Aging Gracefullyプロジェクト、企業向け勉強会第1弾〈前編〉
女性のエンパワーメント原則「WEPs」をテーマに18社が参加
Project report ライフスタイル キャリア
[ 18.08.28 ]
朝日新聞と宝島社の女性誌「GLOW」は、人生100年時代において、40代、50代の女性が自分らしく年齢を重ねていくことを応援する「Aging Gracefully」(以下、AG)プロジェクトに取り組んでいます。この世代の女性たちは、職場や家庭、地域で日々、大きな役割を担っているにもかかわらず、日本のジェンダーギャップ指数は世界で114位と低迷。男女の役割分業意識や賃金格差、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)など、女性が自分らしく生きていくことを阻む「壁」はたくさんあります。
こうした「壁」について問題意識や関心をもつ人々をネットワーク化して話し合い、解決策を発信していく場をつくろうと、朝日新聞社AGプロジェクトチームは7月から、企業向けの勉強会をスタートさせました。初回は「社長、WEPsをご存じですか?」をテーマに、7月18日午後、東京本社で開催。金融機関やゼネコン、総合人材業、流通、化粧品メーカー、精密機器メーカーなど、17社から人事やダイバーシティ、広報などを担当する管理職の方24人が参加しました。
WEPsは「Women’s Empowerment Principles(女性のエンパワーメント原則)」の略。ビジネス分野での男女平等推進に向け、国連女性開発基金(UNIFEM、現・国連女性機関「UN Women」)と国連グローバル・コンパクトが2010年に作成した行動原則です。講師を務めたのは、WEPsを推進するUN Women日本事務所の石川雅恵所長。さまざまな国連機関で約20年にわたり、女性の人権擁護や子どもの性的搾取の撲滅に取り組んできました。西アフリカのシエラレオネ赴任中は、乗っていた船が転覆して現地の人に助けてもらったり、バンコクで勤務中には爆弾テロ事件の現場に居合わせたりしたこともあるとのこと。夫と9歳の息子をアメリカに残し、単身赴任で昨年、着任しました。
関西出身の石川さんは「20年ぶりの日本で、初めての東京暮らし。まるで浦島太郎のようです」とユーモアを交えて場を和ませつつ、「実は日本は、UN Womenと深い関わりがあるんです」と本題に入りました。日本政府のUNWomenへの拠出金は、世界で2番目に多いとのこと。また、ジェンダー平等の実現に向け、男性にも取り組んでもらうことを目指す「He For She」という社会連帯運動の推進役として、世界各国の30人のリーダー(政府の首脳10人、企業のCEO10人、大学の学長10人)が任命されているのですが、日本からは政府部門で安倍晋三首相、大学部門で名古屋大学の松尾清一学長が選ばれているそうです。
しかしながら、女性活躍は日本において、まだ道半ば。WEPsは、そうした現状を変える仕掛けとしても期待されています。WEPsは、企業のCEOが以下の7つの原則を守ることを宣言するところから始まります。法的拘束力はなく、違反しても罰則はありません。「とはいえ、女性役員比率の高い企業は業績が良いことや、女性活躍推進に取り組む企業の株価が市場平均を上回る水準で推移していることなどからも、WEPsの宣言をすることには大きな効果があると、私たちは考えています」と石川さんは話します。
原則①~④は主に社員向けの対策です。③の「暴力の撤廃」には、セクハラへの対策なども含みます。原則⑤は主に取引先や調達先とのかかわりに関する項目です。サプライチェーンにおいて、女性を雇用していない、あるいは支援していない企業とは取引しない。あるいは、広告や宣伝活動で、女性を蔑視するようなメッセージを発信しているところとは取引しない、ということです。原則⑥は、企業が助成金の給付や社会貢献活動を通じて地域の女性のエンパワーメントに資することを意味します。原則⑦は、WEPsに関する企業の取り組みを対外的に公開していくことを意味しています。
WEPsには現在、世界90カ国の約1800社が署名しています。このうち日本企業は200社超を占め、世界有数だそうです。では、これから宣言を検討する企業は何から始めれば良いのでしょう。石川さんは「WEPsのジェンダーギャップ分析ツールを活用して、自社の課題を洗い出すことをお勧めします」と話します。これは、自社の経営や取り組みを女性活躍推進の観点から把握・分析し、改善を検討するためのツールで、日本語版は下記のウェブサイトからダウンロードできます。
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最後に石川さんは女性活躍への取り組みについて、「守りから攻めに転じていただきたい」と強調。「コンプライアンスの観点から『やらなくちゃ』という会社が多いのですが、女性活躍はこれからの時代において、企業のサバイバル率を高める一つの指標になります」と説明しました。
例えば、海外の企業が日本企業とのビジネスで対面する際、日本企業側が全員、スーツ姿の男性ばかりだったら「この会社はダイバーシティがあまり充実していないのかな」と思われ、マイナスに働くということです。「環境汚染や児童労働と同様、世界では、女性が意思決定できるポジションにない会社は、『取引先として大丈夫?』と思われるようになっています」と石川さん。#MeToo、#Time’sUpなど、ジェンダー平等に向けた国際的な機運が高まる現在、女性活躍をどう進めていくのかは、企業の経営戦略上も重要だと言えそうです。
石川さんの講演に続き、参加企業によるグループディスカッションが行われました。その模様は、後編をご覧ください。