主婦経験が仕事に生きた
AERA presents キャリア ヘルスケア 更年期
[ 18.07.17 ]
年齢はマイナスじゃない
特に女性は、年齢を重ねることがネガティブに見られる日本。
でも、そんな枠にはとらわれない女性たちがいる。
さまざまな経験をプラスに、キャリアアップを重ねている。
- 日本コカ・コーラ 東京2020年オリンピック ホスピタリティ
薄井シンシアさん(59) - フィリピンの華僑の家に生まれ、国費留学生として来日。会社勤めを経て、30歳で出産して専業主婦に。著書に『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』(KADOKAWA)
ANAインターコンチネンタルホテル東京の営業開発副総支配人、シャングリ・ラ ホテル東京のディレクターを経て、薄井シンシアさん(59)は今年1月、日本コカ・コーラの2020年東京五輪のホスピタリティ責任者に就いた。なぜ、キャリアを重ねられたのか。その秘訣を尋ねると、こう答えた。
「私はいま日本コカ・コーラでオリンピックを担当していますが、いま一番やってみたいのは自動販売機に飲料を補充する仕事。担当領域だけでなく、会社の全てがわかりたいのです。どういう商品が売れているのか。何をどこに置いているのかが手にとるようにわかるでしょう」
PTA役員のように
好奇心がキャリアの原動力になってきた。現職に就いて4カ月。これまでオリンピック関連の仕事も飲料メーカー勤務の経験もない。猛勉強中だ。しかし「成長のない仕事には魅力を感じない」という薄井さんにとって、学びはやりがいだ。
だが、7年前は「年齢の壁」を前に悪戦苦闘していた。52歳のとき、子育てを終え、専業主婦生活から仕事へシフトしようと求人を見つけては応募するが、年齢と仕事のブランクがネックとなって次々とはねられた。やっと手に入れられたのは会員制クラブの電話受付のパートだった。
「人のやりたがらないことをする」
これは、専業主婦時代からの薄井さんのモットーだ。誰もやらないPTAの役員を引き受けたように、パートでも電話受付の枠を超え他のメンバーがやりたがらないイベントの仕事を積極的に行った。最終的にイベントの売り上げの多くを彼女が稼ぎ出すまでになった。
その手腕や、47歳のとき外交官の夫の赴任で過ごしたタイで、子どもが通ったインターナショナルスクールのカフェテリアを再建した実績を買われたことが、その後ホテル業界に転職するきっかけとなった。
「新しい局面」が訪れてもひるむことはない。「新しいことを習得するスキル」を専業主婦時代から自覚的に確立してきた。20年間5カ国で暮らした異文化体験、ままならない子育てなどを乗り越えてきたことが自信となっている。
「わからないことは徹底的に聞くので、しつこいと言われることもあります」
型にはまらない柔軟さ
ANAインターコンチネンタルホテルで最初に就いた仕事は、宿泊セールス。自分の担当領域だけでなく、ホテルの全てを知りたいと思い、直接には関係のないレストランや宴会場、結婚式場の仕事内容も全部聞いてまわった。掃除、ウェイター、キッチンの人たちともランチなどを共にし話を聞いたりした。そんな好奇心と学びの積み重ねが、客室の注文が入ったときに、宴会場やレストランも組み合わせる、ほかの人にはできない提案に結びついた。客のかゆいところに手が届き、売り上げにも貢献。入社3年で営業開発副総支配人にスピード出世した。
「多くの人は自分の仕事の担当領域だけに閉じてしまっている。型にはまらない柔軟さが大事だと思うんです」
いま40代、50代を迎えた女性たちは約1700万人。家族構成もライフスタイルも多様なのが特徴だが、一方で社会には旧来の年齢イメージによるモノサシが厳然と残る。特に女性は、年齢を重ねることがネガティブに見られがちだ。だが、年齢の枠にとらわれず、仕事やプライベートで積んできた経験を生かして活躍する女性たちがいる。
- 伊勢半 開発本部長
