一度きりの人生だから
何げない日々も大切に
今、この瞬間をいとおしむ
[ 24.04.08 ]
元気印だったあの頃から、たおやかな大人の深みを増した40代の内田有紀さんへ。フレッシュな魅力はそのままに、やさしさに満ちた笑顔は、見る人をさわやかで明るい気持ちに導いてくれます。俳優として、ひとりの女性としてさまざまな経験や出会いを積み重ねていく中で変化した人生観を背景に、今の思いを自然体の言葉で語りかけてくれました。
鏡を見たときの自分に
がっかりしたくないんです
休みの日は、海や山などの自然豊かな場所に出かけて、テントを張ってのんびり過ごすことが多い内田さん。「冬の間はこたつを持ち歩いてキャンプをしていたので、もっと身軽に外遊びができるこれからの季節がとても楽しみです」と瞳を輝かせる。そのフットワークの軽さと40代になっても維持されているスリムな体形から、ストイックな運動習慣をお持ちなのではないかと尋ねると、意外にも「思いついたときだけ、自重でできる『ながら運動』をしています」とのこと。
たまに動画配信サイトに投稿されているエクササイズの中で、簡単そうなものを組み合わせてやってみることもある。ただし基本は、日常生活の「ながら運動」。たとえば移動の時間が長いときは、なるべく車の背もたれに寄りかからないよう腹筋を意識したり、足を浮かせたまま座ったり。時間に余裕があれば、歩ける距離なら迷わず歩く。
「そういう感じで、本当にちょっとしたことですが、なるべく実践することが大事だと思ってやっています。気が向いたときに無理のない範囲で。ただし、年相応の範疇(はんちゅう)で鏡を見たときにがっかりしない自分でいたい。その気持ちはものすごく強く持っていて、ひとつの支えになっているかもしれないです」。他者の視点よりも、自分の中の美意識を軸にからだと向き合う。それは、気持ちの強さにからだがついてくることもあるということの、ある種の証明になるかもしれない。
食生活のスタンスも運動と同じく、「基本的に制限をせず、好きなものを好きなだけ食べる。それがわたしの健康法です」と笑う。もちろん撮影の前日は好物の揚げ物を控えるなどの調整はするものの、自らルールを科すようなストイックさはない。「健康法とかダイエット法という意味では、わたしの話は読者のみなさんの参考にならないかもしれません。でも、もしこれを読んで、勇気づけられる人がひとりでもいるなら、『今は好きなものを好きなように食べよう』と伝えたいです。わたしもそうだから、ひとまず今は仲間でいましょう、と」
一度限りの人生だから
自分の心の声を無視しないで
多忙を極めた10代の頃は、少しでもスリムに見られたくて食事を我慢することも多かったそう。ところがそんな姿を見ていた共演者のひとりが投げかけた「(我慢ばかりして)それでいいの? 明日死んだらどうするの?」という言葉で、ハッと目が覚めたのだという。
「あの日は、それまで食べたいと思っていたものを全部いただきました(笑)。そのときに気づかせてもらった『人生は一度きりなんだ』という視点は、今もあらゆる場面でお守りになっています。もちろん健康思考は必要なことですし、わたしもそういうマインドになるときもあります。ただしそれでストレスをためているとしたら、その我慢は一体何のための我慢なのか、立ち止まって考えてみてもいいかもしれないですね」
常に人目にさらされ評価される厳しい芸能界で、唯一無二のポジションを確立することも、長年活躍し続けることも、当然だがそんなにたやすいことではない。まして年齢を重ね、いろいろなものを背負いながら、おおらかで自然体でいることはそれ以上の難題かもしれない。
「わたしは人と接するとき、いつも相手に対して自分を飾らないようにしています。年を重ねてきて思うのは、結局人は中身だということ。その人の生き方、経験してきた苦労……そういうものすべてを含めていとおしいと思って付き合っていくことが素敵だと思うんです。 だからうそをつかないし、思ったことはなるべくその場でストレートに言うように心がけています。たとえば何かに対して異議を唱えるのは相手が誰でも難しいことだけれど、撮影の現場であればなおさら、今の年齢、キャリアだからこそ『わたしが言わなきゃ』という場面も増えてきたように感じます」
みんながベストを尽くせるよう
潤滑油みたいな存在でありたい
自らの発言が周囲を抑え込むことにならないよう、自分自身の影響力を自覚しつつ、「これってどう思う? 」とオープンかつフラットに問いかける。その場にいる全員にとって最良の答えを歩み寄りながら見つけることが共同作業の醍醐(だいご)味であり、仕事でのモチベーションでもあるからだ。
「自分の意思で動いているという自覚が伴うと、生きている実感が増します。でも独りよがりにはなりたくない。仕事にも遊びにもそれは通じていて、自分の思いだけじゃなく、人とすり合わせをして、素敵な結果が生まれるように考えるのが何よりも意味があること。年齢を重ねてカドが取れることで、人と人の間の潤滑油みたいな存在になれたらいいな、と思っているんです。そういう自分を思い描きながら、人と向き合っていきたいです」
思いを伝えるだけでなく、相手の思いも受け止める。そんな自分も相手も尊重するような会話をするためには、自分自身の状態を常にニュートラルにしておくことが大切。「寝不足だったり、少し体調が悪かったりするだけで、人に優しくする余裕がなくなりますよね。からだが元気だからこそ、人間関係も丸くなって笑顔が生まれるんだと思います。自分自身で体調管理をすることはもちろん、家族やパートナー、仲間など、側にいる人たちとお互いのトゲを抜き合うことも大事ですよね。自分が穏やかだったら、きっと相手も穏やかでいられると思うんです」
- 内田 有紀 Yuki Uchida
- 1975年生まれ、東京都出身。近年の出演作に「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」シリーズ(テレビ朝日系、2012年から)、NHK連続テレビ小説「まんぷく」(18年)、「連続ドラマW 華麗なる一族」(WOWOW、21年)、「未来への10カウント」(テレビ朝日系、22年)などがある。4月30日から放送されるドラマ10「燕は戻ってこない」(NHK総合、火曜夜10 時)に出演。
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