坂本真子の『音楽魂』
SHOW-YA寺田恵子さんインタビュー〈後編〉
老いを恐れず、音楽にうそをつかない
「歌うことは、自分の今生の天命」
Special 音楽 ライフスタイル 更年期
[ 22.06.22 ]
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクトリーダーの坂本が、音楽の話をお届けします。
デビューから35年余、日本の女性ロックバンドの先駆けとして走り続けてきた「SHOW-YA」。フルオーケストラと共演した「BATTLE ORCHESTRA 2022」(DVD+CD)を6月22日に発売するなど、積極的に活動する一方で、50代の女性として感じていることを、ボーカルの寺田恵子さんに聞きました。インタビュー後編では、生き方や日々の思いを語ります。
いつもパワフルなライブで観客を圧倒するSHOW-YAですが、デビュー30周年の2015年12月に行われたライブでは30曲を披露しました。体力や持久力を維持するため、日頃からジムに通ってトレーニングを続けていたという寺田さんは、コロナ禍以降は主に自宅で体を鍛えています。
「近所をウォーキングしたり、家でスクワットをやったりしています。スクワットは1日50回ぐらい。どの筋肉を鍛えたいかによって足の開き方を変えたり、ゆっくり沈んだり、いろいろ工夫しています。たばことお酒はやめられないですけど、野菜をいっぱい食べて、お肉も食べて、健康にいいと聞いたら何でも試しています」
コロナ禍で家にいることが増えてからは、体形の維持にも気を使っているそうです。
「今は運動してもすぐ落ちないし、一食抜けばやせられた、若いときと絶対違う。食事を抜くと逆にたるむので、 人に見られるとか、この服を着たいから気をつけるとか、意識することが必要なのかな、と思います。この年齢で、おへそを出して街を歩くことはさすがにできないけど、意識を持つことは大事。意識することで体も変わると思っています」
「年をとることを考え過ぎないで」
寺田さんは現在58歳です。年齢を重ねることをどうとらえているのか、尋ねてみると、 「老いを恐れないことかな」という答えが返ってきました。
「老いも自分のことだと、初めからわかっていればそんなに怖くないかな。若い子に『あんたたちだっていつかは年をとるのよ』みたいな話をするけど、本当に心からそう思っていて、いつかはみんな老いていくということを理解しないと、しんどいと思います」
50代に入った頃、男性の先輩ミュージシャンたちに、「50からのロックはきついぞ」とアドバイスされることが多かったとか。
「だったら、それに耐えられる体作りをしようと切り替えました。でも50代は年々、自分の移り変わりがよくわかる。老いた自分を鏡で見て、今までやれたことができなくなると、どんどんネガティブになっていくじゃないですか。だから、それはそれで認める。認めた上で、やっぱり努力しないと変わらないと思うんですよ。そして、その努力を楽しむ。しわが1本増えたら、クリームを一生懸命探せばいい。苦手なものにチャレンジして一歩前進するように思えばいいんじゃないかな。鏡の前で毎日見ているから、自分のことは自分が一番よく知っているし、明日またどこか痛いって言うかもしれないけど、それも私。若いつもりでいて、ある日突然『こんなはずじゃなかった』とならないように、老いを受け入れて付き合っていく方が楽しい人生を送れる気がします」
かつて俳優の夏木マリさんがCMで「年齢は記号」と発言して注目されましたが、寺田さん自身も、年齢のことをあまり気にしないそうです。
「日本では、いくつになったらこうあるべき、と考え過ぎる傾向があって、『いい年して、そんな洋服やめなさい』とか、『いい年して、そんな髪形』とか。それが個性をつぶしているのかな、と思う。海外の人が真っ赤な髪をしていても、誰も『いい年して』と言わないのに、なんで日本ではそういう風に言われちゃうんだろう。 自分が好きな髪形や色、洋服を周りも普通に認めればいいし、年をとることを考え過ぎない方が楽しいと思いますね」
「更年期は周りの理解が大事」
更年期は、女性ホルモンの分泌量が急減し、閉経を迎える前後の約10年間を指します。体内のホルモンバランスが乱れることで自律神経の働きにも乱れが生じ、多くの女性が心身の不調に見舞われます。
寺田さんは30代の終わり頃から変化を感じていたそうです。
「イライラして、何か言われるとすぐキレるようになったことが最初です。あまりにもブチギレすることが増えて、そのタイミングを自分でコントロールできないんですよ。キレたくないのに、何かのワードでパッとスイッチが入っちゃう。その後は自己嫌悪に陥るし、本当に嫌でした。そして汗。買い物にちょっと行っただけで水浴びしたみたいに頭がぐしゃぐしゃになるときもあるし、冬なのに布団がぐしゃぐしゃに濡れることもあって。それでも40代前半の数年間は理由がわからなくて、特につらかったですね」
医師の診察を受け、更年期の症状と診断された寺田さんは、自分から周囲の人たちに話しました。
