AGカフェVol.12
ワーケーション事始め@熊本県上天草市
<前編>
Project report ライフスタイル キャリア トラベル 対談
[ 22.01.24 ]
AG世代の「学びとネットワーキングの場」として定期的に開催しているAGカフェ。
2021年10月27日は「ワーケーション事始め」と題して、熊本県上天草市内の観光施設「リゾラテラス天草」から生配信しました。
コロナ禍でリモートワークが普及し、旅先で仕事(Work)をしながら休暇(Vacation)も楽しむ「ワーケーション」が注目されています。
非日常の空間で働くことで、ストレスの低減や、生産性アップなどの効果があるという調査結果も。苦境にある観光業界や、人口減に直面し、交流人口や関係人口を増やしていきたい地方自治体の関心も高く、各地で視察ツアーなどが開催されています。
上天草市は、熊本県南西部、天草諸島の玄関口に位置する人口約2万4500人の自治体です。
アクセスは熊本空港から車で1時間半ほど。八代海と有明海に面し、市のほぼ全域が雲仙天草国立公園に含まれており、釣りやマリンスポーツ、トレッキングにキャンプなど、様々なレジャーが楽しめます。
市は2022年秋に、オフィス棟と宿泊棟を兼ね備えたワーケーション施設も建設予定。今回のAGカフェは、同市でワーケーションの誘致や普及に取り組む3人をゲストに、朝日新聞天草支局長の近藤康太郎編集委員がお話を伺いました。ゲストはこちらの3人です。
進行役の近藤編集委員は『アロハで猟師、はじめました』の著書もあり、この日もトレードマークのアロハシャツにサングラス、テンガロンハット姿で登場。
東京・渋谷出身で、50歳を過ぎてから、縁もゆかりもない九州に赴任。新聞記事や本を書く傍ら、田植えや狩猟、若者向けの文章塾も手がけるなど、幅広く活動しています。
- 近藤
- 本日は「ワーケーション」がテーマということですが、普段、鉄砲撃ちで山にいるもので、世の中のことをよく分かっていなくてですね。恥ずかしながらこの言葉も初めて聞いた次第です。一体どういうもので、市ではどのように進めようとされているのでしょうか?
- 鬼塚
- ワーケーションは2000年代にアメリカで始まったと言われています。ブロードバンド環境が整備され、パソコンがあればどこでも働けるようになったことが背景にあります。
上天草市は長年、国内外の観光客誘致に取り組み、2020年は年間190万人が訪れていますが、コロナ禍で大きなダメージを受けました。人口減少も著しく、1950年の5万5千人から半減しています。そうした中で、市への来訪や移住のきっかけになればと、離島の湯島に昨年、コワーキングスペース付きの滞在施設を作りました。市内で遊び、働き、滞在してもらう「関係人口」を増やすプロジェクトを進めているところです。
- 近藤
- 遊びながら働く、働きながら遊ぶというと、まるで自分のことを言われているようでどきっとします。ちなみに今日の会場、リゾラテラスなんですが、クラクラするほどおしゃれで、皆さんにお見せできないのが残念です。目の前が海という絶好のロケーションで、夜景も素晴らしい。昼間は緑がまぶしく、ここで原稿を書けば下手くそな人でもうまくなるんじゃないかと……。藤川さん、ここにもワーケーションのお客さんは増えているんですか?
- 藤川
- PCで作業をされている方はよく見かけます。これまではレジャーや旅行目的のお客様向けのサービスを展開してきましたが、今後はビジネス向けの需要にもしっかり応えていきたいです。
- 近藤
- コロナは確かに大ピンチですが、チャンスにできる面もあるかもしれませんね。さて、山下さんは2020年に、東京の化粧品会社社長を退任され、30年ぶりに地元に戻られたとか。久々の地元はいかがですか?
- 山下
- こちらの時間割に慣れるのに3カ月かかりました。夕方5時半にはご飯を食べて、8時にはもう何もすることがない(笑)。でも、人生の選択としてはとても良かったです。よくSNSで「#今日の海景」とつけて海の写真を投稿しているのですが、それを見た東京の友人たちが頻繁に遊びに来るようになりました。
- 近藤
- 私も半世紀くらい、東京とニューヨークにしか住んだことがなかった(笑)。でも、8年前に長崎県の諫早市へ赴任して、カルチャーショックを受けて、もう絶対、東京には帰らないぞと。何とか九州に残れるように、色んな企画を立てて、長崎の諫早から大分の日田、熊本の天草へと移ってきました。山下さんは企業経営のご経験から、ワーケーションって日本社会に根付くと思いますか?
