坂本真子の『音楽魂』
SHOW-YA寺田恵子さんインタビュー〈前編〉
道をこじ開け、挑み続ける5人
「みんなで考えて、みんなで方法を見つけて、みんなで動く」
Special 音楽 ライフスタイル
[ 22.06.15 ]
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクトリーダーの坂本が、音楽の話をお届けします。
デビューから35年余、日本の女性ロックバンドの先駆けとして走り続けてきた「SHOW-YA」。フルオーケストラと共演した「BATTLE ORCHESTRA 2022」(DVD+CD)を6月22日に発売するなど、積極的に活動する一方で、50代の女性として日々感じていることを、ボーカルの寺田恵子さんに聞きました。インタビュー前編では、SHOW-YAの「いま」と、これまでの歩みについて語ります。
1985年8月にメジャーデビューしたSHOW-YAは、2020年に35周年を迎えました。新しいことに挑戦しようとメンバーやスタッフで話し合って決めたのが、 世界進出、そして今回のフルオーケストラとの共演。2021年8月に全曲英語詞のアルバム「SHOWDOWN」を発表した一方、「組曲」でオーケストラとの共演を実現させました。
「組曲」はSHOW-YAの代表的な20曲を盛り込んだメドレーで、「限界LOVERS」や「私は嵐」などのプロデュースを担当してきた笹路正徳さんが編曲しました。懐かしい曲のフレーズが多く、曲と曲のつなぎ方なども聴き応えがあります。
「SHOW-YAの歴史みたいなものを作ろうという話になり、メンバーの演奏に合わせてオーケストラにレコーディングしてもらいました。この曲は絶対入れたい、という案はいくつか出したけど、全体の流れとかいろいろなアイデアもあって、最終的に20曲になりました。比較的古い曲が多いのは、笹路さんが外せないと考えたからだと思います。昔の曲はすごくメロディアスでポップ、なおかつちょっと哀愁がある感じ。今はどんどんハードになってきているから、20歳の頃の曲と、40~50歳で歌っているものはだいぶ曲調が違う。その切り替えが難しいところもあったけど、すごく楽しかったですね」
今年1月のライブでは、オーケストラもステージに登場しました。従来のSHOW-YAの音に厚みと迫力が増し、「オケの人と一緒に、ハードロックやヘビーメタルで盛り上がれることが楽しかった」と寺田さん。6月22日に出す「BATTLE ORCHESTRA 2022」は、1月のライブ映像と同じときにオーケストラと共演した「組曲」「限界LOVERS」を収録したDVD、そして、この2曲をスタジオで録音したCDの2枚組みです。
「BATTLE ORCHESTRA 2022」(DVD+CD)のジャケット=マスターワークス提供
「日本にいても海外へ発信できる」
世界進出をめざし、全曲英語詞のアルバム「SHOWDOWN」を出しましたが、コロナ禍のため、今はまだ国外で思うように活動できません。海外メディアのリモート取材を受けるなどしながら、機会を待っています。
「ありがたいことにリモートが普及し始めて、コロナ禍でもYouTubeや生配信、リモートといった活動方法がいろいろあるので、 日本にいても海外に向けて発信できる。みんながライブ会場に来られなくても、配信ライブの映像を見ることができるし、チャットに書き込みながらライブに参加できる。特にSHOW-YAのファン層には親の介護や子育て、子どもの受験などを抱える人も多いので、配信ライブはすごく喜ばれました」
SHOW-YAが最初に無観客の配信ライブを行ったのは、コロナ禍に突入してまもない2020年6月でした。音楽業界全体を見ても、SHOW-YAはとても早い時期から配信ライブに取り組んでいます。
「計画していたライブがことごとく飛んでしまって、このまま何もしないでコロナが収まるのを待つだけだとどうにもならないし、時間がもったいないので、できることをやろうと考えたのが、ほかの人より早かったんだと思います。探してみたら、よく使っていたライブハウスに配信のシステムがあると聞いて、やってみたのが最初です」
SHOW-YAの配信ライブにゲスト出演した相川七瀬さんや島谷ひとみさんは当初、「こういうやり方があるのね」と驚いていたそうです。無観客の場合、聴く側からの反応はありませんが、「テレビ番組にいっぱい出ていたというのもあって、そこはすんなり入れたんですよ。ただ、コーラスや(観客との)コール・アンド・レスポンスができないのが寂しかったかな」と振り返りました。
「私たちが大事に守らなきゃ」
SHOW-YAがプロデュースし、女性アーティストたちが日比谷野外音楽堂のステージに集う 「NAONのYAON」は1987年に始まり、中断を経て2013年以降は毎年開催されています。コロナ禍のため2020年は延期、21年は無観客で配信に。16回目の今年は4月29日、3年ぶりに観客を前にリアルで開催され、大黒摩季さん、杏子さん、相川七瀬さん、中村あゆみさんら15組の女性アーティストが出演しました。
しかし、大雨で風が強く、寒さに耐えられなくて途中で帰った人もいたほど。「それでも、『来年また絶対参加する』というツイートを見てうれしかった」と寺田さん。また、ライブの前半には、若い女性ロックバンドが次々に登場しました。
「結構ハードなバンドが増えてきて、 若手が勢いづいているし、頑張っているし、頼もしいですよ。演奏がうまいし、見せ方も知っているから、ライブでお客さんを盛り上げてくれる。彼女たちが今の私ぐらいの年齢になったとき、どんな大物になるんだろうと考えると、楽しいですよ」
今後の「NAONのYAON」に向けて、寺田さんは決意を語ります。
