Aging Gracefullyプロジェクト、企業向け勉強会第2弾<前編>
女性社員の健康管理に企業が注目する理由とは?
Project report キャリア ライフスタイル ヘルスケア
[ 18.11.05 ]
朝日新聞社と宝島社の女性誌「GLOW」が取り組む「Aging Gracefully」(以下、AG)プロジェクトは、職場や家庭、地域で大きな役割を担う40代、50代の女性たちのエンパワーメントを目的としています。先日、第4次安倍改造内閣が発足しましたが、20人の閣僚のうち、女性はたったの1人。世界114位と低迷する、日本のジェンダーギャップ指数の改善にはまだまだ時間がかかりそうです。
性別役割分業の意識やアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)など、女性が自分らしく生きていくことを阻む「壁」もたくさんあります。こうした「壁」について問題意識をもつ人々と話し合い、解決策を発信していく場をつくろうと、朝日新聞社AGプロジェクトチームは企業向けの勉強会を定期開催しています。2回目は9月27日午後、「健康経営と女性社員の健康管理」をテーマに東京本社で開催。化粧品メーカーやIT関連企業など18社から、人事やダイバーシティ、広報などの担当者24人が参加しました。
勉強会は2時間で、講師2人の基調講演とグループディスカッションがありました。1人目の講師は、経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課の紺野春菜さん。
企業が従業員の健康管理を経営的な視点でとらえ、戦略的に実践する「健康経営」の推進を行う部署で、係長を務めています。企業が従業員の健康管理に力を入れるメリットについて、紺野さんは様々な事例を挙げながら解説。例えば、米国の製薬会社ジョンソン・エンド・ジョンソンが、世界各国のグループ会社250社で働く約11万4千人に健康教育プログラムを提供し、投資に対するリターンを試算したところ、1ドルの投資に対して3ドルのリターンがあったそうです。この「投資」には、医療スタッフの配置や、保健指導のためのシステム開発費、診療施設やフィットネスルームの設備費などが含まれ、「リターン」には社員の生産性向上や欠勤率の低下、医療コストの削減、就職人気ランキングの順位アップによる人材採用のコスト減、ブランドイメージの向上などが含まれているそうです。
また近年は、機関投資家が企業の財務状況だけでなく、ESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治)への取り組みを投資判断に組み入れる動きが加速していますが、従業員の健康や活力を向上させる取り組みは、この中の「S」や「G」に位置づけられると紺野さんは解説しました。
「こうした社会状況を背景に、従業員の健康管理に力を入れる企業を、経産省が顕彰する「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人認定制度」への関心も高まっています。健康経営銘柄が始まった2014年度は、健康経営に関する調査に回答したのは493法人でしたが、2017年度は1239法人と、3倍近くに増えました。
健康経営を推進する企業に、今後注力したい分野を尋ねたところ、最も多かったのが「女性特有の健康問題への対策」だったそうです。
紺野さんは「腹痛やだるさなど、月経に伴う体調不良による1年間の労働損失は、4911億円という試算もあります。また、女性管理職は更年期世代であることも多く、女性の登用を後押しする昨今の政策トレンドからも、女性社員の健康管理に注目が集まっています」と説明。来年度からは「健康経営銘柄」「健康経営優良法人」の認定要件に新たに「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」が加わることも明らかにしました。
紺野さんは更に、経産省が今年1月、働く男女約5400人を対象に実施した「働く女性の健康推進に関する実態調査」の結果も紹介。女性に向けた質問で、「女性特有の健康課題や、女性に多く現れる症状により勤務先で困ったことがある」という回答は53%に上り、女性特有の健康課題を理由に、非正規社員から正社員への登用、昇進や留学などを「あきらめなくてはならないと感じたことはある」という回答も43%あったそうです。また、管理職に対しての質問で「女性特有の健康課題などの事情を持つ女性部下への対応要となった際、職場で必要と感じたもの、あれば助かったと思うものは」との問いに、「産業医や婦人科医、カウンセラー、アドバイザーなど専門家への相談窓口」を挙げた人が51%に上りました。紺野さんは「管理職には男性が多く、女性特有の体調不良に的確なアドバイスができずに困っています。また、女性が自分の体の不調を周囲に伝える機会が少ないことも、取り組みが進まない背景にあると考えられます」と指摘しました。
最後に紺野さんは、女性の健康課題への施策を考える上で大事な3つのポイントを記しました。
「男女関係なく、女性特有の健康課題について知る機会を増やし、当事者も管理職も、専門家に相談しやすい体制づくりが必要です。更には体調の波があっても仕事のパフォーマンスが保てるよう、柔軟な働き方を採り入れていくことが欠かせません」
紺野さんの講演に続き、大塚製薬の西山和枝さんが「AG世代特有の健康課題とは」と題して、更年期の様々な症状について講義を行いました。その模様はコチラ(中編)をご覧ください。