池戸和子さん(49) - 1994年、伊勢半グループに入社。2002年、商品企画デザイナーとしてバラエティー向け新ブランドの立ち上げを担当。18年から現職。2児の母
ターゲットと同じ実感
「サザエさんに出てくるフネさん。何歳の設定だか知っていますか? 52歳ですよ。いまフネさんみたいな52歳ってそうそういないですよね」
そう快活に語るのは化粧品メーカー、伊勢半で開発本部長を務める池戸和子さん(49)だ。昨年3月、50、60代をターゲットとする主力ブランド「キスミー フェルム」から紅筆と口紅が一体になった「紅筆リキッドルージュ」を発売すると、ドラッグストアのリキッドルージュの売り上げ上位を独占するなど、世代を超えるヒットとなった。「紅筆」というレトロさを感じさせる商品と「口紅」との組み合わせの妙が当たった。
「いまの40代から60代の女性は精神的に若く、ひと昔前と違ってきている実感がありました」
商品開発前に、約1万人の女性を調査すると意外な発見があった。40代後半では約7割、50代後半では8割近くの女性が紅筆を使っていた。精神的には若くても、加齢による肌の衰えは避けられない。口紅を塗っただけでは輪郭がぼやけやすいため紅筆を使っていたのだ。
しかし口紅を紅筆にとって、唇に塗るという〝2ステップ〟は手間だ。どうしたらいいか。それを考えていた時、30代の部下からの情報がヒントになった。部下の母親は60代。出かけるときあらかじめ口紅を紅筆に含ませて持っていくという。
「これだ!と思いました」
池戸さん自身がターゲットと同じ実感を持つからこそ潜在ニーズを探り当てられた。このほかにも、プロがメイクアップし、プロのカメラマンが撮影する「きれい応援プロジェクト」を実施している。
「メイクをするうち、みなさんいきいきしてくる。『リウマチで足が痛くて』とこぼしていた60代の方がメイク後、元気にすたすた歩いて帰られたケースもあります。化粧品を通して、気持ちのエイジングケアができるのは仕事冥利に尽きます」
- 大塚製薬 女性の健康推進プロジェクト リーダー
西山和枝さん(50) - 1990年、MRとして入社。2015年から現職。大豆を乳酸菌で発酵させたエクオール含有サプリ「エクエル」を担当
40代、50代の女性ならではの症状と言えば「更年期」だろう。だが、話題にさえしにくいのが現状かもしれない。
「しかし話題をタブー視することが、理解が深まらない要因でもあるのです。その現状を変えないといけない」
大塚製薬で更年期の女性向けサプリを担当する、女性の健康推進プロジェクトリーダーの西山和枝さん(50)はそう語る。西山さんも現在の部署に異動して間もない47歳のとき、更年期の症状を経験した。
「頭から汗が流れたんです。それまで経験したことのないものでした」
体験談で悩みを共有
入社以来、医師や薬剤師を相手に医療用医薬品の情報提供を行ってきた。が、消費者向け商品は販売のアプローチが違う。
「「慣れない仕事のなかリーダーとしての決断を次々迫られ、そんなときに症状が現れました」
更年期は閉経をはさむ前後5年の10年間を指し、一般的に40代後半から50代前半にかけて迎える。女性ホルモンの急激な減少により、多様な不調が女性の心身に引き起こされる。ほてりやうつ症状など、その症状は何百種類もあるとされる。環境の変化などさまざまな要因が加わることで出やすい。
西山さんがセミナーなどで自身の体験を話すと、終了後には悩みを共有できた喜びや「自分だけではない」と安堵を伝える女性たちの列ができる。
「更年期の話題がタブー視されることで女性自身の知識不足を招き、対処の方法を知らないことで必要以上に症状に悩まされ、周囲の理解も得られない現状があるからです」
大塚製薬では、更年期を「ゆらぎ期」と言い換えている。「閉経」の言葉の持つネガティブなイメージも変えて、職場や家庭で気軽に話せる環境をつくりたいと、西山さんは言う。
人生100年時代に入り、40代、50代は折り返し地点にすぎなくなった。旧来の年齢イメージに縛られずしなやかに活躍する女性は今後ますます増えるだろう。