坂本真子の『音楽魂』
高橋洋子さんインタビュー〈前編〉
エヴァの歌、28年前と変わらぬ声で
「アニソンはみんなのものだから」
Special 音楽 ライフスタイル
[ 23.05.10 ]
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクトリーダーの坂本が、音楽の話をお届けします。
テレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主題歌「残酷な天使のテーゼ」を歌い続けて28年。歌手の高橋洋子さんは、5月10日に4年ぶりのマキシシングル「EVANGELION ETERNALLY」を発表し、28日にスペシャルライブを行う予定です。そんな高橋さんに、歌うことや年齢を重ねることへの思いを聞きました。インタビュー前編では音楽との向き合い方などについて語ります。
高橋さんは1980年代後半から久保田利伸さんらのバックコーラスなどを務め、91年にバラードシンガーとしてソロデビュー。95年、テレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主題歌「残酷な天使のテーゼ」を歌ったことが大きな転機になりました。97年にはアニメ映画「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生」の主題歌「魂のルフラン」を担当。2曲ともファンに長く愛されています。
「私がエヴァンゲリオンとであって28年目になります。人が一人立派に育つぐらいの歳月をかけて作品全体が終わりましたし、それから2年経ちました。アニソンは最初に歌った者のインパクトが強い傾向があって、私のことを今でもみなさんが『エヴァンゲリオンの主題歌の人』として認知してくださっています。28年という長い年月の中で、私にもリスナーの方々全てにもいろいろな変化があり、それでもみんなエヴァンゲリオンが大好きなんです」
5月10日に出すマキシシングル「EVANGELION ETERNALLY」には、新曲「罪と罰 祈らざる者よ」のほか、エヴァンゲリオンに関連する3曲などを収録。新曲の歌詞は高橋さんが書いています。
高橋洋子「EVANGELION ETERNALLY」ジャケットビジュアル ©カラー
「28年の歳月全部をひっくるめて『これが高橋洋子』と思っていただける曲を、と考えて、『罪と罰 祈らざる者よ』を制作しました。私の今までの曲は歌で始まり、サビが大変盛り上がって、たたみかけるように音が続く、という特徴があるので、そこを外さないようにすることと、あまり簡単ではいけないので……。歌がどんどん難しくなって、私はどこに向かっているのだろうとよく思いますが、今回もメロディーは難しいけれども非常にインパクトがある、これぞ高橋洋子、これぞエヴァンゲリオン、とイメージしやすい曲を、というオファーもありました」
新曲はアタックの強い高音の歌声で始まります。「これぞ、と思っていただけるように制作しました」と高橋さん。
>>「高橋洋子 EVANGELION SONGS PLAYLIST」はこちら
毎日の練習で広がった声域
28年前も今も変わらず、迫力のある高音を響かせる高橋さんですが、一般的には年齢とともにのどの筋肉が衰え、高音が出にくくなるもの。しかし、高橋さんの歌は逆にパワーアップしているように聞こえます。実際に、声域は28年前より広がったと言います。
「4オクターブは出ると思います。毎日練習しているからできることです」ときっぱり。毎日2時間以上の練習を欠かしません。
「ストレッチせず急に走ったら筋肉を痛めやすく、運動後にストレッチをしないと筋肉痛が治りづらいのと同じで、準備の時間も必要ですし、いっぱい声を出して枯れたからといって大事にするとよけい出なくなる。動く方が筋肉痛の治りが早いのと同じで、コンサートの次の日ほどしっかり練習します。自分に合う発声をしていることが大前提ですけど、体を鍛えることと同じなんです。だから、歌う前は必ずストレッチをして、声が出やすい状態に体を温めて、次はのどを温めるような発声をしていきます」
丁寧に練習を重ね、声を保つために努力し続ける背景には、明確な理由があります。
「声は明らかに年をとります。でも、アニソンはみんなのもので、私だけのものじゃない。作品があって主人公たちがいて、そこに関わる人たちがいる。作品のストーリーも含めてアニソンをみなさんが聞かれるので、私が勝手に歌い癖をのせたり、声が年をとったりするとがっかりしてしまうと思うんです。もちろん年をとらない人はいませんが、できるだけ元のものに近いように、毎日欠かさず、1995年の最初の音を聞いてから練習します。当時の私の歌をものまねするイメージです」
年齢を重ねれば確実にハードルは上がるはず。それでも高橋さんは「柔軟体操と一緒」と語ります。
「開脚の練習を毎日すれば開くようになる。同じように歌も毎日練習するんです。これぐらいやるとこの音域が出やすくなるとか、ここまでやってしまうと出づらくなるとか、自分のあんばいを探るのが大事です」
体だけでなく、メンタル面も大切にしています。
