Aging Gracefullyアンバサダー
いつかやりたいことは、いまやらないとできなくなる
住吉美紀さん「正直に、コツコツと、ありのままに」
Special ライフスタイル キャリア
[ 22.05.27 ]
Aging Gracefullyプロジェクトでは、5年目の2022年度アンバサダーとして、ともにAG世代でタレントのLiLiCoさん(51)と、フリーアナウンサーの住吉美紀さん(49)をお迎えしました。
住吉さんは、NHKのアナウンサーとして「プロフェッショナル 仕事の流儀」や「第58回NHK紅白歌合戦」の総合司会などを担当しました。2011年からはフリーで活動し、パーソナリティーを務めるラジオ番組「Blue Ocean」は11年目に入っています。
「心機一転の春です」
――今年4月1日に所属事務所から独立されたそうですね。
計算したわけではないのですが、10年ごとに人生が展開していて、20代、30代、40代でそれぞれ人生のステップが進んで、少しずつ、より自分らしくなっているんです。仕事の内容も働き方も、自分らしく変化していると感じています。
20代は就職してがむしゃらに、30代は海外からの中継とインタビューという私の得意な仕事を頑張って、40代は組織を離れて。そして今度はまた新たなステップを踏み出そうと、夫と二人の会社で独立してお仕事をしていくことにしました。
自分の居場所で、ライフワークだと感じるようになったラジオを始めて丸10年なんですね。これからはアナウンサーという仕事に限らず、自分がやりたいと思ったら全然違うこともできる環境になるので、より自分らしくお仕事をしていけるのかな、と思っています。心機一転の春です。
「日々耳を澄ませて自分の体と対話を」
――2020年4月に新型コロナに罹患し、肺炎で約2週間入院されました。どのような影響がありましたか?
まだ世界的に詳しいことがわからない、初期の感染でしたが、高熱が続いて、げっそりやせて、体力的にも本当にきつかったです。復帰して最初の頃はラジオの放送で2時間話すのが精いっぱい。ヘロヘロになるぐらい疲れてしまって、午後は負荷のかかる仕事はできないし、夕方に必ずお昼寝をしないと夜まで持ちませんでした。コロナそのものだけでなく、やせて体力が落ちたことも影響していると思いますが、こんなに動けなくなるんだ、という驚きとショックが大きくて。
体力が戻ってきた、大丈夫だと感じたのは、翌年の2021年1月頃です。ちょっとずつプラスアルファのことをするエネルギーが出てきたんですけど、こんなことをしているとあっという間に1年、2年と過ぎていくと感じたし、自分がいつかやりたいことはいまやらないと、十分なエネルギーがある時期は短いかもしれない。私が一人の人間として一番社会に貢献できることは何か、そろそろ考えないと、できないまま終わってしまうかもしれないと、すごく考えました。 この実感が独立の大きなきっかけにもなりました。
以前から健康管理には人一倍気を遣っていましたが、コロナに罹患して、本当に健康が一番だと実感したので、無理をしないスケジューリングとか、寒いときはみんなが驚くほど重ね着をするとか、かっこ悪くても、より徹底するようになりました。
女性は年々体が変化するので、去年まで大丈夫だったことが、今年はとても疲れやすかったり、毎月のリズムが変わってしまったり。コロナだけでなく、日々耳を澄ませて自分の体と対話しつつ、みていかないといけないんだな、と思います。
――ヨガを長く続けているのは健康維持のためですか?
20代の頃は体力が落ちたり太ったりしないように、水泳やジョギングを続けていたんですけど、生放送のように秒単位の仕事をしていると、緊張感で筋肉に力が入って硬直して、肩こりがひどくなるんです。ヨガはストレッチや、筋肉を緩めたり伸ばしたりすることが多いので、一時すごくハマりました。指導者の資格も複数持っていて、運動になるだけでなく、内面や心を整えたり、エネルギーを調整したりできるので、細く長く続けています。
昨年の東京五輪以降は、スポーツクライミングにハマっています。自分には絶対できないと思っていたんですけど、テレビで見て、やってみたくなって、ジムに行きました。最近は、大きな施設だと初心者が登れるような壁が設定されていて、すごく楽しかったんです。夫と二人で週末に登っているうちにハマりました。日常生活で動かさない筋肉を使うので、肩こりや腰痛が少し楽になります。私はもともと球技や道具を使うスポーツより、自分の体のバランスを研究する方が好きなんですね。自分が何を好きかを知って生かすことも、人生を充実させるためには大事なのかな、と思います。
「お茶とは一生付き合っていきたい」
――いま最も打ち込んでいることは何でしょうか?
