坂本真子の『音楽魂』
坂本冬美さんインタビュー〈後編〉
「一度のステージも、今日も大切に」
一日10分でも自分を解放する時間を
Special 音楽 ライフスタイル
[ 24.03.13 ]
新曲「ほろ酔い満月」を2月に発表した歌手の坂本冬美さん。「火の国の女」「夜桜お七」「また君に恋してる」など、ジャンルや世代を超えて長く愛される曲を歌い続ける中で、悲しい出来事も乗り越えてきました。インタビュー後編では、日ごろの思いや年齢を重ねることについて語ります。
坂本さんは若い頃からのどのケアに気を配ってきました。
「私は発声練習に時間をかけるんですけど、先日、デビュー3年目についてくれていたヘアメイクさんと食事をしたときに、その頃もコンサートの前にシャワーを浴びながら発声練習を1時間やっていたと聞いて、若いときからしっかり発声練習をやっていたんだな、と改めて思いました。ホテルでは大きな声を出せないのでシャワーを浴びながら。シャワーの音で声がかき消されるし、湯気でのどが潤うじゃないですか。その頃も自分なりに考えながらやっていたんですね」
今ものどをしっかり温めてから舞台に臨みます。
「日によっても体調によっても違いますけど、時間をかけて温めています。2回公演の日は、1公演終わったら氷水を飲んで声帯を冷やして、1時間ぐらい経ってからゆっくりと温めます。一度歌っているので、1回目よりも短い時間で準備が整います」
体力の維持にも気を遣っています。自宅で毎朝ストレッチをして、階段を上り下りしています。
「階段を上るのはコロナ禍に始めました。仕事がないと体重も増えてくるだろうし、筋肉も落ちてくるだろうなと思って、1階から3階までを15往復。あっという間に汗をかきます。20往復したら下りの階段でひざにきちゃったので、15往復がちょうどいいですね。家にいるときは毎日やります」
ペットボトルを持ち上げて二の腕を鍛える運動も毎日続けています。一方で、トレーニングジムに通うのは、「行かなきゃいけないと思うと、精神的に逃げ出したくなるタイプ」のため、続かないとも。
「ジムに行かなくても、毎日続ければそれなりに筋肉はついてきます。私は放っておくとグータラする性格なんです。コロナ禍に韓流ドラマを見ていたときは、近くに食べ物を置いて8時間ぐらい動かず……みたいなことも。だからせめて自分を律するために、毎日続けています」
「一生懸命に生きないと」
コロナ禍に自宅で運動を始めた坂本さん。ほかにコロナ禍で変わったことはあったのでしょうか。
「今まではステージに立つのが当たり前でしたけど、コロナ禍で全てなくなりました。今も数は少ないですし、今日このステージが終わったら、次は状況が変わってステージに立てなくなるかもしれないし、これが最後かもしれない。当たり前が当たり前ではなくなって、今までも一回一回を大事にしてきましたけど、さらに大事にしなきゃ、という気持ちが強くなりましたね」
悲しい別れも経験しました。2022年6月に母親が亡くなり、その3カ月後に病気が見つかった弟は翌23年8月に亡くなりました。
「この2年、家族との別れがあって、それでも母は闘病の期間がありましたから、会いに行けるときは行って、自分ができることはやって、覚悟もありましたけど、弟のことはいまだに信じられない思いがあります。生かされている者は、生きられなかった人の分もしっかりと一生懸命生きないとバチが当たる。今を大事に生きなきゃ、という思いがすごく強くなりましたね。いつ何が起きるかわからないですし、いつ何があっても後悔しないように、今日を大事に、と強く感じるようになりました」
それでも喪失感で心が折れそうになったときもあったと言います。
「私は今まで家族のことを大切にして生きてきましたし、家族がいるから頑張れたと思います。でも、母が亡くなったときに、自分はこれから誰のために頑張ればいいんだろうかと思ってしまったんですね。自分だけのためだとできないけれど、大切な人のためだからできることってあるじゃないですか。おいしいご飯を食べさせてあげようとか、仕事を頑張ろうとか。それが何も見えなくなってしまったとき、『ファンの人がいるやろ』『ファンのために頑張れよ』と弟が言ってくれたんです」
そして、大好きな歌とファンの存在に支えられていることを再認識しました。
「私の歌を聴いてくださる人がいて、私の歌を楽しみに待ってくださっている人がいるから頑張れる、ということに改めて気づかされました。私は好きなことをやらせていただいて、それで『冬美ちゃんありがとう』と言ってもらえる。なんて幸せなんだろう、と思いますし、そういうみなさんのお声が私を元気にしてくださるんです」
「体が健康であることが一番」
