Dr. HisamichiのKeep On Walkin’
スペシャル対談 Vol.2
女子ゴルフ大谷奈千代プロ「ゴルフは足が命」
Special ヘルスケア スポーツ 学び
[ 21.10.13 ]
松山英樹選手のマスターズ優勝や、東京五輪での稲見萌寧選手の銀メダル獲得など、グッドニュースが続く日本のゴルフ界。日本女子プロゴルフ協会トーナメントプロの大谷奈千代さんも、「密を避けて運動できるので、プライベートレッスンは増えています」と語ります。
ゴルフは、家族や友人、仕事相手とのコミュニケーションを深めたり、お気に入りのウェアで気分を上げたりできる、AG世代向きのスポーツと言えるかも知れません。「スイングのフォームだけでなく、大事なのは足の力なんです」と語る大谷さんが、「下北沢病院」の足病医、久道勝也先生と対談しました。
- 久道
- 僕はゴルフをしないので、感覚的にピンとこないのですが、1ラウンド18ホールを回ると、どのくらい歩くことになるんですか?
- 大谷
- コースの内容やプレ-ヤ-の技量によって差が大きいです。カートを使わない場合は10㌔くらいで、歩数にすると1万3千歩ほどでしょうか。上手な方はボールがあっちこっちに行かないので、もっと少ないですね。カートを使う場合の歩数は、全て歩く場合の7割くらいだと思います。ゴルフって、どうしてもスイングのフォームが注目されがちですが、実際は歩く力が非常に大事なんです。歩き方を見ているだけで、その方の技量が分かる面もあります。ちなみに、18ホール回るのに4時間半くらいかかるとしたら、そのうちスイングに使っているのはたった4分ほどなんですよ。
- 久道
- ということは、99%は歩いている。歩行主体のスポーツというわけですね。4時間半も一緒にいれば、色んな話もするでしょうし、幅広い世代の方と運動をしながら自然にコミュニケーションを深められるというのは、スポーツの中でもゴルフならではかも知れませんね。
- 大谷
- おっしゃる通りです。もっと言うと、「歩きながら考えてもいる」という感じでしょうか。次はどう打とうとか、どのクラブを使おうかとか。しかもコースって傾斜地ばかりなので、斜めの場所にきちんと立って構えられるかどうかも重要です。フラフープを回すときのように、足裏の前後左右に体重をスムーズに移動できると良いのですが、その感覚を伝えるのはとても難しいなと感じています。先生に伺いたいのですが、傾斜に強い足をつくるために、どんなことをしたら良いでしょうか。
- 久道
- 足って、ある程度は自動的に環境に合わせてくれるんですね。だから、傾斜地向きにトレーニングするというより、骨や腱、靱帯などがきちんと機能するようにケアして、可動域を広げることが基本だと思います。そのためにもまずは足をきっちり観察するところから始めていただきたいですね。
- 大谷
- 観察、ですか。
- 久道
- お風呂のときに見ていただくといいと思います。皮膚からでも結構色々なことが分かるんですよ。たとえばタコ。圧力がかかるところの皮膚が硬くなる症状ですね。下北沢病院では「足裏タコマップ」というのがあり、どこにタコができるかによって、足の変形や歩行のくせが判別できます。扁平足の方は人さし指と中指の下、あるいは、土踏まずのあたり。甲が高いハイアーチの方は、かかとや親指、小指の下あたりにタコができやすいんです。
- 大谷
- 私も扁平足と言われたことがあります。足のアーチを整えるために、ゴルフボールを踏んだり、足の指と手の指を絡めて足裏を曲げ伸ばししたり、足首を回したりするケアをよくしていました。
- 久道
- とてもいいと思います。特に女性の場合、加齢に伴って女性ホルモンが減ってくると、足の腱がゆるんで扁平足になりやすいと言われています。アーチを保つために、自分の足に合わせたインソールで支えることや、足の指でグーチョキパーをしたり、タオルをつかんで離したりするエクササイズをしながら、足裏の内在筋を鍛えることを勧めています。
- 大谷
- レッスンでも、パッティンググリーンでのショットのときに、地面の高低差の感覚をご自身の足できちんととらえられないとおっしゃる方が少なくないんです。それも、内在筋を鍛えることである程度、解消されるのでしょうか。
- 久道
- 必ずしもそうとは言いきれないですね。足には感覚器官の面もありますから。子どもの頃の外遊びや、その後の運動経験などによって、圧を感じる足のセンサーの「感度」には個人差があると思います。たまには、裸足で砂や芝生の上を歩いてみるといいかも知れません。ただ、 内在筋のトレーニング自体は、転倒や認知症の予防に役立つと言われています。手先を動かす動作が良いと言われるのと同じで、やっておいて損はないと思いますよ。
- 大谷
