人生は一回きりだから
楽しまなくちゃ、もったいない!
[ 22.11.28 ]
凜(りん)とした美しさとさっぱりとした明るい人柄で、女性たちの憧れを誘う板谷由夏さん。俳優として幅を広げる一方で、自身のブランド「SINME(シンメ)」を切り盛りし、2児の母として家事・育児も、とたくさんの役割を担っています。多忙な日々の中でもすがすがしいたたずまいを保ち続ける秘訣(ひけつ)は、“楽しむこと”にあるようです。
43歳の時、体力の限界を感じて
頑張りすぎるのをやめた
最新の主演映画『夜明けまでバス停で』は、2020年に東京・幡ケ谷のバス停でホームレスの女性が襲われた事件をモチーフに、“社会的孤立”をリアルに描いた高橋伴明監督の問題作。板谷さんは、コロナ禍で仕事を失い、自尊心から周りに助けを求められずホームレスに転落してしまった女性・三知子を熱演。役を通して考えさせられることが多かったという。
「私たち世代は、三知子も昭和の価値観が根強く残っているせいか、『頑張るのが当たり前』とか『弱音を吐いてはいけない』という考え方がベースにあるように感じます。だけど、周りに『助けて』というのは恥ではないし、全てを自分一人で背負いこまなくてもいいんです。……そういう私も、もともとは頑張っちゃうタイプ。自分でなんでもできるし、解決しようとしてきました。だけど、その自覚もなくて『頑張ってますね』って言われると『そうかな?』って。『忙しそうですよね、大変でしょう』って言われると『確かに大変だけど、全然嫌じゃないから』って突き進んでいました」
気力と体力が充実している20~30代は、そんなふうにがむしゃらに走り続けることができたけれど、43歳になった頃から変化が現れた。そこから、意識して生き方を変えたという。
「だんだん無理がきかなくなってきたんです。夜10時ぐらいになるとどんよりしてきちゃったり、朝起きられなくなったり、体力の低下を具体的に感じました。全部自分一人で背負いこもうとすればするほど苦しくなって、『もう、無理!』って。それで、自分の体のことを考えながら物事に対応していかないとネクスト50代、60代が迎えられないぞ、と思いました。『つらい』とか『もう無理』と声に出して、周りの人たち、特に自由な感覚を持つ若い世代や子どもたちに聞いてもらって“抜く”ようになりました」
気持ちが落ちた時は、すぐに切り替える
おいしいものを食べて、ガハガハ笑って終わり
日々の中では落ち込んだり、後悔したり、ネガティブな思いにとらわれてしまうことも。そんな時は、すぐに気持ちを切り替えて引きずらないのがポリシー。
「最近は特に、意識的にシンプルに考えるようにしています。『うまくやれなかった』とか『失敗したかも』と思っても、自分で納得してぱっと切り替える。どんな時でも複雑にしているのは自分自身なので、そのことに気付いて手放していけば気持ちがすごく楽になります。一度決めたことはクヨクヨ考えず、失敗しても次は同じことをしないように気を付けて、前を見ていけばいい。延々と悩み続けるなんて苦しいだけだから、おいしいものを食べて、ガハガハ笑って終わり(笑)。よどんだり、停滞したりしたくないので、いつでも風通しよくしておこうと思っています」
今年47歳になり、その先の50代、60代を考えるようになった。年齢による変化を実感し、健康の大切さを改めて感じてはいるものの、「年齢はたかが数字」と潔い。
「考えても仕方ないことなので、あまり意識しないようにしています。体は衰えていくけど、自分を縛っていたものや抱えていたものを手放して、心はどんどん軽やかになっていくように思います。40代は自分を“解放”していくすごくいい時期だから、悩みに押しつぶされてしまってはもったいない。人生は一回きりだし、貪欲(どんよく)に楽しまなくちゃ! そのためにも、これからは健康であること、体力作りが一番のテーマです。とはいえ、性格的に規則正しくジムに通ったりはできないので(笑)、散歩したり、自宅で筋トレやストレッチをしたり、合間にできることを取り入れるようにしています」
料理やお酒、器、家庭菜園……
“食いしん坊” から広がる世界を楽しむ
生活の中に楽しいことをちりばめておくことも、明るく軽やかな気持ちを保つ秘訣。“食いしん坊”を自認する彼女にとっては、おいしい食事や食材、お酒に触れるひと時が至福であり、心の豊かさや平穏をもたらす大事なファクターになっている。
「日常を楽しむには、食いしん坊は最強! 食材やレシピ、料理道具、器、お酒、料理教室など、どんどん世界が広がっていきますから。旅をする時も、たとえば、ワイナリーをたずねた時に、オーナーから近くでおいしいチーズを作っている牧場があると聞いて足を運ぶ。すると、そこで地場野菜のレストランの情報を教えてもらうというふうに、出会いがつながって思わぬところにたどり着くのが面白い。コロナが落ち着いたら、そういう一人旅にふらりと行きたいな」
自宅で料理をしたり、庭や畑の手入れをしたりするのもかけがえのない時間。至福のひと時であると同時に、精神安定剤になっているという。
「3年ぐらい前に、私は料理に救われていると気づいたんです。ちょっとお酒を飲みながら、脳みそをフル回転して段取りを考えたり、ひたすら食材を切ったり、もくもくと作業に集中することがストレス発散になりますね。自分を解放できるセラピー的な時間なのかもしれません。この夏、畑でミニトマトを栽培したら、どんどん育って、その生命力に圧倒されました。とことん植物と向き合ったり、愛猫と戯れたり、自然や生命と触れ合うだけで元気になります。最近は、50代、60代になったら、料理家と組んだり、地方の食材を使ったりして、食に携わることができたらいいなと妄想するのが楽しみ。おいしいものはみんなを幸せにする力があるから、自分が楽しめて、人にも喜んでもらえたら最高です」
撮影=竹内裕二(BALLPARK) スタイリング=金子夏子 ヘア=MATSU KAZ〈3rd〉 メイク=水野未和子〈3rd〉 取材・文=安田晴美
- 板谷 由夏 Yuka Itaya
- 1975年6月22日生まれ、福岡県出身。俳優、モデル、ファッションディレクター。99年に俳優デビュー。数々のドラマ、映画に出演する傍ら、2007年から18年の11年間、「NEWS ZERO」(日本テレビ系)でキャスターを務める。近作にドラマ『家庭教師のトラコ』、映画『百花』、主演映画『夜明けまでバス停で』など。15年より自身のブランド「SINME」をスタート。映画の魅力を伝える情報番組「映画工房」(WOWOW)でMCを務めるなどマルチに活躍。2児の母。
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