稲垣吾郎のGracefullyトーク
× クリス-ウェブ佳子さん <PARTⅠ>
Special キャリア マインド ファッション 音楽 インテリア
[ 20.12.25 ]
時間は有限。
でも、可能性は無限に広げられる
いまの自分が、いつより、ずっと自分らしい。
そんな生き方を模索し、実践してきた女性がいます。
モデルとして活躍し、現在は文筆業やファッション、インテリアなど幅広い分野でも才能を発揮しているクリス-ウェブ佳子さん。
見る人を虜にするセンスは、いったい彼女の中でどんなふうに培われたのか?
その半生を、Aging Gracefullyプロジェクトアンバサダー・稲垣吾郎さんが紐解きます。
まず「やります!」と言ってみる
- 稲垣
- はじめまして、稲垣吾郎です。
- 佳子
- はじめまして……なんですが、実は近いところで少し。私の長女(女優・新音〈にのん〉さん)が、映画『まく子』で草彅剛さんと共演させていただいたんです。
- 稲垣
- ああ、あのヒロインの。そうだったんですか。すごく存在感のある方でした。
- 佳子
- 今は高校1年生になったんですが、稲垣さんも若い頃から仕事を始められたんですよね。
- 稲垣
- 僕は14歳でした。平成元年の、NHKの朝ドラ(朝の連続テレビ小説『青春家族』)が最初で。そうか、同じ年頃か。僕はそこでお芝居が面白いなぁと思って、開けた道が今につながっているので、娘さんにもぜひ頑張っていただきたいですね。
- 佳子
- 収入を得るようになったのも、その頃からですか?
- 稲垣
- そうですね。14歳の頃からかなり稼いで……というのは冗談ですけど(笑)。びっくりするんですよね、10代でお金が入ってくると。
- 佳子
- 娘はすぐ貯金していました。今年、コロナのことで国から特別定額給付金が支給されたときも「どうするの?」と訊いたら、「貯金でしょ!」って。でも次女が「使わなきゃだめだよ、地元に還元しないと」と言って。
- 稲垣
- 偉いなぁ。僕なんか「いいワイン、買っちゃおうかな」なんて思ってたのに。
- 佳子
- フフフ。なぜだか、しっかりしているんです。
- 稲垣
- お子さんたちを育てながら、ご自身でもいろいろなことをなさっているんですよね。モデル、コラムニスト、ラジオパーソナリティー……。
- 佳子
- 最近、インテリアスタイリストの仕事も始めたんです。
- 稲垣
- インテリア、いいですね。僕、興味あります。大好きで。
- 佳子
- 男性の方は凝り性な方が多いですよね。家具のコレクターも多いし。もともと、父が建築士だったので、建物を含めて、空間にものを配置することを考えるのが子どもの頃から好きだったんです。家のインテリアをインスタグラムで発信していたら、それをきっかけに「レストランの内装をしませんか?」というお声がかかって。それが最初の大きな仕事になりました。
- 稲垣
- へえー。
- 佳子
- 最近、マンションの棟内モデルのスタイリングを手掛けたんですが、空間をコーディネートするために3Dパース(立体の透視図)を描かなくちゃいけなくて。普通は学校で習ってすることを、ソフトウェアをダウンロードして、2カ月で習得しました。
- 稲垣
- すごいですね。
- 佳子
- 何か課題を与えられると、いつも「やります!」と言ってしまうんです。「できます」じゃないのは、できないことまで引き受けちゃうから。やりますと言って、そこからどうにかしようと、すごく足掻く。どの仕事もそうなんですが、きっとそういう状態が好きなんですね。負けず嫌いで、それを続けて40年……という感じです。
ひとつのことをやめるのは、次の扉を叩くこと
- 稲垣
- 立派だなぁ。僕なんかすぐ「まあ、いいや……」って思っちゃう(笑)。最初にやったお仕事は何だったんですか?
