Aging Gracefullyプロジェクト オンライン勉強会
リモートワーク時代のコミュニケーション術
Project report キャリア 学び ハウツー
[ 22.01.17 ]
朝日新聞社と宝島社の女性誌「GLOW」による「Aging Gracefully」(以下、AG)プロジェクトは、40代、50代のAG世代の女性たちを応援するために、企業向けの勉強会や一般の方向けのセミナーなど、様々な活動を展開しています。
2021年12月8日には、企業向けのオンライン勉強会をZoomで開催しました。
産業カウンセラーで日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子さんをお迎えし、「リモートワーク時代のコミュニケーション術」をテーマに講演していただきました。
大野さんは、産業カウンセラーとして約20年に及ぶ企業内での現場経験を生かし、主に人間関係改善に必須のコミュニケーションやストレスマネジメントについて、官公庁や企業、大学、医療機関などで講演や研修を行っていらっしゃいます。著書「よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑」(2020年、サンマーク出版)は33万部を突破、働く人のために特化した第2弾も合わせると、累計39万部を超えるベストセラーになっています。
2020年春にコロナ禍が始まった当初は「通勤時間がなくて楽」「嫌な上司の顔を見なくて済む」などの理由でリモートワークを前向きにとらえる声が多かったそうですが、3カ月を過ぎた頃から不調を訴える人が増えたと、大野さんは言います。
「リモートワークは時間の管理が難しく、精神的に休めないことがあります。生活の中に職場環境が持ち込まれて、切り替えができない。集中力が下がり、リフレッシュも難しい。一人で在宅勤務をしていると、オンラインでつながっていても精神的な孤独感、孤立感を感じ、『自分が何をしているか時折わからなくなる』という方もいます」
厚生労働省によると、2020年の自殺者は2万1081人と前年より912人増え、リーマン・ショック翌年の2009年以来、11年ぶりに前年を上回りました。このうち女性は7026人で、前年より935人増えました。
(参考:朝日新聞デジタル「2020年の自殺者2万1081人 11年ぶり増」)
「家事や育児における女性の負担は今も大きいので、リモートワークをする中でさらに負担が増えてしまったことが要因のひとつに挙げられます。お子さんの学校が休みになって食事の支度をしないといけない。静かに一人で会議に参加する場を確保できない。友達に電話して愚痴を言いたいけど、夫がずっと家にいるから電話できない。カフェでお茶を飲みたいけど、緊急事態宣言で外に出ることがはばかられてリフレッシュできない……。苦しんでいる女性は本当に多かったと思いますし、実際にそういうお悩みの相談もたくさん受けました」
全般に、働く人の悩みの9割は、身近な人間関係から発生すると言われています。
「多くは上司、次に同僚、取引先、関係先、そして家族。人間関係が良好であることがメンタル不調の軽減や、ハラスメントトラブルの予防につながります。日々のコミュニケーションスキルをアップさせることが、快適な職場には欠かせないと感じています」
こうした人間関係のストレスを増やさないために、大野さんは四つのポイントを挙げます。
「まず、適度な距離感。ビジネスの場なので、相手を尊重し、対等な関係性は必要ですが、職場になれなれしさは必要ありません。次に、自己コントロール。社会生活が長くなると自分の気持ちを抑え込むことを学び、本当の自分の気持ちが自分でもわからない、という状態が起きます。自分の気持ちを把握できないと他人に振り回されやすくなり、非常にストレスを感じるので、まずは自分の心と向き合う時間を持つことが必要です」
「三つ目は、ポジティブな表現。例えば結婚式のスピーチでは忌み嫌われる言葉を避け、幸せな言葉を選びますよね。それがポジティブな表現の最たるものです。ポジティブな表現をすると、自分の行動や相手の言葉も変わってきます。最後に、本音を言える場所。精神的な居場所がないとゆとりが生まれず、コミュニケーションの土台ができません。友人や家族、コミュニティーの仲間など、自分の本音を吐き出せる場所を持つことは非常に大切です。ただし、マイナスの反応が来ることもあるので、SNSはおすすめしません」