「病院で薬をもらっていた時期もありました。一人で抱え込むときついし、周りに理解してもらえないときは本当につらかったけど、『こういう状態なので気にしないでください』と説明して、理解してもらうことで乗り越えられたと思う。 更年期は、人によってはすごく重い症状があって生活が不自由になる。それを周りに理解してもらうこと、そして、自分でも理解することがすごく大事だと思います」
ここ数年は少しずつ更年期に関する情報が増え、メディアで取り上げられることも増えてきました。寺田さん自身は、最近は不調の頻度が減り、ときどき汗をかくぐらいですが、早い時期から苦しんだ経験をもとに、周りの女性たちにアドバイスすることもあるそうです。
「更年期の症状がずっと出ない人もいるし、若くして更年期になる人もいる。でも、ほかの病気は言えるのに、更年期だけ言えないのはおかしいですよね。恥ずかしいこと、つらいこと、周りに知られたくないことではないはずです。例えば、更年期の女性だけでバンドを作って、汗を流しながら盛り上がって『あなたも私も更年期』みたいに楽しく言えたら楽だよね。男の人も更年期になるし、特別なことではないから、 一人で抱え込まないで周りに話す方が絶対に楽だと思います」
「声が出る限りは歌い続けたい」
寺田さんが音楽と向き合うときに、最も大切にしていることは何でしょうか。
「 うそがないこと。音楽に対しては絶対にうそをついてはいけないと思っているので。歌詞の内容を『嫌だな』と思って歌ったり、気の進まない音楽を作ったりすることは絶対にしてはいけない。嫌だったらやるな、と思うし、そこだけは曲げられないですね。納得すればどんな曲でも歌うし、どんなライブでもやるけど、納得しないまま歌ったり、ライブをやったりすることは絶対にありません」
年齢を重ねても、ライブにはいつも全力で臨むSHOW-YA。ただし、ハードロックのシャウトはのどに負荷がかかります。一般的に、年齢と共にのどの回復力も落ちると言われています。
「のどが詰まると声を出しにくくなるので、のどが開くように立つこと。歌うときの姿勢が大事ですね。のどは楽器なので、ギターやベース、ドラムを点検や修理に出すのと同じように、専門の先生に体のケアをしてもらっています。のどを新しいものに取り替えるわけにはいかないので、しっかりケアするようにしています」
SHOW-YAは、来年が終わるまでには5人全員が60代に入りますが、「人生100年時代」では、還暦はまだ道半ばとも言えます。寺田さんは今後に向けて決意を語りました。
「声帯も年をとると言われているけど、努力すればこれからも伸びていくと思っています。声が出る限りは歌っていたいし、1人でも私の歌を聴きたいという人がいれば、 どんな形であれ、歌い続けます。ずっと歌を歌う生活、人生は、自分が望んだものだし、それが自分の今生の天命だと思っているので、全うします」
寺田さんにインタビューしたのは、実は26年ぶりです。1996年2月26日の朝日新聞夕刊に記事が載っています。SHOW-YAを離れてソロで活動する中で、「私はハードロックでないと燃えない」と改めて実感し、「私は歌が好き。死ぬまで歌っていたい」と話していました。
四半世紀を経て、再び取材の場でお会いした寺田さんは、華やかなオーラを漂わせ、小柄な体が大きく見えました。若手の女性ロックバンドたちの成長を喜びつつ、SHOW-YAの歩みや自身の体調の変化についても率直に語った寺田さん。その言葉からは、音楽と真っすぐに向き合い、歌い続けることへの信念と覚悟が伝わってきました。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
撮影=伊ケ崎忍
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◆6月22日に「BATTLE ORCHESTRA 2022」発売。
DVDとCDの2枚組み(税込み8800円)。◆デジタル配信中
「限界LOVERS ~Battle Orchestra~」 https://ssm.lnk.to/GLBO
「組曲~Battle Orchestra~」 https://ssm.lnk.to/KBO◆ライブ「SHOWDOWN」
10月23日(日)、東京・EX THEATER ROPPONGI。17:00開演。
2021年発表のアルバム「SHOWDOWN」を全曲披露するライブ。
6月25日(土)にチケット一般発売開始。全席指定、前売り7700円(税込み、ドリンク代別)。
詳細は、https://www.diskgarage.com/ticket/detail/no090230◆「NAONのYAON 2022」を歌謡ポップスチャンネルで放送。
【再放送】6月26日(日)21:00〜24:00(21:00~22:15前編、22:15~24:00後編)
(※ご視聴には、スカパー!やケーブルテレビなどの契約が必要です)
詳細は、https://www.kayopops.jp/feature/naonnoyaon2022/SHOW-YAオフィシャルサイト https://show-ya.jp/
SHOW-YA=マスターワークス提供
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Aging Gracefullyプロジェクト事務局:agproject@asahi.com