「『NAONのYAON』は、若い子を含めて幅広い年齢層が楽しみにしてくれているイベントだから、 私たちが大事に守っていかなきゃいけないと思っています。 出演者を守らなきゃいけない。お客さんを守らなきゃいけない。音楽を守っていかなきゃいけない。みんなが温かくなるようなイベントをずっとやっていかなきゃいけないと改めて強く思います」
「大切なのは、お互いの信頼関係」
コロナ禍でも早い時期から配信ライブを行い、世界進出をめざし、フルオーケストラとも共演するなど、積極的に挑戦を続けるSHOW-YA。しかし寺田さんは、「私たちはポジティブではない」と分析します。
「ネガティブな方だけど、 このままじゃダメだと底辺からはい上がるのは、わりとSHOW-YAは得意かも。薄暗い光でも何かひとつ見えたら、道をこじ開けようとする力がSHOW-YAにはある。大切なのは、お互いの信頼関係。メンバーもスタッフも、誰かが投げ出したら続いていないし、1人ではどうにもできないから、 みんなで考えて、みんなで方法を見つけて、みんなで動く。ありがたいことに、その点はSHOW-YAは恵まれていると思います」
こうした行動力の背景には、これまでSHOW-YAが歩んできた、決して順風満帆ではなかった道のりがあります。「限界LOVERS」「私は嵐」などのヒット曲に恵まれましたが、寺田さんは1991年にSHOW-YAを脱退し、翌年、「PARADISE WIND」(バルセロナ・オリンピックNHKイメージソング)でソロデビュー。一方、SHOW-YAは別のボーカリストを加えて活動を続け、1998年に解散しました。
実は、1995年の阪神・淡路大震災の後、チャリティーライブをやろうと、寺田さんが1日だけの再結成をメンバーに提案したことがあったそうです。
「断られました。なぜならちゃんとボーカルがいたから。でも私はそれで意識が変わって、メンバーを1人ずつ説得していこうと思ったんです」
そしてデビュー20周年の2005年、寺田さん、キーボードの中村美紀さん、ギターの五十嵐美貴さん、ベースの仙波さとみさん、ドラムスの角田美喜さんのオリジナルメンバー5人でSHOW-YAを再結成しました。
SHOW-YA。左からベース仙波さとみさん、キーボード中村美紀さん、ボーカル寺田恵子さん、ギター五十嵐美貴さん、ドラムス角田美喜さん=マスターワークス提供
「私の勝手なわがままで辞めたので、最初は信用がありませんでした。メンバーみんなにどうやって信用してもらえるかを考えたら、やっぱり続けていくこと。そして、辞める前とは違う自分でいなきゃいけないと思った。以前は、絶対に私についてこなきゃダメだ、みたいな考えがあって、1人で突進していたんですよ。そうじゃなくて、バンドはみんなで作り上げていくものだし、誰か1人が船頭になって、その人についていけばいい。それが私でも、私じゃなくてもいいと、考え方が変わったんですね」
東日本大震災の後は、音楽の意味を考えることも増えたと言います。
「衣食住は生きるために最低限必要なものだけど、 音楽は娯楽。でも音楽は、ご飯とは違う栄養を人の心に与えられるし、時代を変えるようなパワーも持っている。自分たちの音楽はこれでいいのか、自分たちの音楽で何か力になれないか。喜びも悲しみも含めて何をしたらいいのかを考えるきっかけになりました」
寺田さんは現在58歳。SHOW-YAの5人は、来年には全員が還暦を迎えます。最近はステージ上で、ギターの五十嵐さんが「いつまでこのメンバーでライブができるんだろう」と口にすることが増えたそうです。
「自分たちと同じ世代のバンドの人や仲間で亡くなった方もいるので、ここ数年は『今年はこのメンバーで最後のライブになるかもしれない』と、いつも思っています。 いつまで続けられるか、確証は全くないから、今を一生懸命やろうとメンバーと話しています。ただ、ステージ上で演奏しているときは、『これが最後のライブかも』と考えるより、みんなと楽しむことが大切。 同じ時間を共有する回数を増やしたいと思うし、『楽しいね』『みんなで同じ空気を吸ってるよ』と感じたい。続けられるまで、続けたい。頑張ります」
インタビュー後編では、寺田さんが日々の思いや生き方について語っています。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
写真=伊ケ崎忍
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◆6月22日に「BATTLE ORCHESTRA 2022」発売。
DVDとCDの2枚組み(税込み8800円)。◆「限界LOVERS ~Battle Orchestra~」をデジタル先行配信中。
https://ssm.lnk.to/GLBO◆ライブ「SHOWDOWN」
10月23日(日)、東京・EX THEATER ROPPONGI。17:00開演。
2021年発表のアルバム「SHOWDOWN」を全曲披露するライブ。
6月25日(土)にチケット一般発売開始。全席指定、前売り7700円(税込み、ドリンク代別)。
詳細は、https://www.diskgarage.com/ticket/detail/no090230◆「NAONのYAON 2022」を歌謡ポップスチャンネルで放送。
6月19日(日)19:00〜22:00(19:00~20:15前編、20:15~22:00後編)
(※ご視聴には、スカパー!やケーブルテレビなどの契約が必要です)
詳細は、https://www.kayopops.jp/feature/naonnoyaon2022/SHOW-YAオフィシャルサイト https://show-ya.jp/
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