自分の機嫌を取りながら
フラットな状態を保つだけで
毎日が楽しくなる
[ 24.02.19 ]
知的で凛(りん)とした美しいたたずまいとちょっぴりおちゃめな親しみやすい人柄で、私たちを魅了し続ける吉田羊さん。俳優として新年早々から大河ドラマをはじめ、話題作への出演が続きます。一方で、昨年は着物のエッセーを出版したり、着物イベントを開催したりと趣味のフィールドでも精力的に活動。「羊ワールド」をさまざまな形でシェアしています。そんな彼女にとって「好き」は、日常を輝かせるための欠かせないエッセンスのようです。
平安時代や昭和など、時を超えた物語が
「今」を考えるきっかけになれば
実力派俳優として揺るぎない地位を築いている吉田さん。現在も二つの出演作が放送されています。一つめは、NHK大河ドラマ「光る君へ」。世界最古の女性文学といわれる源氏物語を世に送りだした、紫式部の人生を描くストーリーです。吉田さんは時の権力者・藤原兼家の娘で、柄本佑さん演じる道長の姉・藤原詮子(あきこ)役。のちの一条天皇の母で、宮廷で次第に勢力を増していく政治的手腕に優れた女性です。
「文献を読むと、兄上たち顔負けの気の強さと政治的才覚を持った、女帝とも裏の政治家とも呼ばれる、とにかく強い女性というイメージですが、本作では彼女の純粋さや不完全であるがゆえの人間味、歴史的な出来事の裏にあったであろう葛藤などが描かれています。世間が持つ藤原詮子のイメージを、いい意味で裏切るような魅力を伝えられたらと思って演じています。平安時代の貴族社会で覇権争いに終始している男性たちの裏で、詮子をはじめ、出世するための道具として扱われていた女性たちが、実は政治的な判断に影響を与えているところがおもしろいなと思います。なにより、大石静さんの脚本なので、恋愛模様でも盛り上がれるはず」
二つめは、宮藤官九郎さんが脚本を手掛けるTBS系の連続ドラマ「不適切にもほどがある!」。阿部サダヲさんが演じる、コンプライアンス意識の低い昭和のおじさん・小川市郎が、令和にタイムスリップ。ギリギリの「不適切」発言を繰り出し、令和の停滞した空気をかき回します。吉田さんは令和から昭和に息子とともにタイムスリップする、ジェンダー問題を扱う社会学者の向坂(さきさか)サカエを演じています。
「宮藤さんの脚本は、ぶっ飛んでいて痛快、そして温かいです。新しい台本が届くたびにゲラゲラ笑っていますが、ふと、家族の問題とか、人生の生きづらさとか、誰しもが思い当たるトピックに笑いをまぶして寄り添ってくれていることに気づいて、ぐっと来るんですよね。ロケ撮影では『よくぞ、残っていてくれた』と思うような、美容室や喫茶店を訪れることが多くて楽しいです(笑)。40代以上にとっては懐かしい場面やアイテムがたくさんありますので、ぜひ探してみてください。『あーこれ持ってたなー』なんて言いながら。市郎さん親子と我々親子のコミュニケーションは違って見えますよね。昭和はとにかくうるさい(笑)けど、言葉は粗野なのに、本音と本気でぶつかり合っているし、お互いを大切に思っていることがありありと分かる。だから、相手を尊重する令和も素敵だけど、昭和なりの良さもあるよなぁと思いながらお芝居しています。どちらかを悪者にするのではなく、両時代の良いところと悪いところを見つけて、みんなで考えるきっかけになったらうれしいです」
年齢のせいだからと諦めずに
手をかければ、必ず体は応えてくれる
やりがいのある作品に恵まれて忙しい日々を送る吉田さんですが、年齢による変化を感じることも多いといいます。そうした気がかりを解消すべく、4年前からランニングとジムでのトレーニングを始めたり、食事を見直したり、睡眠の質を高めたりとさまざまな試みをしているそう。
