Aging Gracefullyプロジェクト オンライン勉強会〈後編〉
多様化する職場・働き方、管理職に求められるスキルとは
Project report キャリア ヘルスケア ジェンダー
[ 20.11.24 ]
朝日新聞社と宝島社の女性誌「GLOW」による「Aging Gracefully」(以下、AG)プロジェクトは、40代、50代のAG世代の女性たちのエンパワーメントを目的に、企業向けの勉強会や一般の方向けのセミナーなど、様々な活動を展開しています。
10月16日には初めてオンラインで企業向けの勉強会を実施しました。講師には、大塚製薬ニュートラシューティカルズ事業部・女性の健康推進プロジェクトリーダーの西山和枝さん、ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵さんをお迎えし、「女性が長く働き続けられるために、男性管理職にできること」をテーマにご講演いただきました。
自動車、薬局、機械メーカーなど全国の40社超の人事やダイバーシティー、CSR、広報担当者ら約180人が聴講しました。
(前編はこちらから「男性管理職に知って欲しい、女性社員の健康課題とは」)
第二部ではワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室さんが、「ますます多様化する職場で、管理職に求められるスキルとは」と題して講演。社会の人口構成や市場のニーズ、人材マネジメントのスタイルが変わる中、管理職としてチーム全体でどう成果をあげていけばよいのかについて、自身のこれまでの歩みを振り返りながら語りました。
大学卒業後、化粧品会社勤務を経て、第1子の出産から3週間後に起業した小室さん。「ずっと、時間に制約がある中で働いてきました。夕方6時15分の保育園のお迎えに間に合うよう、残業ゼロ、有休消化100%で、ほぼ一貫して増収増益を続けています」と自己紹介しました。
小室さんは、日本企業が働き方を変えなくてはならない理由について、米ハーバード大学のデービッド・ブルーム教授が提唱する「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」という人口学の概念を使って説明しました。オーナスとは英語で「負荷・重荷」を意味します。
戦後から1990年代半ばまでの日本は「人口ボーナス期」。多数の若い働き手が、少数の高齢者を支えている構図です。経済は重工業の比率が高く、安く早く大量に、均一な物を生産することが求められていたため、体力があり、労働時間や勤務地に制約のない、男性ばかりの組織が成果を出しやすかったと小室さんは指摘しました。
翻って現在の人口オーナス期は
①若い働き手が少ない
②高齢者比率が高い
③社会全体の扶養負担が大きい
④社会保障制度維持が困難
という特徴があります。人件費が安い新興国との競争も激化し、より高付加価値でイノベーティブな製品やサービスが求められるようにもなっています。こうした状況下では、男女がともに短時間で効率よく、高い価値を生み出しながら働ける、多様性に満ちた組織にすることが不可欠だと小室さんは述べました。
企業がどれだけ組織改編に「本気」かどうかは、就活生もシビアに見ています。小室さんは、「女子学生は、女性管理職比率が2桁以上ある企業にしか、男子学生は、月の平均残業時間が20時間以下の企業にしか、エントリーシートを出さないと言われています」と指摘しました。
そして、若い働き手が減り、定年延長も広がる中、今後は育児中の社員に限らず、誰しもが何らかの制約の中で働くようになると、小室さんは語りました。
「親の介護。更年期などによる体調不良。病気や障害。定年延長や再雇用で短時間勤務をする人もいれば、終業後の時間を有効に使いたい人もいます。もはや、職場に『事情のない』社員は一人もいなくなると考えてください。マネジメント層は、多様な背景を持つ社員一人ひとりがモチベーションを高く保ち、安心して悩みを打ち明けられ、チームとして成果を出せるようにしていくことが欠かせません」
そして、そのための方法として、「結果の質」ではなく、「関係性の質」を高めるアプローチが有効ではないかと提案しました。これは、米・マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提案しているものです。
