Dr. HisamichiのKeep On Walkin’
スペシャル対談 Vol.9
女性泌尿器科専門医の関口由紀さん「女性に幸せな人生を」
Special 対談 キャリア ライフスタイル ヘルスケア 学び 更年期
[ 24.03.21 ]
日本では数少ない女性泌尿器科専門医であり、横浜・元町で主に更年期前の女性のためのクリニックと、更年期以後の女性の健康管理と抗加齢医療を行うクリニックの二つを運営する「LUNAグループ」理事長の関口由紀さん。様々なメディアで中高年女性の総合的な健康維持、管理を提唱している関口さんと、「下北沢病院」の理事長・医師、久道勝也先生が人生100年時代を楽しく健康に過ごすための生き方をテーマに対談しました。
- 久道
- 最初に、今のご活動について教えてください。
- 関口
- 私は元々、泌尿器科医です。アメリカやイギリスだと通常の泌尿器科の隣に独立して女性泌尿器科があるのですが、それ以外の国ではない。これは、アングロサクソンというのはビジネスにたけた民族でいち早く分化したからだと思います。女性泌尿器科を専門にしたいと考えていた時に女性医療というものに出会い、婦人科、乳腺科、女性内科に加え、第四の科として女性泌尿器科があってもいいなと進路を決めました。
- 久道
- 泌尿器科に進まれた理由は。
- 関口
- 体力的にもメンタル的にも弱いと思っていて、そうするとマイナーな分野に行った方がいいっていうのがありますよね。昔は女性医師というと内科、婦人科、皮膚科かという時代でしたが、少し変わった感じで泌尿器をやってみようと思ったんです。泌尿器科を10年ほどやった後に次の専門を考えた際、がんや生殖などの専門もある中で女性泌尿器をやろうということになりました。
- 久道
- 今の時代から見ると不思議ですが、かつては皮膚泌尿器科という形で皮膚と泌尿器が一緒のカテゴリーとされていたんですよね。私が皮膚科を選んだ理由は、大学病院のようなきっちりした集団の世界で自分が長く務まるとは到底思えず、できるだけ早く独立できそうな診療科だったことが大きかったですね。
- 関口
- 私も先生と似たようなもので、女性泌尿器科を大学でやっても大事にされないだろうということもあって、医局に10年いた後に大学院に入ったんです。その頃から開業を考え始め、内科、婦人科の先生と泌尿器科の私でグループ開業をしたのが18年前です。その後、4、5回場所を変えて、2019年に横浜の元町・中華街駅前に落ち着きました。たまたま良い場所があり、内科、婦人科、泌尿器科を全部一緒にして2階が更年期前の女性専門、3階を更年期とポスト更年期のクリニックにしました。
女性医療の分野で世界の最先端を目指す
- 久道
- 画期的な試みですね。私も現在、欧米では当たり前にあるものの、日本にはなかった足と歩行の病専門病院を立ち上げ、この足病領域を日本に定着させるべく努力しているところです。大学病院をはじめとした巨大な病院と違って、当院は医局が一つで多分野の専門家が密に情報交換ができる。異なった背景をもつ医師同士の相互作用により医療の質が上がって、ここでしかできない医療が育ってきた感じがあります。おそらく先生のところも、相互作用によって生まれてくる独特の価値観もあるでしょうね。
- 関口
- 保険診療中心の2階と広々とした3階でコンセプトとターゲット層が分かれているのが大変好評です。予防から手術までクリニック内でできますし、標準的な女性医療から最先端の医療までかなり深いところまで受けられます。例えば、閉経後の生活の質を下げる女性ホルモンが低下することによる症状に加え、女性の男性ホルモン低下に起因する諸問題の治療なども行っています。ポスト更年期の30年くらいの間に元気がなくなる女性は男性ホルモンの低下が原因の場合も多いのです。また、レーザーを使ったフェムゾーンの美容医療も行っています。女性医療の分野で世界の最先端を目指しています。
- 久道
- 少し私の専門とも関連のあるお話をしますと、更年期特有の尿失禁の予防に関しては、適切な歩幅でひざをしっかり伸ばすことを意識した歩行を心掛けると、骨盤底筋を鍛えるのに役に立ちます。これは大内転筋にも効きます。
- 関口
- 正しく歩けない人は尿漏れが増えますね。きちんとした姿勢で歩くと理想の85歳ができあがる。骨盤底筋、内転筋、ハムストリングが弱いと尿漏れが増えます。骨盤底筋を鍛えるためには、入浴した際には腟(ちつ)の中に指を入れてぐっと閉めて持ち上げるケアを習慣にしてほしいです。
- 久道
- 日本の女性は陰部を触ることに抵抗があるでしょうか。
- 関口
- フェムゾーンは自分ではなく夫や産婦人科医が管理するものという呪縛があって、自分で触るのは怖い方がほとんどですが、セルフケアの大切さを病院のYouTubeチャンネルでも発信しています。
- 久道
- なるほど。少し話は変わりますが、先生の人生を振り返ってこれまでで一番幸せな瞬間はいつでしたか。
