坂本真子の『音楽魂』
歌手デビュー40周年、野宮真貴さんに聞く〈後編〉
更年期「ひとりで悩まないで」
最高のストレス解消法は、1杯のシャンパン
Special 音楽 ライフスタイル 更年期
[ 22.04.27 ]
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクトリーダーの坂本が、音楽の話をお届けします。
ファッションもサウンドも、いつもおしゃれな野宮真貴さんが、今年、歌手デビュー40周年を迎えました。4月20日に出した新しいアルバム 「New Beautiful」は、野宮さんの歩みと日本のポップスの歴史をたどる作品に。最近は自身の更年期体験を語り、40~50代の女性たちの共感を集めています。インタビュー後編では、そんな野宮さんの生き方や日々の思いを聞きました。
「40年間ずっと好きな仕事をしてきました。好きなことイコール歌うこと、ステージに立つこと、そしてお洋服も好き」と語る野宮さん。舞台の上ではいつもハイヒールを履いていますが、そのための準備が欠かせないそうです。
「ヒールを履いてドレスを着るとパーフェクトに決まるんだけど、だんだんヒールを履くことが、年齢とともに疲れてくるんです。だから今は、 ヒールを履くために筋トレをして体幹を鍛えています(笑)」
一般的にハイヒールで階段を下りると、前のめりになって怖いもの。野宮さんも、ステージ上で階段を下りるときはとても怖いと言います。
「年齢を重ねると、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になることもあるので、転んだら骨折するから命がけ(笑)。でも、筋トレで体幹を鍛えていれば、何とかスッスッと下りられます。 衰えていくことがある中で、自分がやりたいことのためには努力が必要。筋肉を鍛えることはすごく大事だと思います」
「自分を大切に生きた方がいい」
野宮さんは健康のために、普段からどんなことに気をつけているのでしょうか。
「すごく基本的なことですよ。早寝早起き、睡眠、バランスのとれた食事。そして、あまりストレスをためないようにするとか、本当に基本的なことです」
でも、ストイックに守っているわけではなく、野菜を食べない日もあるとか。1週間単位ぐらいでつじつまを合わせるようにしているそうです。
「 1杯のシャンパンを飲みたいために健康でいたい。この『1杯のシャンパン』が、私にとっては最高のストレス解消法なんです」
ここ数年は、あまり気の進まないことはやらないように、胸がざわつくようなものは遠ざけるように、心がけています。
「そう思うようになったのは更年期の頃からですね。更年期は、自分で感情をコントロールできなくなったり、鬱(うつ)まではいかないけど気分が落ち込んだり、いろいろなことが起こるんです。もうちょっと自分のために、自分を大切に生きた方がいいんじゃないかな、と考えるきっかけになった時期でした」
更年期は、女性ホルモンの分泌量が急減し、閉経を迎える前後の約10年間を指します。体内のホルモンバランスが乱れることで自律神経の働きにも乱れが生じ、多くの女性が心身の不調に見舞われます。
「最近やっと更年期の話をテレビで取り上げるようになりましたけど、女性同士でも会話に出てくることが意外と少ないですよね。人によっていろいろな症状があるし、例えばあまり更年期の症状が出なかった母親は、娘に教えられない、ということもあります。私も母からあまり聞いたことがなかったので、何か得体(えたい)の知れない変化があるのかと、すごく不安でした」
「知識を得ることが一番大事」
野宮さん自身は、更年期に差し掛かる前に、体の変化を乗り越えるための方法を調べました。
「 知識を得ることが一番大事だと思うんです。私の場合は、体に優しい方法があったらいいな、と思っていろいろ調べて、フィトセラピー(植物療法)とめぐりあいました。正しい知識を得て、知っていると怖くないんですよ。そして、 体験した方の話を聞いたり、ひとりで悩まないで相談したり、気の合う先輩と話したりすると、乗り越えられることが多いと思います」
また、本で読んだ、婦人科医の言葉にも助けられたそうです。
「婦人科のお医者さんの本に、『健康だからこそ、更年期の不定愁訴(しゅうそ)などがいろいろ起きる』というような言葉があって、女性ホルモンが減ると不調が起きるけど、健康だからその時期がある、と考えたら、気が楽になりました。ただ、実際には、起き上がれなくて、外出できないぐらい寝込んでしまうなど、更年期障害と呼ばれるつらい状態になる人もいます。その場合はしっかり医者に診てもらうことも大切です。正しい知識を身につけて、あまり怖がらないでいれば、いつかは過ぎ去ってくれると思います。そのためには、 『MY 婦人科医』を持つことも大事です。ちゃんとした情報があれば、無駄に心配しなくても済みます。例えば私は胸が痛くなって、かかりつけの婦人科医に診てもらったら、女性ホルモンが減って胸が痛くなることがあると知った、ということがありました。ちょっと調子が悪いときはまず婦人科の先生に診てもらって、婦人科でないものは病院で診てもらう。信頼できる、かかりつけの『MY 婦人科医』を持つことを、女性にはおすすめしたいと思います」
