Aging Gracefullyプロジェクト オンライン勉強会〈前編〉
サステナビリティ経営とジェンダー平等
Project report キャリア ジェンダー 学び
[ 21.04.19 ]
朝日新聞社と宝島社の女性誌「GLOW」による「Aging Gracefully」(以下、AG)プロジェクトは、40代、50代のAG世代の女性たちのエンパワーメントを目的に、様々な活動を展開しています。
2月26日には「サステナビリティ経営とジェンダー平等」をテーマに、企業向けのオンライン勉強会を開催。
講師には、企業の意思決定層に占める女性の比率を高める国際キャンペーン「30% Club」の日本支部を創設した、デロイトトーマツコンサルティングの只松美智子さんと、資生堂で女性活躍推進などの人事制度改革に取り組んできた、社会価値創造本部ダイバーシティ&インクルージョン室室長の本多由紀さんをお迎えしました。
金融、自動車、化粧品メーカーなど、全国の30社超の人事やダイバーシティー、CSR、広報担当者ら約80人が聴講しました。
- デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
只松美智子さん
最初に講演した只松さんは、サステナビリティ経営について「社会の持続可能な発展と、持続可能な成長の両方を目的とした経営」と定義。昨今、注目を集めるようになった背景として、①SDGsの浸透②「社会的責任投資」の浸透③有力経済団体の、「株主第一主義」からの方針転換④社会課題に関心の高い、ミレニアル世代やZ世代の台頭という4点を挙げました。
こうした外部環境の変化に対応できない企業は、罰金を科されたり、取引を停止されたり、入札に参加できなくなったりするほか、不買運動やブランド毀損などの可能性にさらされたりするリスクがあるとして、「これからはサステナビリティ経営に取り組まないという選択肢はありません」と指摘しました。
サステナビリティ経営を考える上で、キーワードとなるのが「パーパス」という言葉。「その企業の、社会における存在意義は何か。パーパスは、企業が重要な意思決定をする際のよりどころになります」と只松さんは説明しました。
たとえばSONYは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」、ユニリーバは「Make Sustainable Living Commonplace(サステナビリィを暮らしの“あたりまえ”に)」といったパーパスを掲げています。パーパスを起点に、何を目指すのか(=ビジョン)、何を行うのか(=ミッション)、どのように実現するのか(=戦略)を考えていく流れです。
そして只松さんは、企業が社会に対して価値を創造するためには「ESGの枠組みで考えることが必要」と述べ、とある紅茶会社のケースを紹介しました。
2006年当時、紅茶業界は慢性的な過剰供給と価格競争に陥っていたそうです。価格競争の激化は、茶葉農家の生活や、茶葉の生育環境をも脅かしていました。
そこでこの会社は、100%持続可能な方法で栽培された茶葉を購入する方針に転換。その結果、茶葉の生産量が増え、品質も向上し、農家の平均所得も増え、商品の売上高や市場シェアも高まりました。従業員は、会社が用意した住宅や病院を無料で利用し、子どもを会社が運営する学校に通わせることができるようにもなりました。
只松さんはこの事例で重要な点は、持続可能な茶葉の栽培方法(=環境、E)や、従業員の労働条件の向上(=社会、S)を可能にした、会社の方針転換、要はガバナンス(=G)にあると指摘しました。「社会的価値と財務的価値を追求するには、戦略と業務オペレーションの両面で大きな変革が必要になります。そうした大きな決断は、企業の意思決定機関において、ガバナンスが正常に機能していることで可能になります」
では、ガバナンスが正常に機能するには、何が必要なのでしょうか。
只松さんは、「意思決定機関が多様なメンバーで構成されていることです」と語りました。リーマンショック以降、様々な研究により、意思決定機関の構成員が多様な企業の方が株価や財務指標が良く、そうではない企業との差が年々大きくなる傾向が明らかになってきたそうです。
「構成員の多様性が低いと、自己を過大評価し、外部からの意見や警告を無視してリスクを過小評価し、同調圧力が生まれやすくなります。その結果、不祥事や時代の変化、コロナのような不測の事態に適切に対応する判断ができず、企業価値を低下させてしまうのです」と只松さん。一方、多様性のある意思決定機関では、網羅的で徹底的な議論がなされるため、適切なリスク管理が可能となり、企業価値を高める正しい判断ができるようになるそうです。
そして只松さんは、意思決定機関の多様性を担保する一つの取り組みが「30%Club」であると紹介しました。
2010年にイギリスで始まった、企業の意思決定層に占める女性の割合を向上させるキャンペーンで、現在17カ国・地域で展開されています。日本は14カ国目として2019年に活動を開始しました。「30%」は、大きな変化を起こすのに最低限必要な「クリティカルマス」を意味しています。いったん30%に達すると、指数関数的に効果が表れるとされます。
30%Clubは、意思決定機関に大きな影響を持つ、企業や組織のトップのみがメンバーであり、企業や機関投資家、メディア、大学など、様々なステークホルダーを巻き込む「統合的アプローチ」をとっています。只松さんは「社会課題は、一つのセクターだけが頑張っても解決しません。様々なセクターが協働する仕組みをつくり、お互いに補完しながら実行することが大切です」と解説しました。
30%Club JapanにはTOPIX社長会、インベスター・グループ、メディア・グループ、大学グループという四つのワーキングチームがあり、朝日新聞社もメディア・グループに参加しています。これらのチームがお互いに連携しながら、企業のダイバーシティー施策の推進や、投資先との対話を通じた中長期的な企業価値の向上、ダイバーシティー推進に向けた情報発信、幅広い専攻分野での女性のスキルやマインド形成などを手がけていくことが大事だと只松さんは語り、講演を締めくくりました。
後編へ続く