ですよね。だから、好きなこと、どんどんしたらいいと思う。私は早い段階で、自分のやりたいことと皆が求めているものは違うんだということを周りに言い聞かせちゃったところがあるんですが、稲垣さんが大人として新しい面を見せること、きっと皆が楽しみにしていると思います。
- (PARTⅡに続く)
撮影=三浦安間 取材&文=大谷道子
小泉今日子/ヘア&メイク=中野明海〈airnotes〉 スタイリング=青木千加子
稲垣吾郎/ヘア&メイク=金田順子 スタイリング=細見佳代
- こいずみ・きょうこ
- 1966年神奈川県生まれ。82年に歌手デビュー。音楽活動と並行してテレビドラマ、映画、舞台に出演。報知映画賞主演女優賞、芸術選奨文部科学大臣賞、紀伊國屋演劇賞個人賞など受賞多数。著書『黄色いマンション 黒い猫』では講談社エッセイ賞を受けた。プロデュースを手掛けた作品に、舞台『日の本一の大悪党』(演出、出演も)、『名人長二』『またここか』『後家安とその妹』、映画『ソワレ』など。
- いながき・ごろう
- 1973年東京生まれ。最近の出演作に、NHK連続テレビ小説『スカーレット』、映画『半世界』『海辺の映画館—キネマの玉手箱』、舞台『朗読劇 もうラブソングは歌えない』、バラエティー『不可避研究中』、ラジオ『THE TRAD』『編集長 稲垣吾郎』、配信番組『7.2 新しい別の窓』『誰かが、見ている』など。9月、フォトエッセイ『Blume』を発売。12月13日には再再演となる舞台『No.9—不滅の旋律—』が開幕。