- 佳子
- 仕事、というか、18歳でニューヨークに行ったんです。ニューヨークハードコアに夢中になって、向こうで音楽のPRをやりはじめて。
- 稲垣
- へえー、音楽を。
- 佳子
- とても激しいパンクロックなんですけど、友だちの家でレコードに針を落とした瞬間、ズン! とハマったのが、自分でもわかりました。どうしても生で見たい、聴きたい、その一心で……。1998年、まだオンラインで音楽を聴くこともできない時代でしたから。
- 稲垣
- 周囲からは止められませんでしたか?
- 佳子
- 父は「したいことは何でもしていい。その代わり、責任は全部自分で取れ」と。仕送りもないので、本当に貧乏で、ビーチで野宿していたこともあったりして。
- 稲垣
- えーっ!
- 佳子
- ですよね。いま自分の子どもが同じことをやりたいって言ったら、全力で止めます(笑)。でも4年半、好きなことだけを糧に生きていたあの頃は、本当に楽しかったし、充実していました。
- 稲垣
- 帰国したのは、やり尽くした感があったから?
- 佳子
- そうですね。音楽のPRだけでは食べていけなかったので、同時にお洋服のオーダーメイドの店で働いていて、そこでファッションに出合って。最終的には、バイヤーの仕事を得てから帰国しました。小さなお店だったので、生地を買ったり、お客さんの採寸をしたり、いろんなスキルを身につけることができたので。
- 稲垣
- たくましいなぁ。でも、僕もそうでしたけど、予想外のことでも、挑戦すれば必ずスキルが身につくんですよね。だから、結果、よかったんじゃないかと思うことが多い。
- 佳子
- ええ。24歳で結婚して、長女が生まれて、翌年に次女が生まれて、4年間は専業主婦をしました。それはそれでプロフェッショナルになろうと思って向き合えたんですが、周囲の友人たちがちょうどキャリアを積んでいる時期だったので、置いていかれるなぁという思いも、正直あって。
- 稲垣
- そうか……。
- 佳子
- 次女が幼稚園に入って、またファッションの業界に戻ろうと思っていたところで、モデルのお仕事のオファーをいただいたんです。それが30歳のとき。
- 稲垣
- 30歳まででも、相当濃いですね。
- 佳子
- フフフ。でも、もともとはすごく飽き性で、そんな自分が嫌でした。子どもの頃は習いごとも塾もすぐやめちゃったし、大学も中退してしまったし。仕事も、モデルの仕事を始めるまではずっと点々としていたところがあって。「やめる」は英語で「quit」で、やめグセがついている人のことは「quitter」って言うんですが、自分はいつもそうなんだなぁと。だから稲垣さんのように、芸能というひとつの世界でずっとやってこられた方は、本当にすごいなぁと思うんです。
- 稲垣
- いやいや、僕には逆に、ひとつの世界しか見られていないんじゃないかという気持ちがありますよ。それに、歌でもお芝居でも、その道を突き詰めている人と比べたら、バランスというか、どれも70パーセントくらいの力でやってきたわけだから、ぜんぜんかなわないなぁって。そうでなければ、無理だったしね。でもまあ、いろんな仕事をして、たくさんの人に出会って多くの経験ができたことは、財産になったんじゃないかなと。
- 佳子
- そうですよね。
- 稲垣
- それに、もし何かをやめるとしても、それは次のステージに呼ばれたから……ということもあるんじゃないですか? どこが終わりか、完成かは、誰にもわからないことだし。
- 佳子
- 稲垣さんと同じようなことを言ってくれた人が周囲にいて、そのことが、すごく助けになりました。何かが終わるということは、何かの始まりでもあるんだよ、って。
「忙しい」に逃げない。暇に溺れない
- 稲垣
- しかし、これだけいろんなことをなさっていると、忙しいでしょう?