長く企業内カウンセラーを務めている大野さんの経験によると、研修や人事相談を通して効果的な「1on1」を行っている企業には人間関係のトラブルが少なく、特に最近は、オンラインを希望する社員が増えたそうです。
「自分自身と向き合う必要があるので、オンラインで他人がいない方が話しやすく、相談する場を誰かに見られない方がいい、と言われることが増えました。できれば頻繁に、短い時間でいいので、定期的にミーティングをする方が話しやすいと思います。また、孤立感や孤独感を訴える20代、30代には、『オンラインで常時接続だと安心する』という人が多いですね。若い人たちはいつでもつながれるという感覚が欲しいし、ちょっとした雑談が大事。業務以外の趣味の話などをしやすい関係を作っておいてください」
そんな20代、30代のデジタルネイティブ世代が苦手なこととして、次の3点を挙げます。
「疑問に思ったことは何でもスマホで検索し、『まず考える』という思考が欠落しているので、先が見えない長期プロジェクトなどが非常に苦手です。こちらからは細かく区切って指示を出すなどの地道な繰り返しが必要です。そして、事前に入念にチェックしてから行動することが身についている一方、飛び込み営業やイレギュラー案件には非常に弱い傾向があります。こちらからは前例や資料を共有し、どこで情報を得られるのかを最初の段階で伝えることが大切。ただ指示を待つだけにならないように、自主的に動いてもらってください。さらに、学生時代から文字ツールでのやりとりが主で、考えて言葉を選ぶことには慣れていますが、瞬時に即答を求められるツールには特に苦手意識があります。職場で電話を使う機会を設けるなどして慣れてもらいましょう」
勉強会ではこの後、受講者全員に参加していただいて、Zoomのブレイクアウトルームを使い、3人1組でグループワークを行いました。
まず、仕事を依頼する場面のNGワード「これなんとかならない?」と「できれば早めに頼む」の二つについて、ふさわしくない理由と「ベターな言い方」を考えました。
続いて、期限を示す場面で使われる「近日中に連絡します」と、金曜日の午後に「返信は、週明けで構いません」とメールを送ることについて、ふさわしくない理由とベターな言い方を話し合いました。どのグループでも活発な議論が交わされていました。
最後は、相手を傷つけないためのコツを、大野さんがまとめました。
第1に、人格否定表現を使わないこと。
「行動に対しての注意や指導、助言か、その人自身を表すかによります。『嘘(うそ)をつかないでね』と言うのは行動に対する要求ですが、『嘘つき』と言ったら人格を否定することになる。その人本人を中傷するような言葉は人格否定になりやすいので、気をつけましょう。また、みんなに知って欲しいことがあっても、みんなが見ている場でその人を攻撃するようなことは避ける方がいいです」
第2に、表情や語調に気をつけること。
「どんなに丁寧な言い方でも語気や語調によって違うニュアンスになることがありますし、無表情だと何を考えているかがわからなくて不安になります。PC画面では動きが少なくて表情が固まりがちなので、表情を動かしたり、手を使ったりするだけでも動きが出ますし、動きが出ると相手に安心感を与えます」
第3に、事前にアナウンスすること。
「こちらが伝達しているつもりでもスルーされていることがあるので、大事なことは事前に繰り返しアナウンスしてください。『私、聞いてない』みたいなことになるのは誰でも嫌ですよね」
第4に、遠回しな表現を避けて、わかりやすいように伝えること。
「日本人は察する文化の中で生きているので、わかりにくい表現を使いがちですが、『察してよ』は暴力です。『こうしてもらえませんか。できなかったら相談してください。フォローします』と率直に言って、フォローする態勢を作ることが大切です」
第5に、依頼や謝罪、認識の違いを感じたときは、文字だけでやりとりしないこと。
「認識のずれを感じているのに、チャットやメールなど文字だけでやりとりを続けるとドツボにはまります。言葉を話すのと文字で書くのとでは情報量に格段の差があるので、実際に会って話すか、音声ツールや電話で確認することをおすすめします」
この日の勉強会では、リモートワークに特化したコミュニケーションについてお話しいただきましたが、「ツールが変わっても、人に対する配慮や尊重は変わらない」という大野さんの言葉が印象に残りました。オンラインだからできない、と諦めるのではなく、遠くにいても参加できるオンラインのメリットを生かして、活用するきっかけにできれば、と思いました。