最近は女性誌などで更年期の経験を語ることが多い野宮さんですが、実際に更年期の渦中にいた頃は、「友達同士でもそういう話題にはならなかった」と振り返ります。
同じ事務所の仲良し三人組で始めた「 大人の女史会」は、野宮さん、モデルの松本孝美さん、タレントの渡辺満里奈さんが更年期や女性特有の悩みについてざっくばらんに話すというものです。野宮さんが60歳、松本さんが55歳、渡辺さんが50歳という年に雑誌の連載もスタート。「ひとりで悩んでいないで、みんなで解決」が合言葉だそうです。
「ひとりで悩むと不安になるけれど、誰かの体験談を聞くと、この人もそうだったんだ、と少し安心しますよね。この3人は5歳違いで、50代ぐらいで5歳違うと結構悩みも違うんです。3人で一度お食事をしたときに、『関節が痛くて』『少し経つと意外と自然に治っているのよ』みたいな会話をしたんですね。こういう悩みは女性の年代ごとにあるし、 ひとりで悩まないで、みんなで解決していこうという話になって、チームを作って活動しています。私が更年期の体験談を話すことで、『野宮さんもそういう時期があったんだ』と、ちょっと安心する方がいるのなら話そうと思いましたし、 誰もが過ごす時期だから、もっと普通に話していいんじゃないかな、と考えています」
年齢を重ねることは成熟すること
野宮さんは現在62歳ですが、最初に「老い」を感じたのは、老眼が進んだ40代後半の頃でした。
「白髪が増えたり、しみが増えたりすることには、対処法や、ごまかす方法があるけれど、 小さい字が見えなくなったときは、自分の老化現象を認めざるを得ないことが結構ショックでした。それでリーディンググラス、老眼鏡を買いに行ったら、全然おしゃれなものがなくて……」
そこで、眼鏡ブランド「JINS」とコラボしておしゃれな老眼鏡を作り、「マチュアグラス」と名付けました。現在は第2弾を発売中です。
「老眼という言葉がよろしくないと思っていて、最近はリーディンググラスが一般的になってきましたけど、見えないから使う道具というだけではなく、持っていてうれしいもの、使うなら気に入ったものがいいので、マチュアグラスと名付けたんです。今後は一般的になったらいいな、と思っています。年齢を重ねるといろいろな変化がありますけど、うれしくない変化をネガティブにとらえるんじゃなくて、若い人が『レンズだけ変えて使いたい』と思うぐらいおしゃれなマチュアグラスを作りたい。おしゃれアイテムがひとつ増えたと思えば、ちょっと楽しくなりますよね」
マチュア(mature)とは、成熟したさま、円熟したさまを意味する言葉です。
「 年齢を重ねることを、私は『年をとるのではない、成熟するのだ』といつも言っているんです。年をとっていろんなことができなくなったり、ちょっと容姿が衰えたりすることは、しょうがないですよね。 誰にでも老化現象は起こります。だけど、それをネガティブにとらえたら、いいことなんか1個もないですよ。成熟とは物事を深くとらえて、それをしっかり味わったり、楽しんだりできる力のこと。若いときには備わっていなかったものです。Aging Gracefullyのグレイスな生き方はすごく素敵だと思いますし、 年齢を重ねて自由であることを、私もとても大事にしています」
野宮さんが、更年期で不調を抱えた時期に「もうちょっと自分のために」生きようと考えたという話や、「ひとりで悩まないで」という言葉は、いま更年期まっただ中の40代、50代へのエールです。
そして、年齢を重ねることを自由に、前向きに楽しむ野宮さんの姿には、励まされます。インタビュー中のふんわりとしたやわらかい雰囲気も、とても素敵でした。野宮さんのように年齢を重ねられたら……。あこがれます。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
写真=篠田英美
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新アルバム「New Beautiful」発売中
「野宮真貴 40th Anniversary Live」
- 4月29日(金・祝) ビルボードライブ東京 ゲスト:横山剣さん
4月30日(土) ビルボードライブ東京 ゲスト:鈴木慶一さん、カジヒデキさん
いずれも1日2回公演(16:30開演、19:30開演)
☆29日19:30のステージはライブ配信されます(5月3日までアーカイブ視聴可能)
詳細は野宮真貴さん公式サイト(https://www.missmakinomiya.com/)と、ビルボードライブHP(http://www.billboard-live.com/)
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Aging Gracefullyプロジェクト事務局:agproject@asahi.com