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大切なのは、建前、遠慮を取り去った先の、
本質的なコミュニケーションだと思う。

[ 22.02.07 ]

by GLOW

今や名作映画やドラマに欠かせない俳優となった、市川実日子さん。
見ている人の心をまっすぐ射抜くような、凛とした視線が魅力的な市川さんですが、被写体になったばかりの頃は、カメラをまったく見られなかった、と言います。

この仕事の一番のやりがいは、
人と一緒にものが作れること。

市川さんが初めてモデルとしてカメラの前に立ったのは、中学生のとき。すでにモデル活動をしていた姉・市川実和子の存在がきっかけで、編集者から「撮影に参加してみませんか?」と声をかけられたそう。

「あるとき突然家に電話がかかってきて、『オリーブ編集部の○○です。実和子さんから連絡先を聞いたんですが、雑誌に出てみませんか? ぜひお会いしたいです』と。でもその当時は喋ったことがある大人って、学校の先生と親くらいしかいないじゃないですか。知らない大人という時点で、“怖い!”って、何も言わずに首を振ってガチャンと切ってしまった(笑)。ひどい対応ですよね。高校生になり専属モデルに選んでいただき、撮影をするようになっても、最初の頃はずっと顔がこわばっていて……。でも徐々に、楽しいと感じるようになり、撮影はコミュニケーションなんだ、ということが理解できるようになってから、少しずつ慣れていきました。特に写真撮影は、カメラマンの方とのやり取りなんだな、と」

モデルを経て女優になり、現在40代。数々の作品を経験した今、自身がしている仕事のやりがいは何かと聞いてみると、「人と意見を出し合い、コミュニケーションをしながらものを作ること」と即答。

「『オリーブ』の専属モデルとして、雑誌を作るという現場で育ててもらったから、なのかもしれませんが、雑誌の現場って、“もっと他にないかな?”“じゃあこうする?”と、建設的なやりとりをしながらひとつのものを作っていく場所だと、私は思っていて。関わるスタッフ全員がひとつの場所を目指し、そのためにそれぞれがイメージして動く。じゃあそこでモデルである自分は何ができるのか。その感じがとても好きなんです。ドラマや映画などの現場にいてもそれは基本変わらない。みんなで“いいものにしよう”というその瞬間が、一番のよろこびです」

ジャケット12万1000円(ブラミンク) パンツ5万600円(チマラ/ジャーナルスタンダード ラックス 表参道店) ネックレス5万2800円(ハイク/ボウルズ) サンダル8万3600円(オーラリー メイドバイ フットザコーチャー/オーラリー) Tシャツ、靴下、ベルト、リング(スタイリスト私物)

尊重や気遣いは大事だと思う。
でも現場では全員にのびのびしていてほしい。

撮影現場にいる市川さんは、とにかく明るく、朗らか。スタッフと積極的に会話をし、そして本当によく笑います。この人がいる場所はどこでもきっと、楽しく幸せな空気に満ちあふれているんだろうな、と想像し、思わず笑みが浮かびます。

「でも40歳を超えた頃からでしょうか、現場で、“尊重”されるようなことが増えてきて、正直戸惑います。気を遣われるのに、慣れてない(笑)。年上だから、という気持ちはわかるし、気を遣ってくださることはありがたいのですが……。私、いわゆる建前とかが苦手なんです。本当に思っていることを言ってほしい。遠慮して本音を言わなかったら、掴みたいものを掴めない気がするというか。ものづくりにおいては気遣いは要らないと思っていて、遠慮をするのではなく、それぞれが見たいもの、欲しいものを言うほうがいいと思う。そのためには、みんながのびのびできる雰囲気であることが大切だと思っていて。私ものびのびしたいし、みんなにものびのびしてほしい。誰かが我慢したところで、結果的には全体に対していいことなんてひとつもないんです。だからどんな撮影でも、みんなに楽しい気持ちで存在してほしいし、その状況が、私にとっては“幸せ”なんです」

