Dr.HisamichiのKeep on Walkin’ Vol.6
あなどれない「しもやけ」
Special ヘルスケア ライフスタイル
[ 20.12.28 ]
「かきねの かきねの まがりかど」という童謡を覚えていますか? そう、「たきび」ですね。
1941年に発表され、NHKラジオの「幼児の時間」という番組で12月9日から放送されましたが、わずか2日間で中止されました。なぜか? 12月8日の真珠湾攻撃で太平洋戦争が始まったからです。翌日、「たきび」がオンエアされたところ、軍部から「非常時にたき火とは何事か」「資源の無駄づかいだ」などと抗議を受け、中止になったそうです。
ところで、「たきび」の2番の歌詞を覚えているでしょうか。「あたろうか あたろうよ しもやけ おててが もうかゆい」。
というわけで今回は、冬場に多い「しもやけ」についてお話しします。医学用語では「凍瘡(とうそう)」といいます。
一日の気温差が大きくなると、しもやけを起こしやすくなります。反復する寒冷刺激により、末梢血管が収縮とうっ血を繰り返し、皮膚に炎症が起こると推測されていますが、原因はもう一つよく分かっていません。同じように寒気に当たっても、しもやけになりやすい人となりにくい人がいます。冷気にさらされた後の血流障害の程度と、そこからの回復には、遺伝的な差があるのでしょう。
しもやけは子どもだけではなく、大人の、特に女性によくみられる症状です。AG世代にもひとごとではありません。しもやけは、血流の終点である四肢の末端にできるため、手足を中心に、時には耳や鼻にもできます。皮膚が赤紫色にはれ、かゆみや痛みを伴うこともあります。ひどい場合は皮膚に亀裂が入り、水疱(すいほう)や潰瘍(かいよう)ができます。長引く場合は膠原病(こうげんびょう)や肝炎、血液疾患などが原因のこともあるため、実はあなどれない症状なのです。
加えて、現在も猛威を振るう新型コロナウイルス感染症の皮膚症状の一つに、しもやけのような症状があると言うと、さらに怖がらせてしまうでしょうか。
新型コロナウイルスは血管を攻撃することが分かっています。攻撃された血管は、自らを修復させようと血栓(血のかたまり)を作ります。これが血管に詰まって血液の巡りが悪くなると、しもやけに似た皮膚症状を起こすことがあるのです。
このように、なかなか治りにくい、あるいは症状の強いしもやけは、念のために病院で診てもらった方がよいかもしれません。治療は、まず何といっても防寒です。
足のしもやけには保温タイプの靴下を。また、入浴でしっかり温め、入浴後は血流の改善作用があるビタミンE入りの保湿剤でマッサージしてください。たばこも厳禁です。末梢血管を収縮させますからね。病院での治療としては、ステロイドの外用や、ひどい場合は血管拡張薬を使うこともあります。
ところで、1941年12月8日の東京の天気予報は晴れで、気温は最低2度、最高13度でした。しかし、この予報を当時の市民が知ることはありませんでした。開戦を境に天気予報は軍事機密扱いとなり、新聞やラジオで公開されなくなったからです。天気予報が再開したのは1945年。敗戦の1週間後からだったそうです。
- 久道勝也(ひさみち・かつや)
医療法人社団青泉会下北沢病院理事長・ロート製薬最高医学責任者。
1964年、静岡県生まれ。93年、獨協医科大学卒業。同年に順天堂大学皮膚科入局。2007年、米国ジョンズ・ホプキンス大学客員助教授、11年、ヤンセンファーマ研究開発本部免疫担当部長。虎の門病院皮膚科勤務、アラガン社執行役員メディカルアフェアーズ本部長を経て、14年からロート製薬研究開発本部執行役員、16年から下北沢病院理事長を兼務。
日本皮膚科学会認定専門医、アメリカ皮膚科学会上級会員、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」プログラムオフィサー。著書に『死ぬまで歩きたい!―人生100年時代と足病医学』(大和書房)。『ガイアの夜明け』(テレビ東京)など多数メディア出演。