Dr.HisamichiのKeep on Walkin’ Vol.7
運動不足解消に、キビキビ散歩のススメ
Special ヘルスケア スポーツ ハウツー
[ 21.03.22 ]
首都圏の緊急事態宣言は終わりましたが、いまだに世界中が新型コロナに右往左往する日々です。外出自粛やリモートワークが増え、中高年の歩行量が大きく減っています。もしかしたら、高齢者よりも運動量が減っている可能性すらあります。来院される患者さんにも「とにかく太ってしまって」と訴える方が少なくありません。
「運動不足解消のため、ジョギングでもしようと思うのですが、注意することはありますか」という質問も受けます。ですがまず、いきなりのジョギングはお勧めしません。出不精になり、体重が増えただけでなく、筋力も落ちている可能性があるためです。おすすめは「brisk walk」、要は「キビキビ散歩」です。歩行は最もケガの少ないエクササイズなのです。その際の注意は3点。
①靴選び
②靴の履き方
③準備のストレッチ
です。これらを無視すると、歩行とはいえ、故障につながりかねません。
まずは靴選びのポイントです。何より、足のサイズに合っていることが大切です。かかとをきちんと合わせたうえで、つま先に1~1.5cmのゆとりがあること。指先はもちろん、指の背部や側部も当たらない、空間的ゆとりがあること。かかともしっかりとしたつくりで、足首をきちんとホールドすること。ふにゃふにゃはダメです。
次に、歩行機能をしっかりサポートするポイントを押さえているかどうかもチェックが必要です。私たちが一歩前に踏み出す時は、足の指の付け根が曲がって蹴り出します。靴は、この指の付け根に合った部位が曲がるように設計されている必要があります。逆に言えば、他の部位は硬く、しっかりとした靴底である必要があるのです。
この部位が一致していないと、疲れやすくなったり、タコができたりと、トラブルを引き起こす可能性があります。靴ひもやマジックテープなどで、足の甲をしっかり固定できるタイプであることも重要です。固定の利かないスリッポンタイプはおすすめしません。
最後に大切なのは、試着したら歩いてみることです。座位だけで選ぶのは厳禁です。足は立ち上がって体重がかかると、縦横に伸びます。歩行をすると、より荷重が増えるので、さらに伸びます。歩きながらで、足の指やくるぶしが靴に当たっていないか、痛みは出ないか、曲がるべきところが曲がっているか、などを初めて確認できるのです。
次は、正しい履き方についてお話しします。靴を履いたらまず、かかとでトントンと地面をたたき、かかとの位置を合わせます。爪先のゆとりと、かかとのフィット感を確認したら、靴ひもをつま先側から結びましょう。一番上だけギュッと締める人が多いのですが、その手前までしっかり締めて、最後は適度に締めるのがポイントです。
フィットした靴を選び、きちんと靴が履けたら「さあ出発だ!」と言いたくなるところですが、もう一呼吸おいて、ストレッチです。色々言われると面倒くさくなってしまうかもしれないので、最も大事なアキレス腱だけは必ず伸ばしましょう。ふくらはぎのふくらみを作る下腿(かたい)三頭筋と、かかとの骨をつなぐ、人体最大の腱です。
アキレス腱の柔軟性は、スムースな歩行の要です。ここが固いと、二つの問題が起こります。
一つは歩行時に、足のアーチに負荷がかかること。足の裏は平たんではなく、真ん中がへこんだアーチ構造になっており、これが全体重を支えて歩行時の衝撃を和らげ、蹴り出す時の推進力を高めています。アキレス腱が固いと、アーチに負荷がかかり、構造が崩れてしまいます。これが、外反母趾や扁平(へんぺい)足など、トラブルを伴う変形を引き起こすのです。
二つ目は、下肢の血流低下につながることです。ふくらはぎは「第二の心臓」ともいわれ、その筋肉の伸縮がポンプ作用となって、静脈血を心臓に戻すための原動力となります。アキレス腱が固くなると、下腿三頭筋がしっかりと使われにくくなり、ふくらはぎのポンプ作用が低下します。これが冷えや、むくみ、こむら返りなどの原因となります。
さて、ストレッチの方法です。壁の前に立ち、両手を壁にあてます。次に、片足を一歩後ろに下げます。この際、爪先がまっすぐ前を向いていることと、かかとを浮かさないことが大切です。壁に体重をかけて前足の膝をゆっくり曲げ、後ろ足のアキレス腱の伸びを感じながらジワジワと伸ばしていきます。焦らず、「ジワジワ」がコツです。伸びきったところで30秒から1分ほど。その後、足を変えて交互に各数セットずつやってみましょう。
これで準備ができました。さぁ、歩きだしましょう!
- 久道勝也(ひさみち・かつや)
医療法人社団青泉会下北沢病院理事長・ロート製薬最高医学責任者。
1964年、静岡県生まれ。93年、獨協医科大学卒業。同年に順天堂大学皮膚科入局。2007年、米国ジョンズ・ホプキンス大学客員助教授、11年、ヤンセンファーマ研究開発本部免疫担当部長。虎の門病院皮膚科勤務、アラガン社執行役員メディカルアフェアーズ本部長を経て、14年からロート製薬研究開発本部執行役員、16年から下北沢病院理事長を兼務。
日本皮膚科学会認定専門医、アメリカ皮膚科学会上級会員、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」プログラムオフィサー。著書に『死ぬまで歩きたい!―人生100年時代と足病医学』(大和書房)。『ガイアの夜明け』(テレビ東京)など多数メディア出演。