第9回AGカフェ
「マインドフルネスとお掃除」
Project report レクリエーション 学び マインド
[ 21.03.15 ]
AGカフェの第9回は、東京タワーにほど近い東京・神谷町の光明寺にてオンライン開催。年の瀬が押し迫った昨年12月の夜、『こころを磨くSOJIの習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)の著書がある僧侶、松本紹圭さんから、「マインドフルネスとお掃除」についてお話しいただきました。参加者は11名。外出自粛により、自宅で過ごす時間が増え、身の回りの環境に目が向くようになった人も多いのではないでしょうか。居場所を整えると、心身にどのような効果があるのか。興味深いお話をうかがうことができました。
松本さんは、「お寺をオープンな場所に」をコンセプトに、誰もが参加できるお寺の朝掃除の会「テンプル・モーニング」や、光明寺の境内の一部を地域に開放する「神谷町オープンテラス」、各地の僧侶との対話を通じて、人と社会と宗教について考える「テンプル・モーニングラジオ」などを企画、運営しています。また、暮らしのリズムを整えたい人に向けたオンラインプラットフォーム「Nesto」で、毎週日曜の朝に、掃除の会を主宰しています。
掃除は、仏道の修行の一つです。「お経より、掃除にかける時間の方が長い宗派もあるくらい、掃除は大事です」と松本さん。そして、仏道の基本である「戒定慧」について解説しました。
「戒は、生活を整え、良き習慣を身につけること。定はマインドフルネス。『今、ここ』に集中し、心の平静を保つことです。慧は、自分や世界を正しく見ることです」
掃除は良き習慣の基本(=戒)であるとともに、身体を動かし、五感を働かせてちりやほこりを取り除くことに集中すること(=定)で、心の汚れやくもりを取り除き、正しく見ること(=慧)にもつながると考えられます。
「日々過ごす家や職場の環境が整っていれば、自分の心にも返ってきます。逆もまたしかり。内を磨くことが、外を磨くことにもつながるんですね」と、松本さんは語りました。
時には自分の居場所から一歩踏み出して、家の前の道や、近所の公園、寺社などを掃除してみるのもよいそうです。
「今は外出の機会が減っていますが、ぜひ、ほうきを手に外に出てみてください。風のにおいや落ち葉の様子など、五感で季節を感じると、心が落ち着きます」
さらに掃除は、「執着を手放す訓練」でもあると、松本さんは説明しました。
「ブッダは、『もはや何も執着することがない』ということに目覚めた人なんですね。仏教では人生は苦であると考えます。苦とは、思い通りにならないということ。こうあらねば、という執着を手放すことで、より苦しまない生き方ができますよと。掃除にはきりがありません。落ち葉は掃いても掃いても落ちてきます。掃除は、『完璧な状態を目指すこと』への執着を手放すという練習にもなるんです」と松本さん。
その後は、参加者からの質問に答えていただきました。
①ものが捨てられない
②掃除がどうしてもおっくう
③台風被害でお墓が浸水し、きれいに泥が取りきれず心苦しい
といった悩みが寄せられました。
松本さんは「ものを捨てられないという方には、優しい方が多いと思います」と語りました。
「もったいないと思うのは大事なことです。一方で、せっかく持っているのに使っていないという状況は、ものに対して申し訳ないと考えることもできます。感謝の気持ちを持ちつつ、本来、あるべき場所に渡していくというのも一つの考え方ではないでしょうか。人に差し上げたり、不用品をやり取りするアプリを活用してもよいと思います」
掃除がどうしてもおっくう、という人には、こんなアドバイスも。
「掃除が苦手な方に多いのは、汚れをためてしまうこと。そうすると、さらに掃除する気がなくなり、悪循環になります。筋トレや楽器の練習のように、毎日5分でも10分でもいいので、習慣化してしまうとよいですね」
また、お墓のお掃除の質問には、次のように答えました。
「コロナだけでなく、台風や大雨による被害など、様々な事情でお墓参りができずに悩んでいる方が増えています。ご先祖様に怒られないかというご心配もあるかと思いますが、ご先祖様は皆さんの味方です。むしろ、気にかけてくれてありがとうと思っていらっしゃるんじゃないでしょうか。ご縁や状況がととのったときにお参りをされれば、大丈夫だと思いますよ」
その後は、参加者がグループに分かれ、掃除に関する悩みをシェアしました。
「思い出の品を捨てられない、ということをどう考えたらいいか」
「家族の中で、片付けに対する価値観が異なるときに、どう折り合いをつけるか」
「外出制限で、家と職場を往復するだけの生活が続き、心を整理整頓する機会をどう作ればいいか」
など、様々な悩みについて語り合いました。
最後、松本さんはこんな話で締めくくりました。
「人間は、すっきりしたい生き物だと思うんです。現代人はある意味、完璧主義で、すっきりしたがる。でも、仏教は『すっきりしたいときこそご用心』という考え方をするんですね。世界は常に変化しています。そのど真ん中、仏教でいう『中道』を探して、バランスをとっていくことが大事なんだと。動き続ける世界で、ちょうどいいところを探し続けるのは、なかなか大変です。そのためには、モヤモヤに耐える力、もっと言えば、モヤモヤを楽しめる感覚を養っていくことが大事なのではないかと思います」
松本さん、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!