Dr.HisamichiのKeep on Walkin’ Vol.5
年配の女性に骨折が多いのはなぜ?
Special ヘルスケア 更年期 ライフスタイル
[ 20.11.30 ]
更年期にともなう6つの足の痛み、前回に続き、今回は残りの3つを見ていきましょう。
● 骨粗しょう症と足の甲の痛み
更年期に始まり、その後の女性の人生と運動機能に大きく影響するのが、骨粗しょう症です。エストロゲン(女性ホルモン)は、骨の破壊と再生のサイクルをつかさどっているのですが、更年期を境に分泌が急速に減ることで、このサイクルがうまく回せなくなり、骨がスカスカになってしまうのです。
20~30代が骨の強さの最盛期だとすると、更年期には3~5割、骨密度が低下します。最も急速に骨がもろくなるのは、閉経から5、6年の間です。年配の男女を比べた際、女性の方が骨折が多いのは、男性は元々の骨量が多いことに加え、エストロゲンの減り方が女性より緩やかなことが考えられます。
骨粗しょう症に影響するほかの要因は、ご家族の既往歴や喫煙習慣、やせすぎ、カルシウムやビタミンDの摂取不足、お酒やカフェイン入り飲料の飲みすぎ、ステロイドの内服などがあります。
アメリカの研究では、閉経後の骨粗しょう症と、足の甲部分にあたる「中足骨」の骨折との関連が指摘されています。強い衝撃ではなく、歩行のような日常的な軽度の刺激が繰り返されることで起こる、疲労骨折の一種です。アスファルトやコンクリートのような硬い地面を歩くことが増えた現代人に、加齢でもろくなった中足骨が荷重に耐えられずに起きるのではないかと考えられています。
● 外反母趾
外反母趾(ぼし)は代表的な足の変形で、中年女性の7割が経験しているとも言われています。
①ハイヒールのようにかかとが高く、前足に荷重がかかり、先の狭い形の靴をはくことが多いこと
②更年期にエストロゲンの分泌が減って腱がゆるみ、足の前の部分がつぶれること
などにより、年々変形が強まってしまうのです。外反母趾の多くは扁平(へんぺい)足を伴い、親指の付け根部分の骨が、内向きに回転しながら広がっていきます。
対策は、インソールや外反母趾パッドで親指をまっすぐにすることです。扁平足は、インソールでアーチをサポートします。一日の終わりにアイシングで炎症を防いだり、時にはハイヒールを休んでスニーカーをはいたりすることも有効です。
炎症が強い場合はステロイドの局所注射をすることもありますが、それでも痛みが強く、変形がひどいようであれば、外科手術となります。程度によって術式も変わりますが、1週間以内の入院で済むことがほとんどです。
● 皮膚の亀裂
エストロゲンが減ると、皮膚の保湿機能も低下します。踵(かかと)がひび割れ、「乾燥地帯」のようになっている人も多いのではないでしょうか。ひどい場合は深い亀裂が入り、ひどく痛みます。
大切なことは、十分な保湿です。角質を柔らかくする作用のある「尿素軟膏」や「サリチル酸軟膏」を使用するとよいでしょう。乾燥だけでなく、皮膚に赤みが出たり、皮がむけたりしているなどの炎症を伴う場合、保湿だけでは改善しないため、皮膚科を受診することを強くおすすめします。
皮膚の一部が厚くなってタコになっていたり、角化が強くなっていたりする場合は、目の細かい足用のやすりで削るのもよいでしょう。
ただし、削りすぎて傷を作らないように注意してください。糖尿病の持病がある方は、自分で削らず、専門医療機関に相談してください。わずかな傷から容易に感染を起こしやすく、特に足の虚血を伴う患者さんでは最悪の場合、切断にいたることもありますので要注意です。
今は「人生100年時代」です。当然ながら、人生の中での「更年期」の意味合いも、以前とは変わってきています。足のケアをしっかりして、更年期も軽やかに乗り切り、ゆとりと楽しみのあふれる時間を満喫したいですね。
- 久道勝也(ひさみち・かつや)
医療法人社団青泉会下北沢病院理事長・ロート製薬最高医学責任者。
1964年、静岡県生まれ。93年、獨協医科大学卒業。同年に順天堂大学皮膚科入局。2007年、米国ジョンズ・ホプキンス大学客員助教授、11年、ヤンセンファーマ研究開発本部免疫担当部長。虎の門病院皮膚科勤務、アラガン社執行役員メディカルアフェアーズ本部長を経て、14年からロート製薬研究開発本部執行役員、16年から下北沢病院理事長を兼務。
日本皮膚科学会認定専門医、アメリカ皮膚科学会上級会員、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」プログラムオフィサー。著書に『死ぬまで歩きたい!―人生100年時代と足病医学』(大和書房)。『ガイアの夜明け』(テレビ東京)など多数メディア出演。