「走るとやっぱり気持ちがいいですね。道具をそろえなくていいし、思い立った時に一人でできるので続けやすいのかも。数日休んでも走れば体が戻りますし、風邪もひかなくなりました。食事では体が喜ぶ食材を選び、おみそ汁などの発酵食品をとるようにしています。それに、疲労回復や美容には睡眠が一番! 自分の適正睡眠時間が7時間半だとわかったので、生活が不規則になった時にその時間を確保するように修正すると、体が気持ちよく作動していく感覚があります。『継続は力なり』で体質改善が進んだみたいで、今までで一番健康で肌の状態もいいんです。手をかければ、体は必ず応えてくれるんだなと実感しています」
さらに昨年夏からは頭髪ケアも。頭皮を刺激せずに泡で優しく包み込むように洗い、シャンプーやトリートメントの成分をしっかり浸透させるお手入れ方法で、みるみる髪質が柔らかく滑らかになり、あまりの即効性にびっくり。
「もともと硬い髪質なのですが、抜け毛やうねりが気になるようになったんです。年齢のせいかなと諦めていたのですが、他に原因があるかもしれないと思って専門家に見せてみたんです。そうしたら『髪の毛を育てる土が死んでます』なんて言われてしまって(笑)。それまでは血流を促すためにガシガシとマッサージをしていたんですが、頭皮は髪の土台で顔の延長線と考えれば、優しく洗うほうがいいのだと腑(ふ)に落ちます。手間も時間もかかりますが、すぐに髪の指通りがよくなるので楽しいです」
「きっとできる」と自分に期待して
一つひとつの課題と向き合っていく
足りないところを補い、改善しながら体調を整えていく姿勢は見習いたいことばかり。とはいえ、日々の中では気力が続かなかったり、心は元気なのに体が言うことをきかなかったりすることがあるものです。それでも「自分に期待する」ことが、前を向いて進んでいく力に。
「小さい頃から恥ずかしながら努力を怠ってきた人間なので、そのツケを今払っている感覚があるんです。人生の土俵に上がっているみなさんのそばで、せっせと壁を相手にぶつかり稽古しているようなところがあって。体力が衰えてきたり、心が折れてしまったり、思うようにできない自分に焦ることもしばしばですが、『絶望しない』と決めています。こんな自分にもいつかできる、そういう時が来ると信じて、目の前のことを一つひとつクリアしていこうと思っています」
誰しも、体調や気持ちが一度落ち込んでしまうと、元に戻すのはなかなか大変なこと。だからこそ、うれしいこと、楽しいことをちりばめて、フラットな状態を保つことが大切。
「自分の機嫌を取るのは自分しかいませんから、ちょっと不安定になってきたと感じたら、『好きなこと』のスパイスをかけるようにしています。おいしいものを食べる、好きなものを着る、展覧会や音楽、映画など、好きな世界に触れることが弾みになります。『鉄は熱いうちに打て』と言うように、早く手を打てばすぐにフラットな状態に戻れますが、時間が経ってしまうと戻すのに労力が必要になってしまいます。年齢を重ねたら、体調や気分の浮き沈みは当たり前に起こること。だから、日常をフラットに生きるだけでポジティブな気分になれる気がします」
- 吉田 羊 Yoh Yoshida
- 福岡県久留米市出身。舞台を中心に活動後、2007年ごろからテレビや映画など多岐にわたり活躍。趣味の着物をテーマにしたフォトエッセー「ヒツジヒツジ」(宝島社)を23年に発表。近作のドラマは「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」「侵入者たちの晩餐」(いずれも日本テレビ系)、「OZU~小津安二郎が描いた物語」(WOWOW)、映画は「イチケイのカラス」(23年)、「Winny」(同)など。現在は大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合、日曜夜8時)、連続ドラマ「不適切にもほどがある!」(TBS系、金曜夜10時)に出演中。
- 記事のご感想や、Aging Gracefully プロジェクトへのお問い合わせなどは、下記アドレス宛てにメールでお寄せください。
Aging Gracefullyプロジェクト事務局:agproject@asahi.com