Aging Gracefully & WORKO! 勉強会〈後編〉
人生100年時代、家族像はどう変わったか
林伴子さん「そんなに早く“お迎え”は来ません」
Special Project report ハウツー ライフスタイル
[ 22.09.14 ]
朝日新聞社と宝島社の女性誌「GLOW」による「Aging Gracefully」(以下、AG)プロジェクトは、40代、50代のAG世代の女性たちを応援するために、企業向けの勉強会や一般の方向けのセミナーなど、さまざまな活動を展開しています。
7月20日には、働く子育て世代を応援するWORKO!プロジェクト(https://www.asahi.com/ads/worko/、朝日新聞社)と一緒に、「働く女性とウェルビーイング」をテーマにした、企業向け勉強会を開きました。リアルとオンラインのハイブリッド方式で、約150人が参加。内閣府経済社会総合研究所の林伴子次長は基調講演で、令和の家族像の変化や女性の置かれた経済状況を解説。「人生100年時代、女性の平均寿命の87歳まで準備しておけば良いと思っている方がいらっしゃいますが、そんなに早く“お迎え”は来ません」と語りました。
6月末まで内閣府男女共同参画局長を務めた林さんは、「日本の男女共同参画・ジェンダー平等の課題と展望」のテーマで講演しました。
冒頭に、世界各国の男女格差を数値化したランキング「ジェンダーギャップ指数」について言及。日本は146カ国中116位で、先進国では最下位だったことに触れ、「私が注目したいのは、その中身です」と話しました。この指数は、教育・健康・政治・経済の4分野で男女差を示す数字を分析し、完全に男女が平等な状態を「100%」とした場合の達成率を数値化し、順位を公表しています。
林さんは「日本は教育と健康の値は良い一方、政治と経済の参画が遅れています。元気で教育水準も高い女性たちが、政治経済の分野で活躍できていません」と解説しました。
「残念な状況」の背景に三つの要因
政治分野では、国会や地方議会で女性議員の比率が15%程度にとどまり、国際比較に用いられる衆議院の女性議員比率は9.9%で190カ国中166位という低さ。国家公務員の局長・審議官級(上級管理職)に占める女性の割合は4.2%、本省課長級(中級管理職)も4.9%にとどまっています。経済分野が専門の林さんは「残念ながら日本は遅れています。国際会議に参加すると私が紅一点のことが多く、ジェンダーギャップ指数は実感に合っています」と語りました。
民間企業の女性就業者数は増え、管理職も増えつつあるものの、諸外国と比べると女性役員の割合はまだ低いまま。さらに、林さんは給与額に男女間格差があることを指摘しました。正社員同士、非正規雇用の労働者同士で比べても、男女間に差があり、同じ職業、経験年数であっても差があります。「国際比較をすると各国とも男女間の賃金格差はありますが、日本の場合は、その差が大きいです」と指摘しました。
ジェンダーギャップ指数に象徴される日本のジェンダー平等・男女平等が「残念な状況」にある背景には、「意識」「制度」「慣行」の三つの要因があるそうです。「男性は仕事、女性は家庭」という性的役割分業の意識や「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」があるほか、日本の政策や制度、長時間労働などの慣行という課題を挙げました。
男女格差の問題が顕著に出たのが、コロナ下の女性の就業だったそうです。宿泊や飲食などのサービス業で働く女性が多く、非正規雇用の割合も高いため、初の緊急事態宣言が出た2020年4月には、女性の就業者は男性よりも大きく減少。さらに、コロナ下で女性の自殺者数が年間6千人台から7千人台に増えたことについて、林さんは「平時で男女共同参画が進んでいなかったことが、痛ましい状況につながったのではないか」と述べました。
女性の過半数は90歳以上まで
今や、女性の52.6%は90歳以上まで、27.9%は95歳まで生きます。女性の平均寿命は87.71歳ですが、亡くなる年齢で一番多いのは93歳。「平均寿命の87歳まで準備しておけば良いと思っている方がいらっしゃるのですが、そんなに早く“お迎え”は来ません。100歳を超える女性も約7万人いて、文字どおり『人生100年時代』がやってきています」と林さんは言います。
