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扉の向こうの体験記 第一話
ライフスタイル マネー
[ 21.11.29 ]
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何気ない日常生活の中で、ふと不安になることはありませんか。
そんなとき、そばで話を聞いてくれる人がいたら…。
「扉の向こうの体験記」は、『ほけんの窓口』のお店で実際に起こったストーリーをもとに、 作家の山崎ナオコーラさんが書きおろした物語です。
さあ、あなたもこの扉の向こうへ。
|第一話|
「コーヒーのように」
コーヒーを飲んでいるうちに三十年が過ぎた。夫と、互いにときどき返事を横着し、コーヒーカップに口を付けることで間を持たせ、何を進めるでもない雑談をする。
詩織はこういう時間が嫌いではない。実は、夫のことも嫌いではない。詩織は自分の人生を結構気に入っている。
人生のことはあらかたひとりで決めてきた。
夫といちいち会議を開いて、意見をすり合わせてから事を運ぼうとすると時間がかかる。
だから、子どもの習い事や進路も、両親や義両親との付き合い方も、ほとんど相談せずに進めてきた。
このコーヒーカップだって詩織がひとりで買った。「どれがいい?」「意見はある?」なんて、まだるっこしいし、気恥ずかしい。ただ、コーヒーのような雑談を、この先も三十年くらい続けていきたい。
だが、何十年かの雑談のためには、意味のある話をする一日も必要なのだった。
「さて、そろそろ出ないといけない時間だ」
詩織は時計を見て立ち上がり、コーヒーカップを流しに置きにいった。
「ひとりで行ってきてよ。任せるよ。俺は今さら真面目な話なんてできやしない。テレビでも観ていようかな」
夫はソファの上であぐらを組み、投げやりな言葉をよこした。
「私と話すんじゃなくて、ライフパートナーと話せばいいよ」
「ライフパートナー?」
「窓口の人だよ」
「自分の考えが定まっていないのに、他人と話せないだろ」
「曖昧なまま、話していいらしいよ。……ふう。じゃあいいよ、私が相談するの、黙って聞いていて」
詩織はため息をついた。話し合わなくてもいい、ひとりで決められる、と思うようにしてきた。
家計はすべて詩織が責任を持って運営してきた。
でも、いつだって不安だった。意見を聞きたい、と何度も思い、けれども「私が決めるしかない」と無理やり進めてきたのだ。なんとかなだめすかして連れ出し、保険の相談ができる「ほけんの窓口」へ出かけた。
「ご来店ありがとうございます」
ライフパートナーが椅子を勧めてくれる。夫は座り、最初の三十分は本当に黙っていた。しかし、何がきっかけだったのだろう、
「俺の両親ももう年でね……」「子どもが大学生なんだけど、俺たちはどうなるんだろうねえ」夫が自身について喋り始めた。
二人だけでは切り替えられなかった。たぶん、第三者が入ったことで、会話に変化が起きたのだろう。
こんなふうにときどき真面目な話が交わせたら、雑談をさらに三十年、続けていけるような気が。
- 著者・山崎ナオコーラ
- 作家。1978年福岡県生まれ。エッセイ集に『母ではなくて、親になる』(河出書房新社)、『むしろ、考える家事』(KADOKAWA)などがある。目標は、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。
- <提供>
- ほけんの窓口グループ株式会社
- TEL:0120-605-804 平日9:00~19:00/土日祝9:00~17:30
- https://www.hokennomadoguchi.com/