Aging Gracefully(AG)プロジェクトは40代50代の女性を応援しています。坂本さんは今月30日に57歳の誕生日を迎えるAG世代の一人です。普段の生活でどのように気分転換をしているのか、その方法を尋ねると、自分を解放することを第一に挙げました。
「自分を褒めてあげることも大事だろうし、『今日はよくやったよ。いい仕事をしたんだから飲んでいいんじゃない?』と自分を解放してあげる、楽にしてあげることがとても大事だと思いますね」
例えば、好きなドラマを見るとか、好きなお酒を飲むとか、好きな編み物をするとか……。
「自分のためだけに自分らしい時間を作ってあげることが大切。それがない状態で、無理して無理して、頑張って頑張って、パンクしてしまったら本当に大変なことになります。一日に10分でもいいし、一週間に1回でも一カ月に1回でもいい。自分が思いっきり楽しめて、『ああ幸せだな』と思える時間を作ることが大事だと思います」
40代50代の女性は心身にさまざまな変化が訪れる世代でもあります。坂本さんは数年前、めまいを経験しました。
「朝起きようとしたら天と地がひっくり返ったような感じで。ただ、その日だけで良くなったので病院には行かず、更年期かな、と思っていたんですけど、半年後、明日が舞台の初日という日に、朝起きたらやっぱり天と地がひっくり返って、どうにもこうにも立てなくて、そのときは病院に行きました。調べてもらったら、めまいの症状だとわかって。今も疲れがたまって寝不足のときに起きることがあります」
そのためにも毎日5時間以上は寝るようにしています。
「寝るときはコテッと、寝つきはいいんですけど、1、2時間おきに目が覚めるので、『まだ2時だ』『まだ3時だ』『もう5時だから起きよう』みたいな感じです。中途半端に寝て、寝起きが悪いのは嫌なので、目が覚めたタイミングで起きるようにしています」
坂本さんは日々、どんなときに幸せを感じるのでしょうか。
「例えば、おいしいものを食べて幸せだと思うこともあれば、田舎に帰ってめいやおいの子どもたちを見ると幸せを感じます。好きな歌を歌わせてもらえていることが何より幸せだと思いますし、お仕事が終わって、のどがカラッカラでビールをグワッと飲んだときに幸せだと思うこともあるし、お風呂に入って『ああ幸せ』と思うことも。毎日さまざまな瞬間に幸せを感じますね」
とてもポジティブな言葉に感じますが、自らを「ネガティブな性格」と分析します。
「ネガティブだからこそ、小さなことに幸せを感じるんだと思います。何でも欲張ったらキリがないんです。ただ、お金があっても健康でなければ幸せを感じられないですよね。健康であれば何でも食べられるし、どこへでも行けるし、好きなこともできる。一番の幸せは体が健康であることだと思います」
坂本冬美さんにお会いしたのは、2019年以来2回目です。当時の取材で、「いろいろな経験を重ねてようやく等身大で演歌を歌えるようになったと思うので、これからもっともっといい歌、聴く人にそっと寄り添える歌を歌えるようになりたいですね」と話していました。
その翌年には桑田佳祐さんが書き下ろした「ブッダのように私は死んだ」を発表してファンを驚かせました。そして今回の新曲「ほろ酔い満月」でも表現の幅を広げています。
その間に起きたこと、感じたことを今回のインタビューで語っていただきました。「今を大事に生きなきゃ」という坂本さんの言葉は、私の心にも深く響きました。
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクト編集長の坂本が、音楽の話をお届けします。
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◆シングル「ほろ酔い満月」
2月21日発売、1400円(税込み)。
(ジャケット写真はユニバーサルミュージック提供)
収録曲 01. ほろ酔い満月
02. 淋しがり
03. ほろ酔い満月 オリジナル・カラオケ
04. 淋しがり オリジナル・カラオケ◆コンサート
今後の詳細はこちら https://fuyumi-fc.com/schedule/index.php#scheconcert
◆坂本冬美さん 公式サイト
https://www.universal-music.co.jp/sakamoto-fuyumi/
◆坂本冬美さん 公式ファンサイト
◆坂本冬美さん オフィシャルブログ
◆坂本冬美さん オフィシャルLINE
https://page.line.me/sakamotofuyumi
◆坂本冬美さん 公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/SakamotoFuyumi
◆坂本冬美ファンクラブ 公式X(旧Twitter)
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