Aging Gracefullyプロジェクト オンライン勉強会〈後編〉
『資生堂ショック』から、真の女性活躍へ
Project report キャリア ジェンダー 学び 子育て
[ 21.04.19 ]
朝日新聞社と宝島社の女性誌「GLOW」による「Aging Gracefully」(以下、AG)プロジェクトは、40代、50代のAG世代の女性たちのエンパワーメントを目的に、様々な活動を展開しています。
2月26日には「サステナビリティ経営とジェンダー平等」をテーマに、企業向けのオンライン勉強会を開催。
講師には、企業の意思決定層に占める女性の比率を高める国際キャンペーン「30% Club」の日本支部を創設した、デロイトトーマツコンサルティングの只松美智子さんと、資生堂で女性活躍推進などの人事制度改革に取り組んできた、社会価値創造本部ダイバーシティ&インクルージョン室室長の本多由紀さんをお迎えしました。
金融、自動車、化粧品メーカーなど、全国の30社超の人事やダイバーシティー、CSR、広報担当者ら約80人が聴講しました。
前編の只松さんの講演に続き、本多さんが「Power of Diversity 資生堂の女性活躍推進」と題して講演しました。
本多さんは、同社の女性総合職の1期生として1989年に入社後、大阪や福岡で営業を担当。その後、東京本社で20年以上、経営企画やCSR、人事部で女性活躍推進に携わってきました。
資生堂の女性活躍は、段階的に進められてきました。
従来、子どもができた女性の多くは退職しましたが、2005年ごろから子育て支援制度を拡充して仕事と両立しやすくし、2010年ごろからは、女性に限らず男性も含め、育児や介護をしながらキャリアアップできるような形に変わっていったそうです。
育児支援制度の拡充からしばらくすると、新たな課題が見えてきました。百貨店や店舗で働く同社のビューティーコンサルタント(BC)の多くが育児支援制度で残業や週末出勤が免除になる働き方を選び、「子育てがある意味『聖域化』してしまっていたんです」と本多さん。
管理職層には両立経験者がおらず、社内の育児支援制度についての知識や、育児期の社員のマネジメントについてのノウハウが不足していました。また、育児中の社員をフォローする周囲の社員の間にも、不満がたまっていたといいます。
状況を打開するため、本多さんは、育児期の社員がいわゆる『マミートラック』に安住せず、更に活躍できる職場づくりをしてほしいと、管理職500人を対象に研修を実施しました。
ポイントは、
①育児支援制度を活用しながら、育児で得た経験を自身の更なるキャリア形成にいかしてほしい
②支援制度の運用は一律でなく、子どもの年齢や人数、健康状態など、個別事情を考慮する
③社員自身も、両立のために家族の理解や協力を得るよう努めてほしい
といった内容です。研修を受けた管理職が育児中の社員と面談し、半年間の移行期間も経て2014年4月から、遅番や週末勤務のシフトにも入る仕組みに変更されました。
すると、このことが2015年11月にテレビで「資生堂ショック」と大きく報じられ「女性に優しくない会社」などと批判を受けることになりました。
「一時的な誤解はあったものの、すぐに女性だけでなく男性も含めた社会課題解決へのチャレンジであると理解いただく流れに変わりました。メディアや有識者の中には、真のジェンダー平等のためには必要なことだと、応援してくださる方も多かった。次第に、私たちが掲げた目標への理解が、社会全体に伝わっていったと思います」と本多さんは振り返りました。
結局、遅番や土日勤務はできないという理由で約1200人のBCのうち、約30人が退職しました。「もっと多くの方が辞めてしまうのではないかと心配しましたが、ほとんどの方が新しい働き方に納得し、踏み出してくれて、職場のモラルが改善するきっかけになりました」と本多さん。
今では長時間勤務も見直され、育児中の女性管理職、男性社員が増え、多様なロールモデルが生まれているそうです。女性管理職比率は2020年で35%、子どもがいる女性の課長職や部長職も、約4割に達しました。
しかし、まだ課題はあると本多さんは言います。「両立しながらバリバリ働く女性の先輩の姿に、『あんな風にはなれないし、なりたくない。そこそこでいい』と思う人もいます。『ガラスの天井』を突破したとしても、後ろを振り返れば『無人の階段』で、誰もついてきていなかったということになりかねません」
そうした状況は、自社だけでは変えられない。社会全体が変わっていかなくては――。そう思っていたところ、「30% Club」日本支部創設のニュースが舞い込んできました。
同社の魚谷雅彦社長は立候補してクラブの会長に就任し、ワーキンググループ「TOPIX社長会」の座長も兼務しながら、キリンや大和証券グループ、NECなど25社のトップと共に、女性社員のキャリア形成を阻む課題や、女性リーダー層の組織的な育成に必要なこと、日本型雇用慣行からの転換などについて複数回にわたり議論をかわしました。
その結果、女性社員は男性と異なり、「入社後数年」「育児中」「管理職から更に上のリーダーを目指す時期」に、会社の支援やトップの関与が特に必要だという認識に至ったそうです。
現在はTOPIX社長会のメンバー企業どうしで、20代女性社員への30代社員によるメンタリングや、育児中の社員のマネジメントトレーニングの共有、女性幹部候補とトップとの交流に、社の枠を超えて取り組み始めています。こうした動きに合わせ、経団連も2030年までに女性役員比率を30%にすることを会員企業に呼びかける宣言を発表しました。
勉強会の最後には朝日新聞編集委員(現・東京本社経済部長)の伊藤裕香子さんの進行のもと、質疑応答のセッションがありました。
- 朝日新聞編集委員(現・東京本社経済部長)
伊藤裕香子さん
九州の機械メーカー勤務の方の、「女性が多い職場で、出産や育休の時期が重なったときはどう対処しているのか」という質問に、本多さんは「一つの職場で複数の人が同時期に産育休に入ることもよくありますが、妊娠判明から休業までの時間は十分にありますので、その間に上司や人事部も交えて相談しながら業務を分担しています」と回答しました。
伊藤さんは、「2030年までに女性役員比率30%」を目指すために必要なことについて質問。
只松さんは、「社会課題の解決は効果が出るまで時間がかかり、途中であきらめてしまうケースも少なくないのですが、こと、ジェンダー平等に関しては、ここ数年で日本社会がかなり変わってきた実感があります。関わるすべての人が『変えることができる』という信念をもって取り組むことが重要だと思います」と語りました。
本多さんは、コロナ禍で在宅勤務の拡大など、働き方が大きく変化したことを取り上げ、「当たり前だと思っていた風景や信じていたことが崩れました。女性の役員比率30%というのも、あくまで通過点であり、50%があるべき風景。そういう意味でも、2020年、21年はダイバーシティーが一気に進んだ転換点だったね、と後に振り返ることができるようになるといいと思います」と語りました。