AGカフェVol.12
ワーケーション事始め@熊本県上天草市
<後編>
Project report ライフスタイル キャリア トラベル 対談
[ 22.01.24 ]
AG世代の「学びとネットワーキングの場」として定期的に開催しているAGカフェ。
2021年10月27日は「ワーケーション事始め」と題して、熊本県上天草市内の観光施設「リゾラテラス天草」から生配信しました。
イベントの後半は「これからの働き方」をテーマに、会の進行役を務めた朝日新聞天草支局長の近藤康太郎編集委員が自らの来し方を振り返りました。
- 近藤
- 僭越ながら、ちょい長めにお話しさせていただきます。ずっと東京で働いてきて、飽き飽きしまして。縁もゆかりもない九州へまいりました。というのも、赴任する前に長崎に旅行したんです。
雲仙から長崎に向かう途中で小浜温泉に通りかかり、バスの車窓から沈む夕日を見て、何だこりゃ、こんなきれいなところがあるのかと。長崎総局のやつらはこんないい場所で働いているのかと。給料半分でいいだろ、取材先に行くのがもう遊びじゃねーか、ふざけんなって思ったんですね(笑)。 - そんなわけで九州に来たんですけど、連載を書かなきゃダメだと言われ、いつクビになってもいいように、朝に1時間だけ、自分が食べる米を作ることにしたんです。米さえあれば飢え死にしないだろうという、ギャグみたいな発想で。ところが、そこで田んぼの師匠に出会いまして。口は悪いけど親切に教えてくれて、ド素人の私でも1年目で田んぼができちゃった。ますます東京に帰る気がなくなりました。
- 近藤
- 企画をやらないと東京に帰らされるから、2年目は人力で田んぼをやると。めちゃくちゃですよね。3年目はイノシシや鹿が入ってきたもんで、退治して食っちゃおう、おかずもゲットできるしという、これまた短絡的な発想で。
- でも、鉄砲撃ちになったからって、簡単にイノシシを仕留められるわけがないんですよ。話をはしょりますけど、猟を続けるうちに鴨猟にはまってしまいまして。いよいよ本当に東京に帰る気がなくなりました。
- 最初はさばいた肉を周りの方にあげて、代わりに野菜をもらったりして。そのうちに私、渋谷生まれなもので、地元のフレンチレストランにこの話をしたら興味を持ってくれた。持ち込んでみたら、「こんな鴨、みたことない」と。実はジビエを売りにしているお店も、養殖したものを使うことが多いらしいんです。私のは、さっきまで野生で生きてきた鴨。「こんなに毛づやのいいのは見たことない」と。それで、店に卸すようになったんですね。コロナの前のことです。そしたら爆発的に当たって。あの、食中毒とかじゃないですよ(笑)、大人気になった。私からは「諫早鉄砲鴨」っていうブランド名だけ使ってくれたら、お金はいりませんと。
- それからは、山にいると携帯が鳴る。「撃った鴨、全部ください」って。おい、俺は猟師じゃねーぞ、一応、記者やライターもやってるんだぞって。向こうは「撃ちゃ当たるし、当たって落ちたら探せるでしょ」って思ってるようなんですけど、そんな簡単じゃないんですよ。
- 近藤
- でね、田んぼやって猟師やって、今は食肉卸しもやっている。何が言いたいかっていうと、「ワーク・ライフ・バランス」っていうじゃないですか。5対5とかで。ワークは労働だから、基本、嫌なことでしょ。それが5。で、本当の生活、ライフが5。でもね、田舎に来てみたら、そんなの私には絶対無理だって分かったんです。
- 「ワーク・イズ・ライフ」。もしくは「ライフ・イズ・ワーク」です。10対ゼロ。遊びが仕事。仕事することが、もはや遊びになっている。じゃないと無理。それを分かったことが、田舎に来て本当によかったと思うこと。でね、ワーケーションって根本的にはそういうことなんじゃないかなと。知らないくせに、そう思ったんですね。
- 山下さんは就職氷河期世代で、留学から帰国して就活が大変だったと。最初は派遣社員、それから正社員、そして社長と、ある意味、現代の豊臣秀吉みたいなキャリアを積まれて。そしてまた地元に帰ってきた。ワークもライフも、都会も地方も全部知っている。
そういう方からワーケーションってどう見えているのかというのをお話しいただけますか。
- 山下
- 壮大な前振りをありがとうございます(笑)。
「ワーク・イズ・ライフ」には大賛成です。私たちの世代は本当に就活に苦労して、「まずはワークを探せ」から始まったんです。東京で働いていた日々を振り返ると、やりたい仕事でイニシアチブを取るには、ある程度、偉くならなきゃいけないんだなっていう感じがありました。信頼を積み重ねるために10年くらい、結構肩に力が入っていた時期があったなと思います。
- 山下
- でも、先ほどもお伝えしたように、人生を90年と考えて、45歳の区切りで全然違う景色を見て生きていくぞっていうことは、30代後半、社長になる前から考えていたんです。そしたら44歳でコロナ禍に。いいニュースではなかったけれど、働き方を柔軟に変えるタイミングになって、チャンスだなと思ったんですね。