「メンタルは声に出ます。私は、生き方が歌になると思っているので、どういうふうに生きているか、どう生活しているかが全部歌声になると思っています。声は一番わかりやすい目安で、例えばものすごく体調が悪いときは小さい声でヨロヨロした感じになりますよね。でも元気な赤ちゃんは大きな声が出るじゃないですか。声はエネルギーのバロメーターだと思うので、自分が一番理想とするもの、めざすものに向かって、以前より細かく調整しています」
「歌って」と言われることへの感謝
高橋さんは子どもの頃から歌うことが大好きでした。
「小さいときは本当によく歌っている子で、しゃべるよりも先に歌っていたと父に聞きました。小学2年から高校2年までは少年少女合唱団にいて、コーラスが大好きでしたし、もともとはコーラスでこの業界に入りました。メインボーカルをやりたい、人前に出てガンガン歌いたい、というタイプではなかったですね」
大学の音楽サークルで組んだバンドがきっかけで久保田利伸さんらのバックコーラスなどを務め、ソロデビューして32年。しかし、高橋さんはこれまで自分のステージを良かったと思ったことが一度もないそうです。
「もっとこうすればよかったとか、もっとこうできたのにとか、リハーサルで歌いすぎてしまったとか、そんなことは日常茶飯事です。もっとできることがあるから落ち込むし、落ち込むから次につながる。もっと進歩するチャンスです。それがなくなったらやめるときだと思います」
とても真剣に、ストイックに歌と向き合う高橋さん。「歌いたい」と思う原動力は何かをたずねると、「『歌いたい』ではなく、『歌って』と言ってもらえることに対しての感謝です」という答えが返ってきました。
「もともと何かの題材、作品があっての楽曲なので、その作品に対してのリスペクトと、それを聞きたいと思うみなさんに向けてどう歌うか。『こっちの方が歌いやすい』じゃなくて、『こういうふうに聞きたいだろう』と考えて歌います。今あるものでみなさんに一番聞いていただけるものを、いつでもどんなときもご提供できるように整えておくのが自分の仕事だと思っています」
KING SUPER LIVE 2018 TOKYO DOME (C)KING RECORD
難しい曲は「私に与えられたギフト」
「残酷な天使のテーゼ」や「魂のルフラン」は、カラオケでも長く歌われています。
「楽をして歌えない、難しい曲ばかりなんですよ。『残酷な天使のテーゼ』のときは『思いっきり難しくして』というオーダーがプロデューサーからあったようで、確かに難しいとカラオケで達成感がありますよね。簡単に歌える曲だったら、私はストイックでなくてもいいんですけど、歌えないからやるしかないんです。ご縁があって歌を聴きたいと言ってくださる方がいるのであれば、これは私に与えていただいたギフト。どんなときも最高のものを歌うだけです」
5月28日には、YOKO TAKAHASHI EVANGELION ultimate Live「月十夜」を開催します。会場はZepp Shinjuku (TOKYO)。4月半ばに開業した東京・新宿の東急歌舞伎町タワーにあり、タワー内の劇場やホテル、映画館などでは現在、コラボ企画「EVANGELION KABUKICHO IMPACT」が行われています。
「ビル全体がエヴァンゲリオンコラボという中で、エヴァンゲリオンに関係する曲だけを歌います。いろいろなダンサーやゲストも呼びます。私の楽曲は、1曲歌っても体力が消耗するので、たくさん歌うことに不安はありますが、なんとか走り切れるように、そしてエヴァンゲリオンという世界観をみなさんにいろんな角度から見て、楽しんでいただけるように、今は毎日準備をしています」
インタビュー後編では、音楽から離れたときに学んだことなどについて聞きました。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー 坂本真子
写真=品田裕美撮影
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◆マキシシングル「EVANGELION ETERNALLY」
5月10日(水)発売、1980円(税込み)、品番「KICM-3378」。
収録楽曲:
1. 罪と罰 祈らざる者よ(新曲)
『シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース × バンダイナムコ』プロモーションソング
2. Teardrops of hope
パチンコ『Pゴジラ対エヴァンゲリオン ~G細胞覚醒~』搭載曲
3. Final Call
パチンコ『新世紀エヴァンゲリオン~未来への咆哮~』搭載曲
4. what if?
5~8. 上記4曲のOff Vocal Ver.◆YOKO TAKAHASHI EVANGELION ultimate Live「月十夜」
日時:2023年5月28日(日) 16:00開場/17:00開演
会場:Zepp Shinjuku (TOKYO)
ゲスト:まらしぃ、鹿嶋静、松下洋 他申込URL:https://l-tike.com/takahashiyoko
お問い合わせ:ローソンチケットインフォメーション https://l-tike.com/contact
◆「高橋洋子 EVANGELION SONGS PLAYLIST」
高橋洋子さん=キングレコード提供
◆高橋洋子さんオフィシャルサイト
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