初のエッセー集を出版した鈴木保奈美さん<前編>
ケリーバッグも老眼も、ユーモアたっぷりに
Special マインド ライフスタイル ヘルスケア キャリア
[ 21.01.25 ]
俳優の鈴木保奈美さんが、初のエッセー集『獅子座、A型、丙午。』(中央公論新社)を出版しました。
女性誌「婦人公論」で連載している3年分のエッセーをまとめたもので、暮らしや趣味の旅行、家族、友人とのエピソードなどがつづられています。生活者としての視点と、ユーモアたっぷりの文章には、40代、50代のAging Gracefully世代が共感できるポイントがたくさんありました。
インパクトのあるタイトルは、自分で決めた。
丙午の同級生には、小泉今日子さんや斉藤由貴さんらがいる。皆、長年活躍している個性派ばかりだ。
生まれ年に対する思いを尋ねると「ありますね、やっぱり。子どもの頃から言われてきましたし。強いイメージというか。あと、受験の時は『競争相手が少なくていいね』って」。星占いでは獅子座生まれはアピール力が強い。血液型占いだとA型は几帳面といわれる。それら「全部あわさったのが私」なのだ。
今年でデビューから35年になる。20代は大ヒットドラマに数多く出演。30代は3人の娘の子育てに奮闘。40代で仕事に復帰してからは、再就職を目指す主婦や、弁護士事務所のすご腕所長、25年間眠ったままの娘を待ち続ける母親など、幅広い役柄を演じてきた。忙しい日々であることは疑いないが、原稿の締め切りに遅れたことは一度もないそうだ。
「最初の頃は頑張ってネタを探して、オチをどうするかも悩んでいたんですけど、今は移動中やお風呂の時間に、何となく面白そうな話題を、自分の中で、ああでもない、こうでもない、と考えています。そして、見つけたテーマに関連することを思い出したり、周りの人に『どう思う?』って聞いてみたり。そのうち話が広がって、断片的な文章がいくつか浮かんできて。書き出しを決めたら2時間くらいで書きあげますね」
何ともうらやましい才能だが、実は作文は小学生の頃から得意だった。オイルショックの頃も、紙不足という世情などどこ吹く風で、原稿用紙を何枚も使っては、週末のお出かけ先や食事のメニューをこと細かに書き連ねていた。そんな少女が大人になり、演じることをなりわいとするようになったからなのか、エッセーは時に短編映画のようだ。旅情や食欲をかきたてられる回あり、サスペンス風の回あり……
AG世代の共感ポイントは、年齢を重ねていくことについての様々なエピソードかもしれない。「Aging Gracefully」と同じ『優雅に年をとるために』というエッセーは、30歳で思い切って購入したエルメスのケリーバッグを長らく大事にしまいこみ、50代になって「そろそろ……」と取り出したときの違和感がつづられている。
《うわあ、ダメじゃん。歳月重ねなきゃいけないのに、袋にしまって神棚に上げておいちゃあ、バッグと人間の年齢が揃わないじゃん。(中略)きっと、バッグと自分を、育てなければいけないのだ。三十歳の自分には不釣り合いでも、ちょっとくらい場違いな思いをしても、使ってこなくちゃいけなかったのだ。格好悪い時間を共に過ごすからこそ、気が付いたらバッグと自分がお互いにふさわしく成長しているはずだったのだ。》
『失くしもの』では、老眼をめぐる悲喜こもごもが語られている。
《ある日、薬や調味料の箱の裏書が読めなくなって、はじめは何が起こったのかわからなかった。それからシャンプーの裏の素敵な効能が読めない。しっとりなのか、サラサラなのか?(中略)何事も意味があってのことだと前向きに捉える私は、老眼でさえもきっと人類に必要な機能なのだと思うことにしている。つまりさ、見えないものは、見なくてもいいものなんだよ。年をとったら、細かいことにとらわれていてはいけないのだよ。》
「1300字あると、それなりに書けますよね。ぼけたり、つっこんだりとか。仕事柄、インタビューを受けて記事になると、『そう言いたかったわけじゃないんだよなぁ』と思うことが時々、あったんです。だったら自分で書いた方が早いわ、というのも執筆のモチベーションになっているかも知れません」と鈴木さん。
ちなみに、つっこむ相手は自分自身だけではなく、広く社会の話題も。
その話は、後編で。
撮影=伊ケ崎忍 取材・文=朝日新聞社Aging Gracefullyプロジェクトリーダー・前田育穂
- 鈴木 保奈美 Honami Suzuki
- 1966年、東京生まれ。1986年にデビューし、TVドラマや映画を中心に活動。20代からファッション誌などでエッセーを執筆。本書が初の書籍化となる。映画『おとなの事情 スマホをのぞいたら』(https://www.otonanojijo.jp/)が2021年1月8日より公開。