Aging Gracefullyオンラインフォーラム2022
「女性の健康とサステナブルライフを考える」<前編>
「声」を整えるには、まず呼吸から
荻野目洋子さんと「音読」体験も
Special Project report 音楽 ヘルスケア ハウツー
[ 22.03.28 ]
左から荻野目洋子さん、井下香苗さん、斉田晴仁さん
年齢を重ねて、声やのどに変化を感じたことはありませんか。
「人生100年時代」に向け、40代、50代の女性たちを応援する宝島社『GLOW』と朝日新聞社によるAging Gracefully (以下、AG)プロジェクト。
今回は歌手の荻野目洋子さんらをゲストに迎え、オンラインフォーラム2022「女性の健康とサステナブルライフを考える」を、3月12日に開催しました。
セッション1は「『声』から考える女性の健康 AG世代のためのボイストレーニング講座」と題して、荻野目さんのほか、さいだ耳鼻咽喉科気管食道科クリニック院長の斉田晴仁さん、『GLOW』編集長の井下香苗さんが、発声や呼吸法、加齢に伴うのどの症状などを学び、魅力ある声を保つ方法について語り合いました。
約600人が視聴し、司会は朝日新聞社Aging Gracefullyプロジェクトの坂本真子が務めました。
最初に、視聴者のみなさんに申し込みの際に答えていただいた「声やのどを整えるために、普段から取り組んでいること」から、主なものをスライドで紹介しました。
スライドを見て、「のどは筋肉なので、なるべくおとなしく過ごさないように、人と会話をしたり、体を積極的に動かしたりしています」と話した荻野目さん。
コロナ禍で全てのライブが中止になったときは気持ちが沈んだそうですが、「練習で歌うと、その日は顔がちょっと明るくなった気がしましたね」と振り返りました。
息を吸うときに
基本的な発声の仕組み、声帯の動きと呼吸法について、斉田さんが説明しました。
「歌ったり、しゃべったり、のどの使い方はいろいろありますが、発声のメカニズムは一つです。まず息を吸って空気が入ります。その息がのどにある声帯を振動させて、その振動が、声の通り道に伝わることによって音になるんです。のどぼとけには軟骨があって、その中に声帯が含まれています。開いている声帯が、合わさったときに息が出て、声帯が振動して、声が出るわけです。女性の声は男性の声より高く、1秒間に200回、歌声になると1200回ぐらいまで振動します。また、低い声のときは声帯が短く厚くなり、高い声のときは声帯が長く薄くなります」
続いて、「声を出すために一番大事なのは、声のもとになる息、呼吸法です」と斉田さん。荻野目さん、井下さんも一緒に、左手を胸の上に、右手をおへその上に置き、自分が良いと思うやり方で思い切り息を吸ってみました。
このときにどこが最も膨らんだか、
①胸が上に
②胸が前方に
③胸の下部と腹部の上部が前方に
④腹部全体が前方に
⑤下腹部が前方に
という五つの選択肢から、Zoomのアンケートで視聴者のみなさんに投票していただきました。結果は③が最も多く、次に多いのは④でした。
体を水鉄砲にたとえて、斉田さんは説明します。
「水鉄砲を押すと、ピストンが上がり、水が出てピューッと飛ぶ。声はこれと一緒なんです。ピストンにあたるものが横隔膜です。横隔膜が上がることによって空気が出て、のどにある声帯を振動させ、音が出るという仕組みです。胸式呼吸では、横隔膜はあまり動きませんが、腹式呼吸をすると、横隔膜が上下に大きく動きます。先ほどの①は、声のもとである呼気が少ないですが、③はかなり増えて、①の倍近くなることもあります。声のもとになる呼気が多いということは、これが望ましい呼吸法ということになります」
斉田晴仁さん
さいだ耳鼻咽喉科気管食道科クリニック院長、昭和大学医学部耳鼻咽喉科兼任講師。幼少より声楽、オペラに興味があったが、医師になる道を選ぶ。二期会オペラスタジオ30期研究生のテノールとしても歌う。クリニックには、声の科学的な研究を行うヴォイステック音声研究所を併設。「あなたの声を良くするレクチャーコンサート」で声の健康の啓蒙(けいもう)活動を行っている。著書に『声の科学 歌う医師があなたの声をデザインする』(音楽之友社)。
AG世代に起きやすい症状は
荻野目さんは2年ほど前から、のどに違和感があるそうです。
「話し始めるときに、ちょっとのどが詰まるような気がしています。病院に行って調べたこともあるんですけど、特に何も問題はないと言われました」
40代、50代の女性に起きやすい症状や、のどの特徴について、斉田さんは説明します。
「声帯の縁に平行に、細かい毛細血管がいっぱい走っていて、栄養を含んだ体液を運んでいるんですが、その毛細血管から出ていく量と戻ってくる量のバランスが悪いと、声帯にむくみが生じます。このむくみは、更年期といわれる世代にも多いし、甲状腺などに病気があって起こることもあります。むくみによって毛細血管が圧迫されると、ますます組織の循環動態が悪くなり、声帯が振動しにくくなって、声が出しづらくなることがあると思います」
また、声やのどの状態からさまざまな病気がわかることもあり、声がかすれるなど異変を感じ、治りにくいときは、医師の診察を受ける必要があります。
声やのどの調子を整えるために自宅でできることのひとつに、斉田さんは姿勢を挙げました。
