AG世代がいちばん話したいこと
「これからの考え方次第で顔は作っていける」
松本千登世さん、ふとした瞬間の言葉が宝物に
Special ライフスタイル ビューティー 学び
[ 23.04.26 ]
「Aging Gracefullyフォーラム2023」で話す松本千登世さん=伊ケ崎忍撮影
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の日本の女性たちの生き方は、どんどん多様化しています。最も多いライフコースは「専業主婦」だという調査結果がありますが、それでも4割に満たず、家族の形も働き方もさまざまです。
「AG世代がいちばん話したいこと」は、そんなAG世代の女性たちが、いま最も伝えたいこと、生の声をお届けします。
今年3月のAging Gracefullyフォーラム2023で、「美容は生き方」と感じた経験などを語った松本千登世さん(58)。フリーのエディター・ライターとして活躍し、主に美容に関する特集や記事を女性誌などで担当しています。4月26日には単行本『顔は言葉でできている!』(講談社)を出版。日々の暮らしや仕事の中で、ふとした瞬間に出会った印象深い言葉の数々と、そのときに感じた思いをつづった作品です。
――今回の本は雑誌「クロワッサン」(マガジンハウス)の連載が元になっているんですね。
2018年10月から2021年12月までの3年3カ月間、コロナ禍の前に始まって、コロナ禍に入って……という時期に書いたものです。美容のことはほとんど書いておらず、全然違う視点の連載なんですが、私はそれが大好きで宝物のように感じていて、池田保さんが撮ってくださった写真にもメッセージが込められていたので、一冊にできたらいいなぁ、と思っていたら実現したんです。
――コロナ禍が影響したことはありましたか?
それまでの私だったら、つるっと滑って落ちていったような言葉が本当に深く響きました。外に出られないことは、幸運にも私自身はあまりストレスではなかったんですけど、周りにはそれで心を病みそうになった人もいて、相手はどういう状況だろう、どう感じているだろうと、以前よりもずっと考えるようになりましたね。同じ出来事も全然違う角度から見ると変わるし、逆にみんなが全然気にならないことが私は気になるかもしれないので、頭の中で一回もんでから言葉にするようになりました。
私はもともと言葉に対しては強い思い入れがあって、人がポロッとこぼした言葉にすぐ反応してしまうタイプなんです。すごいメモ魔で、友達が言ったことや、テレビで有名な方がおっしゃったこと、雑誌や新聞で読んだことも、これはいいなと思ったらすぐにメモをして付箋を貼る癖があったんですね。クロワッサンにお話をいただいてからは、より真剣に言葉探しをするようになったかもしれません。
――いつから「メモ魔」に?
フリーになって自分の名前で原稿を書くようになってからは顕著になりました。いつか書きたいことを付箋に書いて貼ったり、メモを取ったりするようになって。それまでも手帳の端にパパッと書くことはよくありました。最初に就職したキャビンアテンダントは手帳を持たなくてもいい職業でしたけど、代理店に転職して、営業で化粧品の担当をしているときに、企画のヒントになるような言葉をメモするようになったかもしれないですね。
以前、薬学者で脳科学者の池谷裕二さんの本で、「大人になると記憶力が悪くなると言われるけれども、そうじゃなくて、大人になるほど経験が増えて引き出しが増える。脳のどこに入れたかわからなくなるから出せないだけのことだ」というようなことを読んで、そうとらえたら、年齢を重ねることは面白い、と思うようになりました。また、池谷さんは「他の引き出しから出してきて今の引き出しのことを語る『喩(たと)え』みたいなことが、大人は若い人よりもうまくなる」というようなことも書いていらしたんですね。なので、「あのとき、こんな人がこんなこと言っていたよ」という引き出しがいっぱいあると楽しいだろうな、と思ったことにも背中を押されて、メモが増えたと思います。
――お気に入りの靴を履いて出かけたら靴ずれが起きてしまい、絆創膏(ばんそうこう)を買うために駆け込んだコンビニの女性店員から「お大事に」と声をかけられたことが、連載を始めるきっかけになったそうですね。
クロワッサンの編集長から連載のお話をいただいたとき、私は既にこの出来事を経験した後で、「実はこういうことがあって」と話したら、「誰の周りにも転がっているようなことだけど、本当にいい話だと思う」と言ってくださって。不機嫌な顔で絆創膏を買ったお客さんに、「お大事に」と言う感覚って素晴らしいと思うんですね。もし誰かに頼まれて買いに来ていたとしても、言われたらうれしいですよね。そういう言葉って最高にかっこいいな、と思った記憶です。
4月26日出版の『顔は言葉でできている!』(講談社)。1540円(税込み)。
「顔つきが顔立ちを超える」
――年齢とともに気づくことがあり、手放すものもあると新刊で書いています。
意図して手放すものと、手放さざるを得ないものと、両方あると思うんですけど、私がすごく大事に思っている家族も友人も、仕事仲間もみんな同じように年齢を重ねていくし、重ねることによって新しく若い人と知り合って一緒に仕事をして、私の立場や役割がどんどん変わっていくので、止まっていること、もっと言えば、戻りたいと思うことの方がつまらないですよね。昨日できたことが今日できなくなる一方で、昨日わからなかったことが今日わかることもあって、ネガティブではないことに目を向けたら、年齢を重ねても結構面白くいけるはず、と思っています。
――年齢を重ねることはどう感じていますか?