- 山下
- 働き方の専門家ではないので、あくまで私見ですが、私自身、社長退任や帰郷を判断したのは、コロナ禍でリモートワークにしたら、会社の業績が上がったことが大きな理由でした。もともと自分自身も、人生を90年と考えて45歳の節目には第二のステージに進みたいと思っていたこともあります。ワーケーションはあくまで働き方の一手段なので、様々な自治体が誘致を進める中、上天草のウリは何なのか、たとえば、働く人のウェルビーイングを高められるとか、そういうコンセプトを立てることで花開いていく面はあると思います。
- 近藤
- 鬼塚さんはオフィスの概念が多様化していくことを、行政としてどう考えていますか?
- 鬼塚
- どこで働いてもいいよね、ということが企業の制度として認められて普及していくことと、自治体のワーケーション施策や施設の整備が同時に進まないと、せっかく施設を整備しても来てもらえないのではないかと思います。市役所もリモートワークを導入し始め、私の課も10人中、毎日1、2人がリモート。そういう働き方が日常になるといいなと思います。
- 近藤
- うわものだけ作っても、働き方に関する意識が変わらないと、世の中は変わらないというのはその通りですね。ちなみに、藤川さんはずっと上天草をベースにお仕事をされてきたのでしょうか。
- 藤川
- はい。ここで生まれ育って、岐阜県で就職して28歳でまた戻ってきました。父が観光施設を運営していて、市有地を借りてこのリゾラテラスを建てました。
- 近藤
- 東京とか大阪で働いた経験は?
- 藤川
- ないです。ずっと地方です。
- 近藤
- 大都市の恐ろしさは知らない。
- 藤川
- はい。幸せな人生ですね(笑)。最近はコロナ禍のストレスからなのか、東京の方が地方に急速に意識が向いてきたなと感じています。移住した方もいらっしゃいますし。リモートワークが増え、会社に行かずとも仕事ができるようになったと。都会では埋没してしまう個々人のスキルが、地方だと重宝がられることもよくあるので、「充実感が得られる」という話も聞きますね。
- 近藤
- 山下さんは、高校からふるさとを「裏切って」飛び出した(笑)。私の知っている範囲だと、女性は進学や就職で大都市に行って、男性は地元に残る人が多いなと。山下さんはどういう経緯で地元を離れたんでしょうか。
- 山下
- 高校進学の時から、「この島を早く出てやるぞ」と思っていました。当時はネットもなくて、読みたい本を買うにも電車で70分かけて熊本市まで行かなきゃならない。一方で、東京なんかに行くものかという気持ちもあり、大学は鹿児島へ、そこから中国に2年間留学して。モラトリアムが長かったんですね。帰国したら就職氷河期で、旅行会社にエントリーしたら、間違えて九州支社じゃなく関東本部の募集だったものですから、そこで採用されて以来、ずっと東京です。
- 近藤
- 昔は人口も多くて、地方から金の卵を集めて生産性を上げていた。その善しあしは別として、そういう時代はもう終わり、いまは情報資本主義の時代になった。
- 山下
- 同感です。より多く、強く、安くという時代は確実に終わったなと。そこで勝負してもしょうがないよねという。
- 近藤
- さすが社長ですね。当ててもないのに。
- 山下
- 勝手にしゃべる(笑)。
- 近藤
- ワーケーションはすばらしい。でも、もっと浸透する可能性はあるのか。そのためには何が必要か。藤川さんはどうお考えですか?
- 藤川
- 可能性じゃなくて、実際そうなっているなと。会社勤めだけじゃなく、副業や複業の広がりでフリーランスの方も増えてきているので、場所を選ばず、旅をしながら働くという時代は確実に来るなという感じがしています。
- 近藤
- さっき、鬼塚さんが「関係人口を増やしたい」とおっしゃっていた。 必ずしも住民票を移してくださいというわけではないんですね。
- 鬼塚
- 何回も旅行に来てくれたり、ふるさと納税をしてくれたり、自治体への関わり方は多様化していると思います。上天草にも、地域おこし協力隊として東京在住のイタリア人の映像クリエイターの方が赴任されたり、キャンピングカーで全国を巡りながらお仕事されているIT企業の経営者の方がいらしたりしています。実際に「関係人口」と呼べる方々と知り合う機会が増えたので、こういう動きは広がっていくのかなという実感があります。
後半は「これからの働き方」をテーマに、4人が更に議論を深めていきました。その模様は、<コチラ>からご覧ください。