坂本真子の『音楽魂』
玉城千春さんインタビュー〈後編〉
「自分を愛し、大切にすることから始めて」
届けられる人に思いを伝え、精いっぱい歌う
Special 音楽 ライフスタイル 子育て
[ 24.01.17 ]
女性デュオKiroroで1998年にメジャーデビューしてから20年余り。玉城千春さんは最近、沖縄県内の小中学校や児童養護施設を訪ねて特別授業を行っています。1月10日にはデジタルシングル「あの人の声」を発表しました。インタビュー後編では、40代で変わったこと、コロナ禍を経て感じたことなどを語ります。
玉城さんは今46歳。Aging Gracefully世代の一人です。40代前半に大きな変化がありました。
「子育ても仕事も一生懸命やってきて、40代になって、さて自分はどう生きていこうか、と思ったときに、わからなかったんですよ。自分の幸せってなんだろう、自分がやりたいことはなんだろうと。2018年にKiroroのメジャーデビュー20周年コンサートツアーが終わってから、一度リセットしようと思ったんです。私は『ほかの人が嫌な思いをしないように』と親に言われて育ったので、周りの人がどう思うかを、いつも最初に考えてしまうんです。まずは、それをやめることから始めました」
ずっと育児や仕事で忙しく、自分のために時間を使うことはあまりなかったという玉城さん。コロナ禍で考える時間が増えたことも、自身を見つめ直す機会になりました。
「今の40代は『家族のために○○しなきゃ』とか、いろいろな呪縛がある世代だと思うので、それをちょっと一回外れて、自分が今考えていることを書き出してみました。自分は何をしているときが幸せか、何が好きなのかを考えてみて、気づいたんです。まずは自分を愛し、大切にしなきゃいけないんだってことに」
学校を訪ねて特別授業を行うなど、これまでと違うこと、そのとき自分がやりたいことに取り組むようになってから、「びっくりするぐらい感動することがいっぱいあるんです」と玉城さん。
「自分がやりたいことに気づくと喜びに変わるし、自分を愛すると、大変だと思っていたことが大変じゃなくなる。子育てや親に対しても、仕事でもそうです。楽しいことを見つけると感動が増えて、それがまた仕事につながったり、新しい出会いにつながったりもするんです」
健康の源は「心と食べ物」
年齢を重ねることも、前向きにとらえています。
「こういう仕事をしていると人前に出るので、顔のしみとかはマイナスになりますけど、沖縄にいて今の生き方をしていると、全然マイナスではないんですよね。ありがたいことに歌も歌えるし、曲もできたし、家庭もすごく幸せだし、子育ても楽しいし、奇跡がいっぱいで感動しっぱなし。自分を見つめ直してみると、意外と楽しいし、幸せです」
健康のために気をつけていることは、と尋ねると、玉城さんは「心と食べ物」と即答しました。
「まず、心が健康であることが大切です。そして、食べ物。なるべく地産地消の農作物を食べるようにしています。しょうゆ、砂糖、塩、黒酢といった調味料も無添加のものを使っています。みそは手作り。料理は苦手ですけど、みそ汁をよく作るので、みそにはこだわっていますね」
歌い続けるためには何かケアをしているのでしょうか。Kiroroの活動が忙しかった頃は、のどや声の管理に気を使い過ぎる傾向があったそうです。
「以前はすごくストイックにのどを気にして、よけいにストレスをためていました。人間って、やらなければいけないと思うとストレスがたまるし、もっと過敏になるじゃないですか。私は、ちゃんとした歌を歌わなきゃ、とプレッシャーを感じていました。でも、年を重ねると声も変わっていくので、今は届けられるときに届けられる人に思いを伝えて、今歌えることを精いっぱい、歌うようにしています」
上の世代から受け継ぎ、畑を
玉城さんは、子育てを通して学んだことが多かったと振り返ります。
「子どもたちが小さい頃は本当に体力勝負で忙しくて、自分がやりたいことも歌とかいっぱいあったけど、全然時間がとれなかったんですね。でも、子どもと向き合える時間は今しかないので。長男はもう高3で、親元を離れるカウントダウンが始まっているし、女の子2人もちょっと反抗期がありましたけど、今は3人と全力で向き合って楽しんでいます」
コロナ禍で家族と一緒に過ごす時間が増え、さらに特別授業で子どもたちと会う機会を通じて、感じたこともありました。
「みんな、生まれてきてくれてありがとう、と心から思います。これから先、社会に出ていく中で、本当はあまり壁にぶつからずに生きていってほしいですよね。私は壁にいっぱいぶつかって転んでいくタイプだったんですけど、親になると心配ばかりしています」
玉城さん自身がこれからやってみたいことを聞いてみると――。
「畑です。畑で野菜を育ててみたいです。音楽はそのうち湧き出てくると思っています。『音楽をやるぞ』と気負うと苦しくなっちゃうし、ずっと生活の中で曲を作ってきたので、これからもそうできればいいかなって。おじさんの畑を借りて同世代の友達と一緒に耕し始めようと計画しています」
日々の暮らしを大切にしながら、曲作りや歌うこともゆるやかに続けていきます。
「子どもたちと関わっていることが幸せなので、自分が本当に興味のあることでお話をいただくことがあったときに曲を作ろうと思っています。自分の人生と毎日を充実させて、今何がしたいか、心が動くところにいくと決めているんです。私には今できることしかできないですけど、そういう感じならこれからもずっとずっと長く、おばあになっても歌っていける。そんな気がしています」
玉城さんにインタビューをしたのは、実は2000年以来、およそ23年ぶりです。当時の記事には、東京に出てきてからあまり感動しなくなったこと、「沖縄に帰ると楽になれる。素直に喜べるし、ちょっとしたことで感激もできる。沖縄の海や空気、そして家族のおかげかなぁ。家族は何があっても戻れる場所だし、私にとって一番大切なものだから」などと書かれていました。
その後、玉城さんは沖縄で子どもを育てる暮らしを大切にしながら、音楽活動を続けてきました。ゆるやかな生き方は、彼女が生み出す楽曲にも投影されています。一つひとつの言葉の優しさ。全てを包み込むようなふんわりした歌声。たとえ厳しい現実と向き合っていても、彼女の歌からは希望を感じます。
今回のインタビュー中も笑いが絶えず、おおらかな笑顔に私も癒やされて、とても幸せな気持ちになりました。彼女の特別授業は子ども向けとのことですが、私も一度受けてみたい! 玉城千春さんのこれからの活動が楽しみです。
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクト編集長の坂本が、音楽の話をお届けします。
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◆デジタルシングル「あの人の声」 1月10日発売
音楽ストリーミングサービス、及び、ダウンロードサービスで配信中。
https://jvcmusic.lnk.to/anohitonokoe
(ジャケット写真はビクターエンタテインメント提供)
◆RBC「応援!18の旅立ち」2023チャリティーキャンペーン
https://www.rbc.co.jp/18tabidachi/
◆Kiroro 公式サイト
◆玉城千春 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/chiharu_kiroro/
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