できることなら120歳ぐらいまで人生が続くといいなあと思うぐらい(笑)、毎日が楽しくて、でもその裏側を正直に言うと、単純に私は死ぬことが怖いんです。年齢を重ねたらどうなるだろう、という不安ももちろんあるし、朝4時に目が覚めて真っ暗な空を見てのみ込まれそうに感じることもあります。ただ、来年の私は今よりもっと手放さざるを得ないものが増えて、自分から手放すものも出てきて、だんだん自分がそのことに慣れていって死ぬことを受け入れられるのかもしれません。自分なりの覚悟をきちんと重ねながら、できるだけ自力で希望を創(つく)り出して人生を楽しみたいですね。
シワやシミ、たるみにはため息が出るけれど、40歳に見える60歳になりたいとは思いません。年齢を重ねることを顔だけでとらえないで、こういう洋服を着たら映えるかもしれないとか、少し俯瞰(ふかん)して面白がりたいという思いが強くて、お洋服を着ることも以前より楽しくなりました。例えば、私にちょっとシワが出てきた今だから、ハイブランドのものを着ても嫌味じゃないとか、以前はダイヤモンドに全然興味がなかったんですけど、今だったら似合うかもしれないとか、そういう楽しみを見つけた気がしています。
――新刊の「顔つきが顔立ちを超える」という言葉が、とても印象に残りました。
尊敬するスタイリストの方とこの話をしたときに盛り上がって、雑誌で10ページぐらいの企画にしたことがあるんです。40代向けの雑誌だったので、「40歳は顔つきが顔立ちを超える時」みたいな企画にしたら、すごく反響がありました。自分自身の顔がさほど好きじゃなかった人にとってはものすごい希望だと言われ、逆に美人と言われて生きてきた人たちからは「どきりとさせられた」と言われ、面白かったです。いずれにせよ、顔立ちに甘えてはいられない。これから顔を作ろうと思えたとしたら、意味のある言葉だったな、と。
年齢を重ねるほどに肌の張りがなくなって柔らかくなるじゃないですか。そうすると、表情が顔により記憶されやすくなると思うんですよね。嫌な顔をするとシワを寄せたところにシワが残り、嫌な顔が記憶されるし、笑っていれば口角が上がってその位置が変わり、笑顔が記憶されるので、顔を作る意味でも言葉は大事だなと思います。
お気に入りのソファ。「手に入れた18年前よりも、シワもゆるみも出てきているんですが、それがまた味わいになっていて、新しいときよりも好きになっています。こんな肌でいられるといいなあ、とソファを見るたび、思います(笑)」
「できないことは始めないように」
――「丁寧な暮らし」「余裕のある生き方」などについても書かれています。
私はもともと動作が遅くて、小学校の給食で最後まで残っているような子どもでした。大学の寮では半年ごとに部屋を引っ越したんですけど、最後までだらだらしゃべりながら引っ越しの作業をして、いつも寮母さんに怒られていました。基本的にぼんやりして遅いタイプなんです。
それなのに、仕事でこれもしなきゃ、あれもしなきゃという生活をするようになったら、できない自分がストレスになって落ち込むこともありました。だから最近は、できないことは始めないように、いらないものは捨てて心を乱されることはしないように心がけています。例えば料理も、お魚をサッと焼いて塩をかけて終わり、みたいなシンプルなものが増えてきました。
「料理はシンプルなものしかしないのですが、その分、器にはこだわりがあります。『買うなら捨ててから』と心に決めているのですが、出合うと、つい……」
――健康のために気にかけていることはありますか?