茶道です。以前習っていた日本料理の先生に紹介されたことがきっかけで、7年半前からお稽古を続けています。お茶の稽古はすごく心がときめくし、全てが好き。仕事と同じぐらいに、私の中で優先度が高いものです。お点前を練習したり、お茶事に参加したり、着物を着付けたりといった、日本の美をみんなでリスペクトしながら味わうことがとても楽しくて、お茶とは一生付き合っていきたいと思うようになりました。
茶道も、着物の着付けも、40代で始めました。フリーになって自分の時間を少し持てるようになってからですが、私にはとても大きなことでした。いつか海外で、英語でお茶を教えてみたい。そんなことを、夜寝る前に考えることもあります。
着物は、取材がきっかけです。わりと素直に感動するタイプなので、「素敵!」と感動してハマりました。お茶を始めてから着る頻度が高いので、お茶の先輩にご紹介いただいた着付けの先生に教えていただきました。自分で着られるようになってからは、仕事の現場に着物で行くことも増えました。雑誌クロワッサンの連載「着物の時間」という一生に一度しか出られないページに、2018年に出していただいたんですが、その撮影にも自分で着て行ったら、「このコーナーに自分で着付けてきた人は初めてです」と言っていただきました。
自分で着付けると締めるところと緩めるところを調節できるので苦しくないし、着物は楽だという発見がありました。今はフレンチのフルコースも着物で食べられますし、フォーマルな場で、日本人の体形では、着物が一番きれいに見えると思うんです。華やかで品もあって、肌を露出しなくていいのにきれい。最高です。
「ありがとう」と「自分だって」
――40代で始められたことが多い中で、ご結婚されたのも40代でした。家庭円満の秘訣はありますか?
「ありがとう」という感謝の気持ちと、「自分だって」と想像することかなぁ。近い存在になるとささいなことでイライラしがちですけど、自分だってきっと、相手から見たら同じことがあるんですよね。それを棚に上げて「なんで」と言ったらけんかになるし、相手も「アナタだって」となる。それを忘れないことが大切だと思います。私と夫はお互いに仕事をしているので、忙しいときはカバーし合って、感謝を忘れないで「ありがとう」と言います。ちゃんと言葉で「ありがとう」と言うのは人間関係の基本ですけど、大切だな、と改めて思います。
40代で結婚したから、より相手のことを考えられるんだと思います。若い頃の自分を思い出すと、もっと感謝すればよかったなぁ、ということがいろいろあります。自分一人ではできないとか、全ては当たり前じゃないとか、年齢を重ねたからわかってきたことがある。相手もいろんなことがあって、一人の人間としてここにいるから、それも全部含み置いて接すると、許容範囲が広くなるんでしょうね。年々変わっている気がします。
「これでよかったと自分が思えるように」
――自分らしさとは何でしょうか?
父が転勤族で、3年おきにガラガラポンと子どもながらの人生計画を崩されてがっかり、ということを繰り返してきたので、多分その影響もあって、あまり先のことは考えなくなりました。ただ、自分の身の丈で、自分はなぜ生まれてきたんだろうとか、そういうことを考えるのは小さい頃から好きだったんです。
どう生きると幸せになれるのかということは、追求したいテーマです。自分が考えて問うことが誰かの役に立てばうれしいです。リスナーさんとつながっているラジオでは、私の放った一言に「すごく励まされます」と言っていただけたりすると、日々あれこれ悩み、考えることは無駄じゃないかも、と感じます。Aging Gracefullyで「一緒に頑張ろうね」と同年代の女性たちを応援することも、ライフテーマとしてやっていきたいことの一つです。
いま、人生100年時代と言われる中で、年齢を重ねることを楽しむ、というのは、社会のテーマでもあり、人類のテーマ。私の年齢ぐらいから誰もが意識し始める、とても共感するテーマだと思います。
どういう形で発信できるかはわかりませんが、私はやっぱり言葉が好きで、ラジオなど音声で発する言葉も好きですし、書くことも好きなので、本を執筆するとか、書いた言葉でその世界を追求していくようなことをやっていきたいですね。
自分らしく生きることは、大きな目標です。数年前に大学で〝キャリアデザイン〟を教えたことがあるんですけど、今はもっと進んで、〝ライフデザイン〟というか、というか、次のステップをどうするかを自分で考えて行動していく時代だと思うんですね。私も、これでよかったと自分が思えるように日々の行動を重ねたいですし、50代に向けて、自分が好きなことやチャレンジしてみたいことを正直にコツコツやっていく、ありのままに過ごすことを大切にしたいと思っています。
- 住吉美紀(すみよし・みき)さん
- 1973年、神奈川県生まれ。アメリカやカナダで育つ。1996年にNHK入局後、「プロフェッショナル 仕事の流儀」や「第58回NHK紅白歌合戦」総合司会などを担当。2011年よりフリー。月〜金で、TOKYO FMの朝の生ラジオ番組「Blue Ocean」パーソナリティーを務め、今年11年目。著書に「自分へのごほうび」(幻冬舎)。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
写真=品田裕美
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