- 関口
- 今が一番幸せだと明確にわかります。子どもを2人育て上げ、開業直後に乳がんの治療をし、50歳で更年期クライシスを経験。56歳の時には劇症肝炎で生死の間をさまよいました。幸い生き残ることができ、これまで働き過ぎだったと気づきました。クリニックの皆で話し合って医師は月100時間労働にしていたのですが、今私は月に40時間だけにしてもらっています。これくらいでしたら75歳まで働けるのではないかと思います。
- 久道
- 長年かけて適度な仕事量、自分のスタイルを考えてこられた結果、築かれた幸せですね。
ピンコロが理想の人生
- 関口
- これからは無理をしないで好きなことしかやらないと決めました。次は沖縄に支店を開業してもいいかなとひそかに考えています。少し働いて後はゴルフをやって、老後をそこで過ごしてもいいかな、と。
- 久道
- これからも幸せが続いていきそうですね。
- 関口
- 95歳くらいまでと人生の長さを設定すると、その時まで身のまわりのことができて、自分の足で歩けて、週に2、3回の外出やデートができて、私の専門である泌尿器関連もちゃんとしていて、ある時に風邪ひいて入院したと思っていたら2週間くらいで死ぬ。ピンコロです。それが理想の人生。多くの日本女性がこうした幸せな人生を送れるようサポートしていきたいと思っています。
- 久道
- 高齢者の女性の多くは同性同士で楽しく過ごせているように見えますが、高齢の男性たちは特に定年などで仕事に逃げ込めなくなった後に上手に人間関係を築けずに鬱々(うつうつ)としてしまうことも多いようです。特に家庭においても居場所がなくなってしまうと辛いものです。なにかアドバイスはありませんか?
- 関口
- もちろん女性だけで過ごすのではなく、男性も一緒にいた方が楽しいですよ。ただ、必要な男子とそうでない男子が女子の中には明確にある。必要なのは、マウンティングしない素敵な男子です。
傾聴力の有無で男性の人生は変わる
- 関口
- 高齢者の男性の中には話を聞かない人が多いので女性の話を聞くことが大事です。男性は「女性が言わないから聞かない」と言いますが、そうではなくて「男性が聞かないから言わない」のです。
- 久道
- これまでの歴史では男の方が社会的にずっと優位なポジションにいたので、何が女性を不愉快にさせているのか、切実な思いを本質的には理解できないのかもしれませんね。身についた上から目線は一朝一夕にはそぎ落とせません。
- 関口
- だから、練習するしかないですね。一緒にいてもうるさい男子とうるさくない男子がいる。理想的な男女関係を維持している男子をまねて見るといいと思います。そこにはいろいろなパターンがあって、うるさくない男子が良いと言っても、実際に付き合ってみると女性を元気にしてくれないとつまらないということもある。「少しは肉食系でないと」という部分もあり、難しいのが現状ですね。
- 久道
- 男も女もAG世代くらいの年齢になると、それまでの人生経験に引きずられますから不要な部分をそぎ落とすのは若いころに比べて難しいですよね。ただ、最低限うっとうしくない男になるためには、女性の話をきちんと聞くことですね。
- 関口
- 「そうだね」、「それで、それで?」と受容してあげることが一番大事です。70代くらいのご夫婦が居酒屋で仲良くおしゃべりしている姿が理想ですね。男性には「あの人に言ってもしょうがない」度が低い人と高い人がいる。生殖の時期は全然違う性格同士の方が、遺伝的多様性が増して良いのですが、生殖が終わった後は少し意見を言い合える人の方が良いですよね。改めて新たなコミュニケーションを探ればいいのですが、それもできない相手とは無理をせずに離婚してパートナーチェンジをすれば良いと思いますよ。うちで美容医療を受けられる方はそのために多額のお金をかけています。
- 久道
- 男子は傾聴力の高低で人生が大きく変わることを心に刻みます。今日は勉強になりました。ありがとうございました。
- 関口
- ありがとうございました。
- 関口 由紀(せきぐち・ゆき)
女性泌尿器科専門医/女性医療クリニックLUNAグループ理事長
1963年、神奈川県生まれ。山形大医学部を卒業し、横浜市立大学医学部泌尿器科などをへて、2005年に「横浜元町女性医療クリニック・LUNA」を解説。現在は主に生殖年齢にある女性の健康管理を行う「女性医療クリニックLUNA 横浜元町(婦人科・乳腺科)」、更年期以後の女性の健康管理と抗加齢医療を行う「女性医療クリニックLUNA ネクストステージ(女性内科・女性泌尿器科・美容皮膚科)」の二つのクリニックを運営。人生100歳時代の日本の中高年女性の骨盤底・血管・骨・筋肉の総合的な維持管理を提唱し、生涯にわたるヘルスケアを実践している。
女性医療クリニックLUNA
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