小学生が食べるような時間に食事をしています。特に週末は、午後5時に夕食をとることが普通で、4時半のこともあります。お酒を飲むときは4時半にスタートして7時頃までダラダラ、ということも。シンプルなものを早めに食べて早めに寝る、小学生が「大事にしなさい」と言われるような習慣を心がけています。
――いつからそのような生活に……?
完全にフリーランスになった2009年からは、このペースかもしれないですね。もう14年ぐらい。もちろん誘われれば外食もするので、午前0時頃に寝ることもあります。睡眠は本当に基本だと思うので、寝具や香りにもこだわっています。寝ていないと自分のことで精一杯になって他の人に優しくなれないし、自分のこともできなくなるので、毎日6時間は睡眠を確保して、休日はもう少し長く寝ます。私の場合は、夜早めに寝て朝早く起きる方が合っているので、遅くても午前0時までには寝て、朝5時や6時に起きています。
30歳で婦人画報社の「La Vie de 30ans☆」(ラ・ヴィ・ドゥ・トランタン)の編集部に転職した頃は、徹夜で朝まで会社で働くこともありましたけど、その後フリーになり、「Grazia」(グラツィア、講談社)と契約してからは、編集者としてライターさんの原稿を待つことが増えたんですね。でも、私が夜中に待っているとプレッシャーだろうな、私が逆だったらプレッシャーに感じるな、と思ったので、「朝までで大丈夫です」とお願いして早く帰り、早く出社するようにしました。印刷所に送る便が朝8時発だったので、それに間に合わせるため、朝4時半に起きて6時頃に会社に行って、作業して8時までに入稿していました。その頃から早起きですね。
――運動は何かされていますか?
歩くことは基本的に好きなので、週末は1万5千歩とか、たくさん歩くようにしています。また、毎日ではないですが、ラジオ体操をしています。改めて意識して体と対話してみると、ラジオ体操って計算し尽くされた運動なんですよね。できれば毎日が理想だけれどので、「しなくちゃ」がストレスになるのは本末転倒なので、時間帯は決めず、できるときにしようと思っています。
「このスニーカーなら、どこへでも歩いて行けそうな気がします」
「あなたの顔は言葉でできている」
――最後に、AG世代に向けて今一番伝えたいこと、この本で最も読んでほしいことについて、メッセージをお願いします。
一番伝えたいことは、タイトルにもある通り、あなたの顔は言葉でできている、ということです。言葉、イコール、思考だと思うんですけど、あなたが何を感じて考えているか、全部顔に出ているよ、と伝えたいです。気をつけなさい、という意味ではなく、これからの考え方次第で顔は作っていけるよ、と。
スキンケアやメイクといった美容は大切なツールですけど、それ以前に思考が顔を作るので、これからの顔を楽しみに作っていきたいですね。日常には、幸せなこともそうではないこともいっぱい転がっているので、できるだけ自分が良いと思うもの、好きなものを拾い集めていくと、顔が変わっていくように感じています。読者の方々には、ぜひ一緒に頑張りましょう、と伝えたいと思います。
「AMATA主宰、ビューティプロデューサーの美香さんとディオール展にご一緒したときに撮りました」
- 松本千登世(まつもと・ちとせ)さん
- フリーエディター・ライター。航空会社勤務、広告代理店勤務、出版社勤務を経てフリーランスに。雑誌や単行本などで美容や人物インタビューを中心に活動。著書に『「ファンデーション」より「口紅」を先に塗ると誰でも美人になれる 「いい加減」美容のすすめ』(講談社)、『いつも綺麗、じゃなくていい。50歳からの美人の「空気」のまといかた』(PHP研究所)など。女性誌『美的GRAND』(小学館)で「このコスメが、すごい!」、同『eclat』(集英社)で「大人美が目覚めるとき」を連載中。4月26日に新刊『顔は言葉でできている!』(講談社)を出版。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
写真=松本千登世さん提供(Aging Gracefullyフォーラム2023を除く)
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