- 私も、足裏の感覚を大事にしてほしいので、厚底のゴルフシューズや、厚手の靴下はおすすめしていません。また、女性と男性では、立ち方のくせにも一定の傾向があるように感じています。 普段、ハイヒールを履いている女性は、重心がつま先側に寄りがちで、反り腰ぎみ。デスクワークの多い男性は、太ももの前の筋肉が硬く、骨盤が後ろに倒れているため、かかとに体重が乗っている方が多い。ゴルフでは、体を足の親指の付け根、小指の付け根、かかとの3点で支え、膝を曲げて骨盤を前傾させ、背骨を回転させてスイングします。ちょっと特殊な姿勢なんですね。ちなみに、昼食後のプレーでペースが崩れる方が多いのは、食べながらリラックスして骨盤が後ろに傾き、正しい姿勢を忘れてしまうからだと言われています。まずは、正しい立ち方を意識していただくことが大事だなと、先生のお話を伺って思いました。
- 久道
- 医療現場にいると、どうしても「靱帯」や「血流」といった部分に目がいきがちですが、その方の生活状況や身体感覚などにまで思いをはせることが大事だなと改めて感じました。大人の生活スタイルも変わってきていますが、子どもも、最近はスキップができない子が増えた、なんていう話を聞きます。ゲームやスマホが普及し、外遊びの機会が減っていることとも、遠からず関係していると思います。
- 大谷
- ジュニアのクラスも担当していて、そこではケンケンパなどの遊びを取り入れています。自分の経験からなんとなくやっていたのですが、先生に、子どもの頃から足の感覚を鍛えることが大事だとおっしゃっていただけると、指導に自信が持てます。最近は、心拍や呼吸などを測れる腕時計がありますが、似たような感じで、靴に入れて、足の圧を計測できるゴルフ用のインソールもあるんです。スマホのアプリと連動していて、どこに圧がかかっているか、一目で分かります。ちょっとやってみますね。
- 久道
- ほんとだ。左右で50:50と。バランスが分かりますね。
- 大谷
- ゴルフでは、下り坂でボールを打つときが一番難しいんです。左足が下にくる傾斜面でのアドレスは、できるだけ水平面に対して垂直な姿勢を取ることがポイントになります。左足が坂の下にあり、傾斜がきつい場合、左足に体重がかかるのですが、右足4:左足6のバランスで立つとちょうどいい。ただ、それを感覚として伝えるのは難しいので、こういうツールがあると便利なんです。
- 久道
- そうですね。治療にも活用できる面があるかも知れないなと思いました。ちなみに、今日は足の診察をご希望されていましたよね。ちょっと診てみましょうか。
――診察室に移動し、レントゲンやエコーで診察を受けました。水虫を治療中であることと、「むくみ」が気になることを伝えた大谷さん。先生の見立ては……。
- 久道
- 水虫は病院を受診されて、薬を処方してもらったんですね。良かったです。市販薬を使って、治らないから受診される方も多いんですよ。そうすると、顕微鏡で見ても菌が見つからない。市販薬が効いたのか、そもそも水虫ではなかったのか、判断しづらくなってしまうんです。水虫の薬は、かゆみなどの症状が治まってからも使い続けないと根治しません。目安としては半年くらいでしょうか。その間に温泉やスポーツジムなど、不特定多数の人が裸足で歩く場所に行くと、ぶり返すこともあります。
- 大谷
- ゴルフも練習場やクラブハウスでお風呂に入ります。
- 久道
- そういう場所に行ったときは、24時間以内に必ず足をせっけんでよく洗うようにしてください。菌が皮膚の角質に入るのを防ぐためです。外でお風呂に入ると、家ではもう入らないと思うんですが、足だけはきちんと洗うことが大事です。
- 大谷
- よく分かりました。むくみはどうでしょうか。
- 久道
- 多少ありますが、ひどくはないですね。気になるようでしたら、医療用の弾性ストッキングの、圧迫度が一番弱いタイプのものをはいてもいいと思います。足を適度に締めつけ、血液が足にたまるのを防いでくれます。ただ、実はむくみより、右の足首が硬いことが気がかりです。エコーを見ると、右足の裏の腱膜が少し炎症を起こしているようなのですが、痛みはないですか?
- 大谷
- 今はないです。それは足首が硬いこととも関係があるんでしょうか。
- 久道
- 足底腱膜炎の原因は様々で、運動のしすぎもその一つです。ただ、足首が硬いと、歩くときにすねが前に出ないので、足のアーチをつぶしてしまうんですね。先ほどご自身でも扁平足とおっしゃっていましたが、やはり扁平足でした。知らず知らずのうちに足底腱膜を引き延ばし、足に負荷をかける歩き方をしているかも知れません。オーダーメイドのインソールを作るといいと思いますよ。そして、アキレス腱のストレッチを毎日してくださいね。
- 大谷
- 足首が硬いというのは20代から言われてきました。今日からストレッチを頑張ります!
- 大谷 奈千代(おおたに なちよ)
1984年生まれ、兵庫県出身。14歳でゴルフを始める。2006年と08年にステップ・アップ・ツアー「東芝 電子デバイスレディースカップ」で優勝。現在はレッスンプロとして活動しながら、日本女子プロゴルフ協会のティーチングプロA級を受講中。11月からは関西を拠点にレッスンプロを続けながら、「いずれは母校の兵庫・滝川第二高校で後進の育成に関わりたい」と語る。イラストでの分かりやすい解説がインスタグラムで人気。アカウントは「nacchi.golf」