初のエッセー集を出版した鈴木保奈美さん<後編>
若い人が言いにくいこと、もっとがんがん言っていい
Special マインド ジェンダー キャリア ライフスタイル 子育て
[ 21.01.25 ]
俳優の鈴木保奈美さんがにとって初のエッセー集『獅子座、A型、丙午。』(中央公論新社)。
あとがきには、「怒っている話」と「とほほな話」が半分ずつ、とあります。その中でも、ジェンダー問題をめぐる考察は、うなずきたくなることばかり。後編では、「若い人が言えないことを代わりに言ってあげたい」という鈴木さんの思いを紹介します。
(前編はコチラから)
予定のない朝は、家族を送り出したあと、新聞紙を広げて朝食をとる。
「ニュースからテーマを見つけることもあります。ジェンダーの問題は、自分の中にいったん落とし込んでから、思うところを広げていく感じですね。まだ答えが見えない話だと思いますし、私自身も『こうすべきだ』と主張したいわけじゃないんですけど、黙ってやりすごすことはできないなって」
『誠実な隕石』というエッセーでは、とある商品の宣伝イベントを伝える記事を取り上げた。登壇した男性俳優が、共演者の若い女性に「結構、胸大きいですよね」と言ったことがそのまま報じられていたことについて、こう書いている。
《相手の女優さんがその言葉をどうとったかもわからないし、他の参加者がどんな反応をしたのかスルーしたのか、も、わからない。ただ、今のアメリカだったらアウトでしょうね、と思えるこの発言を何の懸念もなしに(文脈からそう取れる)「イベントは盛況だった」と面白そうにまとめた記事の、その無頓着さにあきれてしまうのだ。》
「私自身も、振り返ってみれば、こういうことってあったんですよね。ただ20代の頃は、それがセクハラなのかどうか分からなかったから、やり過ごしてきた。無知だったのもあると思います。でも、今はそれをテーブルの上に上げて、話し合えるようになってきた。だからもう、『分からなかった』では済まされない。特に私たちや、私たちより上の先輩たちは、もっとがんがん言っていいんじゃないかなと思うんですよね。女性だけじゃなく、男性も。気づいている人が、気づいていない人に、『こういうことってありますよ』ってお知らせするというか。何十年か余分に生きてきたことが、問題解決に役立つのであれば、いくらでも力になりたいし、年を重ねていくにつれて、若い人の助けになる、言いにくいこと、言えないことを代わりに言ってあげる、という役目はあるんじゃないかなと思っています」
『皿洗いは好きですか』というエッセーでは、「息子のガールフレンドが遊びに来た際、手際よくお皿を洗ってくれた」というママ友との会話から、女性の家事力と結婚の関係性について考えている。
《家に帰って娘が洗ってくれたお皿を見たら、水切りかごに大きさ順に整然と並んでいた。ああよかった。と、安心しつつ、あれ? と思った。私たち、前時代的なこと言ってる? お皿を洗ってくれたからいいお嬢さんだという話じゃあない。その洗い方に、彼女の才覚、俊敏さが表れていて、息子と一緒に人生の荒波を上手に泳いでくれそうな気がすると友人は言いたかったのだ。それでも、やっぱり。ワンオペ育児の不条理に怒り、女性をもっと活躍させるべし、と唱えながら、一方で私たち自身が無意識に、女の子=お嫁ちゃんを家事の手際の良さで評価している?》
『両立しながら活躍すること』のエッセーは、新内閣発足時の記念撮影で女性が少ないことを取り上げた。3人の娘を育てながら俳優業を続ける中で、自身によく向けられる、「どう両立しているのですか?」という質問への違和感もつづっている。
《「両立」? しているのかできているのか、ぜんぜんわからない。家事をする時間、ということなら、ある日は百で、ある日はゼロだ。(中略)外で働く女は両立させねばならない、という紋切り型の思考から抜け出したいよ、いい加減。その方法はきっと色々あるけれど、ひな壇にたくさんの女性が並ぶってのもひとつのわかりやすいアイディアなんじゃないかと思うのだ。》
末娘は大学生になった。
子どもに手がかからなくなり、自分の時間が増えることについて、鈴木さんは「早くそうなって欲しいです。掃除などの家事も、主婦だからやっていたのか、好きでやっていたのかを見極めていく時期かも知れない。自分にとっての必要なものとそうじゃないものが見えてくるのかなあ。もう少ししたら『これはもうやめちゃおうかな』というものが見えてくるかも知れません」と笑った。
コロナ禍でドラマの撮影が止まるなど、大きな変化に直面した2020年。子どもたちも大学に通えない時期が続き、「GoToで旅行はできるのに、大学生が大学に通えないなんて、逆じゃないのかな」と思ったという。
ただ、「色んな予定が狂って、大変なこともいっぱいありましたけど、つらかったことはあまり見ずに、良かったこと、面白かったことを記憶にとどめていきたい」と前を向く。
新年は何に取り組みますか?
「習っている中国語や、このエッセー、お芝居もそうですけれど、新しく始めるというよりは、これまで取り組んできたことに、新たな気持ちで、新たな視点で、新しいアプローチを試していきたいですね」
撮影=伊ケ崎忍 取材・文=朝日新聞社Aging Gracefullyプロジェクトリーダー・前田育穂
- 鈴木 保奈美 Honami Suzuki
- 1966年、東京生まれ。1986年にデビューし、TVドラマや映画を中心に活動。20代からファッション誌などでエッセーを執筆。本書が初の書籍化となる。映画『おとなの事情 スマホをのぞいたら』(https://www.otonanojijo.jp/)が2021年1月8日より公開。