わたしらしく輝く 色とりどりの社会へ
からだ 近頃イマイチ、これって!?
Special 更年期 ヘルスケア 学び
[ 21.12.13 ]
昭和に育ち、男女雇用機会均等法の号砲で平成を走り抜けた、40代、50代のAging Gracefully (AG) 世代。一人ひとりの色とりどりの人生が、社会を少しずつ前へ前へと進めていきました。
AG世代をフィーチャーした、朝日新聞の2020年元旦の特集記事を紹介します。今回は、体の変化について。
この100年で女性の寿命は延びたけど、閉経年齢は50歳のまま。体の基本設計は、寿命40~50年時代から変わっていません。だから、更年期は不調になって当たり前。自分にはどんな治療がいいか、何が適切か、自己決定するいいチャンスかもしれません。
我慢しないで、話して頼って
更年期症状はなぜ起きる? 東京医科歯科大女性健康医学講座の寺内公一教授は「女性ホルモン(エストロゲン)のゆらぎ」を要因に挙げます。閉経前後、エストロゲンを分泌する卵巣の働きが弱ると、脳の視床下部が「もっと出して」と指示を出す。これに卵巣が過剰に反応して「車の急発進」みたいなことが起きる。すると視床下部がブレーキをかけようとする……そんな混乱が繰り返されます。
視床下部は体温や呼吸を制御する自律神経の中枢。その混乱が様々な症状につながります。顔のほてりや寝汗は知られていますが、寺内教授は 「肩こりやうつなどの症状もよく見られます。体だけでなく、心理的、社会的な要因も大きい」といいます。
エストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)が代表的な治療法で、いまは飲み薬のほか、貼り薬、塗り薬もあるそうです。
先生、私、生理が不規則になってきたんです。
頭痛と肩こりも全然治らなくて。
1.もしかして、更年期症状でしょうか?
先生、そもそも
2.更年期症状ってなぜ起きるんですか?
でも同い年の友人たちとは出る症状が違いました。
3.なぜ人によって症状が変わるんですか?
「自分で知ることが大切」と語るのは、福島県立医大性差医療センターの小宮ひろみ教授。診察ではゆっくり話を聞きます。「更年期症状には社会・環境要因がかなり影響します。『なぜこんなに苦しいのか』と語ることで家庭や職場環境の問題に気づき、楽になる患者さんも多い」といいます。小宮教授自身、40代に業務が増えたものの、心の持ち方を変え、ゆとりをもって取り組むようにしたら、かえって円滑に業務が進んだとか。 「我慢せず、正しい治療を受ければ生活の質はそれほど下がりません」
NPO法人「女性の健康とメノポーズ協会」は、カフェや電話相談で女性が体に向き合う支援をしています。三羽良枝理事長は「更年期の不調は恥ずかしいことではありません。自分を見直し、これからを考えるいい機会です」と話します。
「勤務中に困った」4人に1人
働く女性の増加に伴い、職場での支援態勢も求められています。
経済産業省が2018年に行った「働く女性の健康推進に関する実態調査」では、50代以上の女性従業員の23.5%が更年期障害で勤務中に困った経験があると答えました。企業の産業医を25年以上続ける内科医の荒木葉子さんは「更年期にさしかかる女性社員が増えてきたのは最近のこと。対策はこれからという会社がほとんどです」といいます。
経産省は、従業員の健康管理が企業の成長に結びつくという視点から「健康経営」を推進。更年期を含む女性の健康を支える施策として、
(1)リテラシー(健康を自ら管理する能力)の向上
(2)相談窓口の設置
(3)テレワークや休暇制度 など
の働きやすい環境の三つを挙げます。荒木さんは「三つどもえで進めることが大切」。特に性ホルモンの知識が男女ともに乏しく「職場全体のヘルスリテラシーが上がらないと、困ったときに孤立してしまう」と指摘します。
女性社員にセミナーなどを行う企業は増えています。バイエル薬品は13年から男性社員も対象にした女性の健康講座を年1回ほど実施。17年からは質問しやすいように男女を分けて行ったところ、男性に好評で「継続してほしい」との声が多かったといいます。
花王は社員が産業医にメールで気軽に相談できる窓口を用意。ドコモ・ヘルスケアやオムロンは、法人向けに女性の健康セミナーを開催するサービスを提供しています。
50歳からの私を選ぶために
「私はいま○歳だったらいいのに」という設問に、一番多かった答えが「50歳」。臨床心理士の西尾ゆう子さんが、60~70代の女性25人に「老い」をめぐるインタビューをしてわかったことです。可能性あふれる10代でなく、フル稼働する30~40代とも違う、50歳とは。なぜ?
「先輩たち」は、自分のことは脇においた生き方から自分を中心にやり直せる、最後の年齢だったと振り返りました。「達成感はそれぞれですが、50歳で何を選んだかの結果が10年後、20年後の自分なのだと受け入れていました」と西尾さん。
臨床心理の世界では40~50代の中年期を「峠」に例える研究者もいるそうです。更年期を迎えてイライラしたり、不安になったり。「体に不調があると、その人が潜在的に持っている心の弱い部分を持ちこたえられなくなる。いつもは世話をする側でも『ちょっと誰かに頼りたい』という気持ちになるのは自然なことです」と西尾さんはいいます。峠を越える道先案内を探すのも大事なこと。「妊娠・出産の時に伴走してくれた助産師さんのような存在でしょうか」
同世代だと自分とつい比べてしまう。であれば峠の先で生き生きと過ごしている経験者の話を聞く。「女性同士が縦の世代ともつながっていくことで、互いの助けになり、自分らしい選択ができるのではないでしょうか」。更年期を知り、支え合いながら自分の峠を越える営みが、心豊かな老後につながるといえそうです。