長寿化と共に強調したのが、結婚・離婚をめぐる「家族の姿」の多様化です。1970年の結婚は年間約100万件、離婚約10万件でしたが、今は結婚が50万~60万件、離婚は約20万件。この半世紀で、男女ともに未婚と離別の割合が大幅に増えました。離婚した年齢は30代が最も多く、離婚が人々にとって身近なことになっている実態があると指摘しました。
昭和が前提「130万円の壁」
現在の社会保障制度は、高度成長期の「男性は仕事、女性は家庭」という家族モデルを前提に設計されました。現在は共働き世帯の数が専業主婦世帯の2.6倍まで増えたのに、制度の骨格は昭和時代のまま。林さんは「必ずしも今の世の中に合っていないのではないかという議論が出てきています」と話します。
例えば、社会保険はパートで働く主婦(主夫)の収入が年間130万円を超えると、夫(妻)の扶養から外れる「130万円の壁」があります。「年収の壁」はいくつかあり、勤務先の規模などの条件によって異なります。働こうとしても年収の壁を超えないように調整しようとするパートの女性が多いため、林さんは「これが本当に良いのかどうか、一つの論点です」と指摘しました。
女性の視点で検討を
総務省「就業構造基本調査」(2017年)によると、結婚して働いている女性の6割は年間所得が200万円未満。家族の形が多様化して離婚も増えていますが、養育費を受け取っている母子家庭は24%にとどまります。林さんは「日本のひとり親家庭の貧困率は、先進国の中でも最も高い部類になっています。家族の形が多様になっているのにもかかわらず、制度が追いついていません」と指摘しました。
内閣府は2022年6月に政府決定した「女性版骨太の方針」で、女性の経済的自立を掲げました。労働者301人以上の事業主に対し、男女間賃金格差に関する情報の開示を義務化しました。林さんは「昭和の時代に作られた現在の社会保険と税制の扶養の仕組みは、就業調整を増やし、離婚したときに経済的困窮に陥るリスクを高めていないか」と疑問を投げかけ、「女性の視点から見た制度の検討が必要です」と訴えました。
最後に、女性たちにこうエールを送りました。
「もちろん国が具体的な制度や仕組みを変えていくことも重要ですが、政策と同時に、令和の時代に生きる女性一人ひとりが、身近なところで変える努力をしていくことが重要だと考えています」
前編では、産婦人科医の高尾美穂先生による講演「働く女性と更年期」の模様を紹介しています。
新田香織さんの講演はWORKO!サイトへ
- Aging Gracefully&WORKO! 企業向け勉強会 ~働く女性とウェルビーイング~
7月20日(水)13:30~16:00 朝日新聞東京本社にて&Zoomウェビナー - ◇基調講演「日本の男女共同参画・ジェンダー平等の課題と展望」
林 伴子さん(内閣府 経済社会総合研究所次長) - ◇第1部 WORKO! 「子育てもキャリアも大切にする働き方」
講師:新田 香織さん(社会保険労務士法人グラース代表、特定社会保険労務士) - ◇第2部 Aging Gracefully「働く女性と更年期」
講師:高尾 美穂さん(産婦人科専門医、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長)
- 林 伴子(はやし ともこ)さん
内閣府経済社会総合研究所次長。1987年東京大学卒業後、旧経済企画庁入庁。1994年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士号を取得。パリのOECDにおいて加盟国の経済政策審査を担当した後、経済財政運営業務に携わり、「骨太の方針」や「政府・日本銀行の共同声明」等の策定に従事。内閣府大臣官房審議官などの要職を歴任し、2020年に内閣府男女共同参画局長に就任、「第5次男女共同参画基本計画」、男女間賃金格差開示義務化を決定した「女性版骨太の方針2022」などを策定。今年6月から経済社会総合研究所次長。
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