「人の頭は重くて、真っすぐな棒で支えるのはなかなか難しい。足のちょうど真ん中で支えるために、背骨がS字状に曲がっているわけで、立ち方が大事です。例えば家の壁に頭と、かかと、お尻をつけると体が真っすぐになります。生理的なS字状のカーブを描いて、いい姿勢だと思います」
数時間歌ったら、翌日は休み
荻野目洋子さん
1984年に歌手デビュー。以来、42枚のシングルと31枚のアルバムを発表。シングル「ダンシング・ヒーロー」「六本木純情派」「コーヒー・ルンバ」、アルバム「NON STOPPER」など、数々の大ヒットを放つ。2017年「ダンシング・ヒーロー」がリバイバルヒット、第59回輝く!日本レコード大賞特別賞を受賞。2018年、第32回日本ゴールドディスク大賞特別賞受賞。2019年1月、23年ぶりの主演ドラマ「ネット歌姫」をNHKBSプレミアムで放送。2020年には自ら作詞作曲を手がけた新曲「虫のつぶやき」が8月・9月度の「NHKみんなのうた」で放送。今年4月1日にビルボードライブ大阪、同3日にビルボードライブ横浜でライブを開催。
普段の練習で、荻野目さんは4、5時間続けて歌うことがよくあるそうです。
「私はまず体をほぐしてストレッチをすることから始めます。曲を覚えたり、楽器を弾きながら歌ったりすると夢中になってしまって、あっという間に時間がたってしまうんですね。最近はやり過ぎも良くないかなと思うので、数時間歌った翌日はお休みすることもあります。休むことも上手に採り入れるようにしています」
腹式呼吸の際には背中を意識して、体全体を使うようにしています。子育てで歌手活動を休んだことから学んだと言います。
「すごく背中が硬くなってしまっていて、歌の先生に『これじゃ駄目だよ、使えないよ』みたいなことを言われたんですね。もっとほぐして、体を柔らかくした上で響かせることが大事なのかな、と思っています」
ここで井下さんから質問が出ました。
「さっき呼吸法をやってみたときに、おなかが出たり引っ込んだりするというお話でしたが、腰の後ろの方もちょっと広がるような感覚がありました。背中が動くというのは、横隔膜ですか?」
井下香苗さん
宝島社『GLOW』編集長。2010年創刊時より、加齢を否定しない「ポジティブ美容」を発信。2021年キャッチコピーを“45才からのごきげんライフを応援します!” として、新時代の大人の日常に寄り添うコンテンツ作りに注力。誌面では、成熟を肯定して捉えるべく更年期を「ヴィーナス期」としている。
「荻野目さんみたいにプロフェッショナルな方たちは、実はもっと高度な呼吸の仕方をしていて、胸郭の後ろの方を広げるんですね」と斉田さん。
「胸郭の後ろの方を広げることによって、呼気の量を増やす高等テクニックです。ただ、一般の方々はまず息を吸うときに横隔膜を下げる、吐くときに上げるという基本を学んでからの方が良いと思います」
荻野目さんは、子どもの頃から声に出して本を読むことが好きで、今も気が向くと音読をしているそうです。
「これは誰でも採り入れやすいんじゃないかなと思います。読むものは何でもいいので、ポイントとしては、少し離れた人に向かって伝えるような気持ちで読んでみてください。普段しゃべるときとは違って、冷静に意識すると、声が響くように感じると思います」
この後、北原白秋が作詞した童謡「この道」の歌詞を1番から3番まで、出演者全員で一緒に、声を出して読みました。
血流を良くすることから
視聴者のみなさんからいただいた質問に答えました。
【Q1】加齢とともに声のトーンが低く、細くなったように感じます。年を重ねても若々しい声を保つ方法はありますか。
斉田さん
「加齢とともにお肌に柔軟性がなくなってくるのと同じような変化が声帯にも起きてきます。柔軟性がなくなると、声帯の振動がうまくいかなくなる。粘膜の下にある毛細血管、その間にある組織が少し薄くなってくるためで、組織に水がたまると毛細血管を圧迫して、血流が悪くなってむくんでしまいます。まずは血流を良くするということが大事。お風呂にゆっくり入って、加温、加湿をしてください。そして栄養をしっかりとりましょう」
【Q2】荻野目さんは、若い頃と今とで歌声に違いを感じることはありますか。また、ずっと歌い続けるために日々心掛けていらっしゃることはありますか。
荻野目さん
「筋肉は若い頃とは違いますよね。でも、音楽は声をたくさん出すことだけではないので、音楽の理解を深めることや、声の柔らかさ、太さといった若い頃にはなかったものが逆に今、出せることもあるので、そんなことを意識しながら私は歌わせてもらっています」
Zoomのチャットでは、のどの不調などについて、斉田さんへの質問が多く寄せられました。
左から荻野目洋子さん、井下香苗さん、斉田晴仁さん
- 40代、50代の女性たちは、家庭や地域、職場で大切な役割を担いながらも、体調の変化、仕事や家族との向き合い方など、多くの課題に直面しています。2020年には日本の女性の半数が50歳以上となり、さらに2025年には3人に1人が65歳以上になると予測されています。ミドルエイジのAG世代の今後の人生がより充実したものになるように、AGプロジェクトは多くのパートナー企業や団体と共に、さまざまな情報を発信し、イベントを展開しています。
文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
写真=伊ケ崎忍
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