- 佳子
- そうですね。ある時期は本当に寝る時間もなくて、家事をして夕方から出かける仕事にも泣きながら行くくらいメンタルがやられていたんですが、そのとき、ある本で〈いちばん忙しい人間が、いちばん多くの時間を持つ〉という言葉に出合ったんです(19世紀のスイスの神学者、アレクサンドル・ヴィネの言葉)。それに触れたとき、自分がいかにうまく時間を使えていないかということに気づかされて……。
- 稲垣
- うーん。
- 佳子
- 1日が36時間ならいいのに! と思って、いつも時間が足りないせいにしていたんですが、結局は自分が配分できていなかっただけなんだな、と。それからは、いわゆる「寝てない自慢」をピタッとやめました。すごく格好悪いことだと思えて。
- 稲垣
- たしかに、時間って本人次第のところ、ありますよね。僕も、グループをやっていたときは、とにかく毎日忙しくて。でも、いまこうして環境を変えて時間に余裕がある日々を送っていると、逆にちょっと、時間に溺れちゃっていて。生簀(いけす)の中で飼われていたメダカが大海原に出て、「わぁー、広い!」みたいな。
- 佳子
- アハハ!
- 稲垣
- 忙しくないと、逆に不安になったりね。わがままにもなりそうだし。でも、大人になれば誰でも働き方は変わってくるもので、これまで忙しかったおかげで時間を器用に使うやり方が身についたわけだから……。もともと趣味が多いほうなので、個人的には、いまの時間的余裕を楽しめてます。とくに今年は、ステイホームで家にいる時間が長かったから、毎日をいかにコントロールするか、そのことに向き合った人は多かったんじゃないでしょうか。
- 佳子
- そうですね。私はステイホームの期間は2カ月くらいかな? と予想していたので、その間に自分でやれることをやろうと思いました。自粛生活明けに体形が崩れたり体力が落ちたりしないように、トレーニングをして、オンラインの仕事が増えたので動画の編集を学んで……。
- 稲垣
- すごい。また頑張っていらっしゃる。
- 佳子
- アイデアは、いつもたくさん持つようにしています。モデルの仕事も、30歳から始めるとどうしても時間的に終わりが見えているので、それまでに別のスキルを身につけなくちゃなと思っていたので。
- 稲垣
- クリス-ウェブさんには、70パーセントでやるなんて感覚、きっと一生ないんだろうな。
- 佳子
- あ、でも家では全然。家族はやっぱり、自分にとっては唯一甘えられる存在なので。完璧なお母さんになることは早々に諦めて、「ママったら……」と思ってもらえるのが楽だなと。
- 稲垣
- ハハハ、そうなんだ。
- 佳子
- そのほうが子どももしっかりするんじゃないかな? と。だから、家の中では70パーセントですね。
- (PARTⅡに続く)
撮影=三浦安間 取材&文=大谷道子
クリス-ウェブ佳子/ヘア&メイク=森野友香子 スタイリング=安西こずえ
稲垣吾郎/ヘア&メイク=金田順子 スタイリング=細見佳代
- クリス-ウェブ・よしこ
- 1979年島根県生まれ。大阪で育つ。2011年より雑誌『VERY』のモデルを務め、多くの女性読者の支持を獲得。その後、コラムやエッセイの執筆、ラジオ番組のパーソナリティー、インテリアやファッション分野での空間・商品プロデュースなど、さまざまなジャンルに活動の場を広げる。著書に『考える女』『TRIP with KIDS-こありっぷ-』。公式インスタグラム(@tokyodame)のコーディネートやインテリアも注目の的。
- いながき・ごろう
- 1973年東京生まれ。最近の出演作にNHK連続テレビ小説『スカーレット』、映画『ばるぼら』『半世界』、舞台『朗読劇 もうラブソングは歌えない』、バラエティー『不可避研究中』、ラジオ『THE TRAD』『編集長 稲垣吾郎』、配信番組『7.2 新しい別の窓』『誰かが、見ている』など。フォトエッセイ『Blume』が好評発売中。2020年12月13日〜21年1月7日、東京・TBS赤坂ACTシアターで舞台『No.9—不滅の旋律—』に出演。