では、現場を和ませるためにしていることは?と聞くと、「特別なことはないですよ」とはにかむ市川さん。

「あ、でも、笑い声はひとつあるのかな……。私の笑い声って、笑い袋の音みたいなんですって。ヒャッヒャッヒャって感じらしくて。少し前、撮影で大阪に行っていたときにヘアメイクさんに、『なんかな、市川さんが笑ってるとな、こっちも笑ってまうねん』って言われて(笑)。何に対して笑っているのかはわからないけど、つられて笑っちゃうらしく……。いいことなのかな、いいことだといいんですけれど(笑)」

デニムジャケット4万2900円、デニムパンツ2万9700円(ともにハイク/ボウルズ) リング(スタイリスト私物)

役に入っているときは、
自分が自分ではないような感覚に……。

作品に入り役を演じているときは、「ずっと人探しをしている感じがする」という市川さん。それゆえ役を探すことに気を取られて、自分のことがおろそかになってしまうことも無きにしもあらずだとか。

「それも、モデルの経験があるからなのかな、とも思うんです。モデルって、撮影のときに“自分”を出す必要はあまりないじゃないですか。今の仕事も同じようなところがあって、自分であって、自分ではない、みたいな状態になっているのかな……。正直自分ではあまり自覚はないのですが。ただ、私が通っているジャイロトニックのトレーナーさんが、よく、『ああ、今そういう役をやっているから、体がこうなんですね』と言うんですね。以前は本来の私の健やかな体に戻すようにメンテナンスをしてくれていたんですが、あるときから、『その役をやっているから、体はこの形でいたいんだと思う。なので調子が悪くならない程度に整えます』という形に変わったんです。おもしろいですよね。毎回1時間程度、運動してメンテナンスをしてもらうんですが、帰り道はいつも、体が軽いのはもちろん、明らかに気持ちがすっとしている。心と体って、本当につながってるんだな、と思います」

デビューから今日まで、自身のキャリアを振り返って、「我ながら、本当によくやった」と自分を褒めたくなることはあるかと聞くと、なんと「え、この仕事です!」とのこと!

「演技の仕事をよく始めたと思うし、よくこれだけ続いているなと……(笑)。恥ずかしさの塊でしかなかった10代の私を知っている人たちは、本当に驚いていると思います。でも、よくも悪くも私は、あまり先を考えない人でそういう意味では、私自身自分の行動の予想がつかない。興味が出たら、それまでまったく触れたことがない何かを突然始めることもあります。何事も、基本的に興味があるかないかです(笑)。年齢を重ねると、“私はこうだから”と自分にレッテルを貼りがちになりますが、“今の自分の勘”を信じて、大事にして、これからも興味を持ったことには触れていきたいです」

コート20万7000円、シャツ8万9000円(ともにルメール/スクワット/ルメール) リング(スタイリスト私物)


写真出典:「GLOW」2022年2月号
撮影=荒井俊哉〈YARD〉 スタイリング=椎名直子〈TIBER GARDEN〉 ヘア&メイク=Asami Taguchi〈home〉 取材・文=河野友紀 

市川 実日子 Mikako Ichikawa
1978年6月13日生まれ。94年より雑誌『オリーブ』の専属モデルになる。その後数々のファッション雑誌に登場し、2000年に長編映画デビュー。03年初の主演映画『blue』で第24回モスクワ国際映画祭最優秀女優賞を受賞。16年『シン・ゴジラ』で毎日映画コンクール女優助演賞、19年『よこがお』『初恋〜お父さん、チビがいなくなりました』で日刊スポーツ映画大賞助演女優賞を受賞。『アンナチュラル』『凪のお暇』『大豆田とわ子と三人の元夫』などドラマにも多数出演。現在、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)、日曜劇場『DCU』(TBS)に出演中。
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