定量的な成果を追い求めるあまり、チーム内の雰囲気や関係性が悪化し、結果につながる様々な質が低下することを防ぐため、チーム内のコミュニケーションを円滑にしてメンバーの「心理的安全性」を高め、一人ひとりが自律的に考え、自発的に行動できるようにしていくというアプローチです。
小室さんは、1000社にコンサルする上で必ず導入してきた取り組みを紹介しました。一つ目は、朝一番にチーム全員がその日に取り組む業務を全体に共有し、終業時にどれだけできたかを振り返り、共有する「朝メール・夜メール」です。
「時間意識が磨かれる上、本業にどれだけ時間を割けたかを振り返るきっかけにもなります。ほかのメンバーが何をしているかも分かり、お互いにコメントもし合うため、自然にコミュニケーションが増えます」と小室さん。また、業務の開始や終了時には、自分や家族の体調や近況を共有する雑談タイムをもうけているそうです。
二つ目は定期的に実施している「カエル会議」です。チームの良いところを出し合った上で、今後取り組みたいこと、現在直面している課題や、やらなくてもいい業務や効率化できる業務などを洗い出し、変えていくためのアクションプランを、チーム全体で考えるそうです。
最後のQ&Aセッションでは、参加者から事前に寄せられた二つの質問に、大塚製薬の西山さんと小室さん、GLOW編集長の井下さんが答えました。
一つ目は、「女性社員とのコミュニケーションについて」。
小室さんは、「ご自身が何を話すかより、相手の話をどう聞くかを意識されるとよいのではないでしょうか」とアドバイス。また、相手が話しやすくなるように「いきなり私生活について尋ねるのではなく、これまでの仕事で一番成長できたと思ったことや、得意な分野など、仕事を中心に聞いていくと相手も答えやすいですし、説明の中でおのずと、私生活の話題も出てくると思います」と続けました。
西山さんは、男性上司が女性の健康相談に乗る難しさを解消する一つの案として、NPO法人「女性の健康とメノポーズ協会」が手がける「女性の健康検定」という事業を紹介。
女性のライフステージに合わせた働き方や、女性特有の健康課題についての知識を問うもので、合格すると「女性の健康推進員」や「女性の健康経営アドバイザー」などの資格を得られます。
「こうした資格を取り、『何か困ったら連絡を』と職場で周知すると、相談されやすくなるかもしれません。また、職場の保健師さんなど、いろんな相談窓口があることを周知することも重要です」と語りました。
9月に編集長に就任した井下さんは、部員時代からあえて失敗談を同僚と共有することを心がけてきたことを紹介しました。「 仕事で使うツールの中心が電話からメールに変わり、個々人が誰とどんなやりとりをしているのか、外から見えづらくなりました。失敗談を積極的に共有することで、『先輩も困っていたんだ』『相談してみよう』と、職場に安心感が生まれると思います」
もう一つの質問は、ホテル業界で働く女性管理職の方から寄せられました。女性特有の健康課題への対応と、ダイバーシティー施策を進める上で、女性だけが恩恵を受けているかのように、職場内で誤解されないようにするにはどうすればよいか、という内容でした。
これについて西山さんは、40歳以上の成人を対象に腹囲測定などを行う特定健診、いわゆる「メタボ健診」を例に説明しました。メタボリックシンドロームの該当者や予備軍は男性が女性よりもずっと多いことを挙げ、「性差によって、かかりやすい病気があることは事実です。職場に女性がいる以上、女性の健康課題に対応する必要があるとメッセージを打ち出すことは、ダイバーシティー推進の観点からも大事だと思います」と語りました。
小室さんは、「ダイバーシティーは、ジェンダーフリーのような意味合いで使われることもありますが、本質は『個の良さを最大化する』という点だと思います。企業には、『職場のルールはこうだから守ってね』ではなく、個々の社員の事情をふまえ、力を最大限に発揮できるように支援することが求められています。その中には女性の健康課題への対応も含まれるのではないでしょうか」と指摘。自社では、ランチタイムに更年期をテーマにしたオンラインのお茶会などを開催し、悩みを打ち明けやすい風土づくりに努めていることを紹介しました。
ご参加いただいた皆様、講師の西山様、小室様、ありがとうございました!