人生は意外と短いと気づくことが
ポジティブな力を与えてくれる。
[ 24.01.15 ]
スタイリッシュで凛(りん)としたたたずまい、屈託のない気さくな人柄で、大人の女性たちの憧れを誘う板谷由夏さん。年齢を重ねるほどにその個性は深みと輝きを増し、俳優として唯一無二の存在感を放っています。2023年秋には連続ドラマ初主演を果たし、新年は大河ドラマにもとひっぱりだこ。多忙な日々のなかでも、晴れやかで前向きな気持ちを保ち続ける秘訣(ひけつ)とは。
仕事に集中して忙しい時のほうが
不思議と心も体も元気になる
2023年は「仕事を頑張った1年」と振り返る板谷由夏さん。中でも印象に残っているのは、連続ドラマ初主演を果たした「ブラックファミリア~新堂家の復讐~」だったそう。二転三転する先の読めないストーリーと衝撃的なラストが大きな反響を呼んだ話題作でもあり、ご自身も大きな手ごたえがあったようです。
「主演と聞いて最初はびっくりしたんですが、演じるという点ではあまり変わりがなかったですね。重い内容だったので心は疲れたかなと思いますが、すごくやりがいがあって楽しかったです。たくさんの方に見ていただけてちゃんと反応も返ってきたことがうれしくて、この作品に主演できてラッキーでした。ロケ地が遠くて睡眠不足になりがちだったんですけど、その割にはすこぶる元気で肌の調子もよかったんです。アドレナリンが出るせいなのか、忙しいほうが、調子がいいのかもしれません(笑)」
新しい年もしばらくは、仕事モードが継続。というのも、1月に放送が始まったNHK大河ドラマ「光る君へ」に出演し、きらびやかな平安の貴族社会という舞台に身を置くことに。板谷さんが演じる藤原道隆の妻・高階貴子は才女で、今でいうキャリアウーマン。夫や子どもたちの将来を見据えて、したたかに知恵を働かせる姿に興味をそそられるといいます。
「百人一首にも歌が残っているくらい知的で政治にも見識のある、現代女性に通じる感覚を持つ女性だと思います。せりふが難しくて……天皇家にお嫁にいくことを入内(じゅだい)というのですが、知らない言葉がたくさん出てくるので勉強にもなりますね。といっても大石静さんの脚本なので、今っぽくアレンジされていて、軽やかに描かれています。平安時代は戦争がなく平和なのですが、内情の権力争いが激しいんです。いろいろな個性を持った女性たちの思いや思惑が交錯するちょっとドロッとした世界は、武将たちが活躍する勇ましい大河ドラマとはひと味違う面白さがあるはず」
自分を縛っていたのは自分自身
「白旗」を揚げてみたら気が楽になった
伸び伸びと充実した日々を楽しんでいるように見える板谷さんですが、かつては苦しい時期もあったと告白します。それは、仕事と家事・育児をこなし、「やらねばならない」ことに一日が埋め尽くされている女性なら、誰しも経験したことがあるかもしれません。
「若い頃は、晩ごはんで使ったお茶わんを洗わないと寝られなかったんです。どんなに疲れてへとへとでも。そうすると、だんだん『私はこんなに頑張っているのに、どうして家族はわかってくれないの?』って、人を責める気持ちが生まれてくるんですよね。『私はお茶わんを洗っているのに、夫と子どもはプロレスなんか見てる!』って。『やらなきゃいけない』という自分の理想で自分を縛って、完璧主義みたいなことになっていたんです。誰に要求されたわけでもないのにね」
そのモヤモヤから抜け出したのは、40代に入ってからのこと。体力的にも頑張りがきかなくなってきて、「できない自分」を受け入れざるを得なくなったことが、ネガティブな気持ちから自分自身を解き放つきっかけに。
「『できない』って言ったら、夫や子どもはイヤな顔をするだろうなと思ってずっと言えずにいたんです。だけどある日、『今日は疲れていてお茶わんを洗う元気がないから、先に寝るね』って思い切って白旗を揚げてみたら、驚くほど普通に受け止めてもらえたんです。自分がベストだと思って頑張っていたけど、家族は気にもしていなかったんだなと。それ以来、我慢や無理をしなくなって、わがままになった気がします。おかげでストレスが減りましたし、今では夫と子どもがプロレスを見ていると、『ママの自由時間だ』と思えるようになりました(笑)」
今日の自分が一番若いから
やりたいことはすぐにやらなくちゃ
重苦しいものをどんどん手放したことで、「若い頃よりも毎日が楽しい」と目を輝かせる彼女。この先、どんな風に年齢を重ねていきたいかをたずねてみると、「『いつも遊んでるよね』って言われるような、元気なオバサンになりたい」と、ちゃめっ気いっぱいの笑顔。
「いただいた仕事にしっかり取り組みながら、ちゃんと遊んでいるのが理想。『板谷さん、80歳すぎてるのにあちこち飛び回っているらしいよ』とうわさされたりして(笑)。年齢をできない理由にしたくないので、興味を持ったことにはどんどん挑戦していけたらと思っています。そのためにも健康第一で、無理しすぎず、我慢しすぎず、自分をいたわりながら毎日を楽しんでいきたいです」
旺盛な好奇心とフットワークの軽さが、板谷さんの元気の源になっていることは間違いありません。ですが、挑戦したいと思いながらも先送りにしてしまうなど、ちょっと腰が重くなってしまうのも大人世代にはありがちなこと。そんな時に気持ちを前向きにする秘訣は、意外にも「危機感」だといいます。
「人生は意外と短いんですよ。10年なんてあっという間で、自分のことを後回しにしたり、悩んだりしている時間はありません。それに、今日の自分が一番若いんですよ(笑)。だから、やりたいことはすぐにやらなくちゃ! やりたいことが見つからないという声も聞きますが、世の中は知らないことだらけだと気づけば、知りたいことややりたいことがたくさん見つかるんじゃないかと思います。一度しかない人生だから、いろんなことを経験して、おいしいものを食べて、思いきり楽しまないともったいないです!」
- 板谷 由夏 Yuka Itaya
- 1975年6月22日生まれ、福岡県出身。1999年に映画「avec mon mari」で俳優デビューし、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。ファッションブランド「SINME」のディレクターで2児の母。近作に主演映画「夜明けまでバス停で」(2022年)、ドラマ「シッコウ!!~犬と私と執行官~」(23年、テレビ朝日系)、「離婚しようよ」(同年、Netflix)、主演ドラマ「ブラックファミリア~新堂家の復讐~」(同年、日本テレビ系)など。現在、NHK大河ドラマ「光る君へ」(毎週日曜夜8時)に出演中。
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