わたしらしく輝く
パートナーの体の悩み、知ってますか?
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[ 22.01.10 ]
昭和に育ち、男女雇用機会均等法の号砲で平成を走り抜けた、40代、50代のAging Gracefully (AG) 世代。
一人ひとりの色とりどりの人生が、社会を少しずつ前へ前へと進めていきました。
AG世代に向けた、朝日新聞デジタルの2021年12月の特集記事を紹介します。今回は、実はお互いにあまり知らない、パートナーの体の悩みについて。
年齢を重ねても自由に行動したい。でも、ハードルが立ちはだかる時があります。
特に口にしづらいのが「下半身の悩み」。
膀胱(ぼうこう)がんを公表したキャスターの小倉智昭さん(74)は闘病の中で感じた不便さを明かし、その改善に向けて発信しています。
女性も50代を迎えると、様々な機能障害が表れます。自身のクリニックで「性機能外来」を設けている関口由紀医師にも話を聞きました。
男性の尿漏れ、性機能…隠さず伝えたい
膀胱がんを公表・小倉智昭さん
「男子トイレにも汚物入れを!」って、言い続けているんです。
ホテルや公衆のトイレで見たことないし、いわゆる「バリアフリートイレ」にも置いていないことが結構ある。でも僕がメンバーのゴルフ場には全部入りました(笑)。今の僕にとって尿取りパッドは必需品。普段は1回の吸水量が300~400ccというのを使っていて、1、2時間ごとに取り換えています。
2018年末に膀胱を全摘し、小腸を60センチ切って「代用膀胱」を作ってから尿漏れが止まらなくなりました。立ったり座ったり、おなかに力を入れるたびに激しく漏れます。でも、それで家にこもったら、もっと生活の質が落ちちゃう。パッドのおかげで活動できるんです。
男も中年になれば、酔っ払ってちびるとか、トイレを出てすぐズボンがぬれるとか、誰だってあるでしょ。前立腺を摘出した友人は骨盤底筋を鍛えていてある程度は止まるけど、やはり漏れると。だったらパッドを勧めたい。全然、恥ずかしいことじゃないです。
ただ、捨てるところがありません。僕は使用済みのはポリ袋に入れて家に持ち帰ります。お店のトイレで換えられた時は「ごめんなさい、紙タオルのゴミ箱に捨てさせてもらいました」と声をかけたり、ポリ袋に「燃えるゴミで処理してください」と書き置いて千円札を添えたりすることも。
以前、スタジアムでのラグビー観戦中に障害者用のトイレに並んでいると、「あっちのトイレへ」と係員の人に2回注意されました。だから僕は言ったんです、「膀胱を取っているので、こちらの方が都合がいい」って。謝られましたが、劇場なんかもそう。男子トイレの個室は狭く、大量のパッドを入れたカバンなんて置ける棚もない。
男子トイレに汚物入れがあれば、こんなふうに気を使わなくてもいい。つくづくそう思います。
排泄(はいせつ)で大変な思いをするようになって、発信しなきゃダメだと考え始めました。当初は「人気商売なんだから」と妻もマネジャーも嫌な顔をしましたよ。でも僕がテレビで自分の病気のことをよく話すようになった。小腸で代用膀胱を作る人も増えたようで、主治医は「すごい影響力」と言ってくれます。
もう一つ、性的な話も大事だから、僕は伝えたいと思っています。
タブー視されるけど、一番気になるという男性は多いはず。
2016年に初期の膀胱がんが見つかり、内視鏡でがんだけ切除しました。つまり膀胱は温存した。性機能を失いたくなかったのも、理由の一つです。
その2年後に膀胱を全摘しました。精囊(せいのう)を取って勃起神経も切ったので、もう二度と性生活は無理だとあきらめた。でも、ある時に挑戦したら精子は出ないが「瞬間の感覚」は残っていたんです。主治医も驚いていたけど、僕にとっては朗報でした。心から理解し合える二人なら、やり方によっては夫婦関係が保てる。こういう情報が伝われば、膀胱を全摘する人も増えると思うんです。
取材は2021年7月に行い、小倉さんは同年10月、膀胱がんの肺への転移を公表。所属事務所によると約1カ月の入院を経て、現在は通院で治療しているそうです。
閉経後の女性、半数に下半身トラブル
「LUNAネクストステージ」を営む女性泌尿器科医・関口由紀さん
女性泌尿器科医の私が2005年から横浜・元町で営む女性医療クリニックでは「性機能外来」を週1回、設けています。予約制で「夫婦なのにセックスができない」などの悩みを抱えた患者さんたちが受診しますが、50代から圧倒的に多くなるのが「性交痛」。この十数年で明らかに増えています。
性交痛の治療は、女性ホルモンが入ったクリームを局所に塗ったり、男性ホルモンの「テストステロン」を投与したりすることで改善が見込めます。パートナーである男性の勃起力低下が原因ということもあり、男性が「バイアグラ」などの勃起補助薬を服用すると良くなります。
更年期は女性ホルモンが低下し、膣(ちつ)が萎縮したり潤わなくなったりします。尿漏れや子宮脱などの下半身のトラブルは、骨盤の下で臓器を支える骨盤底の筋肉などが緩んだり傷ついたりして起きます。一連の症状は「GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)」と呼ばれ、閉経した女性の半数にみられます。
女性の「性機能障害」は
(1)性的意欲がわかない
(2)性的意欲はあるが体が反応しない
(3)オーガズムに達しない
(4)性交痛
の四つに分類されます。
ただし治療対象かどうかは、「パートナーとの関係性」で決まってきます。例えば「セックスレス」は2人とも問題だと思わなければ治療しません。症状に気づいたら早めに受診した方が回復は早く、治療はパートナーとともに行うのが原則です。
日本の女性で日常的にセックスをしているのは40~50代で半分、50~60代で3、4割、65歳以上で2割といわれます。人間の性的意欲は男性ホルモンが影響していますが、女性は男性の4分の1~1割。私の印象では、閉経した女性の7割が「したくない」ですが、3割の「したい」も重要です。
ある調査では女性の6割が「閉経後もセックスした方がいいと思う」としながら、8割は「閉経後の人生はセックスしない方が幸せ/満ち足りている」と答えています。昔のようにパートナーの求めに仕方なく応じるのではなく、「嫌」とはっきり言える女性が増えたのは確かです。
人間の性機能は、年齢を重ねても使っていれば維持できます。以前、私の外来に「一度もオーガズムに達していない」という80代の主婦が受診しました。私が「そのことを夫は認識していますか?」と尋ねると、首を横に振りました。次の外来で、彼女の告白に夫が心底驚いたこと、そこから夫が工夫して目的が果たせたと報告してくれました。
性的意欲があればセックスするのは女性の方が簡単。男性は勃起補助薬を使っても2割ほどは改善せず、陰茎に人工物を入れたり血管をつないだりなど、治療には手間がかかります。
昭和に育ち、男女の雇用機会均等の号砲で平成を走ってきた。そして50歳。過去も未来も見渡せる年頃を迎えたあなたや私をAging Gracefully(AG)世代と名付けました。年を重ねてもっと自由に。