- 私は元々旅が好きで、毎年10日間ほど世界中を旅行していたんです。旅行しているときだけが唯一、息ができると感じられる瞬間でした。色んな景色を見てきて、40代前半で久々に天草にゆっくり帰ったら、「あれ? マレーシアと同じような夕日だわ」って感動して。あんなに出たがっていた島だったのにね(笑)。
- そこで、天草に帰るという選択肢が急速に浮上しました。どこででも生きていけるタイプなので、外国でもよかったんですけど。縁のある天草に戻り、この年齢からでもワークとライフを分けずに働く、社会にどう自分を役立てられるのかを模索していく。
ワーケーションとは違うかもしれませんが、自分らしくいられる場所で、どのように価値を提供できるのかを模索している日々を、今は本当にありがたく思っています。
- 近藤
- 「ワーク・イズ・ライフ」に票が入ってうれしいです。
藤川さんは、観光業のお立場で幅広い方と接点があると思いますが、ワーケーションを成功させられる人たちの共通点みたいなもの、こうしたらすっと入っていけるんじゃないかみたいな、サジェスチョンがありましたら。
- 藤川
- 企業経営の立場から、経営者って時間の管理や新しい仕事を作ったり、地域貢献したりできる裁量があることが魅力だと思っています。自分で決められることが「ワーク・イズ・ライフ」にもつながるというか。会社勤めの方は、色々と制約があると思うんですけど、思い切って自分で決めてみたらいいんじゃないでしょうか。経営者も、まずはワーケーションを試してみて、どれだけ生産性が上がるか、体験していただきたいですね。
いま、様々な企業でメンタルの問題が出ていますが、ワーケーションでそういう問題がどれだけ変わるのか。そういう試行錯誤の中で、職場の雰囲気がいい方に変化するといいですよね。
- 近藤
- 同感です。思い切って決めて、実際にやってみる。
私、こう見えて音楽評論家もしていまして、来日するアーティストにインタビューしたりしてたんです。九州に来ることが決まって、その仕事はもうできなくなるなと思ったら、むしろ増えたんですよ。変な仕事をしている、面白い奴がいるってことで。 - あと、鬼塚さんに伺いたいんですけど、地方って仕事がないって言われますよね。起業といっても、誰もが藤川さんや山下さんのようにはなれない。どうしたらいいんでしょう。
- 鬼塚
- 一次産業の担い手が減って耕作放棄地が増えて、上天草では漁師さんも減っています。一次産業への新規参入は国のサポートも充実しているので、チャンスを見つけやすいと思います。
もう一つは、都会で培った技術を地方で還元する、地方の課題解決に役立てていただくという方法。都市部だと助け合い精神が薄いと言われたりしますけど、地方に来ると、すごく感謝されてつながりができる。
自分ではたいしたことないと思っているスキルが、地域の課題解決につながれば、ものすごく可能性が広がる気がします。
- 近藤
- 地域で関係を結ぶ、感謝されるっていう話、とてもよく分かります。都会にいたころは、関係性なんてうざったいよという感じだったんですけど、違うんですよね。地方に来たら、生態系の一個になるというのが快感になる。それはすごく発見でした。
- 今はね、定年後に地方移住とかいう特集をよく雑誌でやってますよね。実名は出せませんが。特集のタイトルが「絶対やっちゃいけない地方移住」。人間関係がめんどくさいとか、そんなことばっかり書いてるんですよ。馬鹿じゃないのって。田舎に行ってライフスタイルが変わるのは当たり前だし、変わるから面白いんですよね。都市部のライフスタイルを持ち込んで地元と全く接点持たないってなんだそれ、植民地かよって。
- 山下さんに伺いたいのはね、さっき「友達がいない」とおっしゃった。私もね、友達がいないのに関係を結んでいくなんて話をしましたけれども、その実情というのは、うざったいものですか? それとも、なかなか面白いものですか?
- 山下
- 誰とでも友達になれるタイプなので、関係性を結びたいんですけれど、私、結婚していなくて。中学校くらいまでの同級生は、子どもや、孫がいる人もいる。そういう点で、話が合わなかったりすることもあるんですね。でも、色々教えていただきたいなと思っています。最近は、藤川さんの会社で若い方たちと色んな話をさせていただいて、「プレ友達」くらいの関係性くらいにはなっているんじゃないかと思って、楽しんでいます。
- 近藤
- 私はね、友達がいなくて有名なんです。「近寄るな」っていうオーラを出してきたもので。でもね、そういう奴でも大丈夫でしたわ。一生懸命、百姓をやっていたら、向こうから来てくれました。
- 山下
- 分かる気がします。
- 近藤
- 唐突なんですが、そろそろ質問のコーナーということで、鬼塚さんに、「上天草では2拠点、多拠点のワーケーションも可能ですか?」ということなんですけれど、いかがですか?
- 鬼塚
- 使われていない別荘を市が借り上げて中長期のお試し移住を体験してもらうという取り組みをしています。また、先ほどご紹介した湯島のコワーキングスペースにはお試し居住のスペースがあります。
藤川社長の施設や、市内の旅館でワーケーションプランを導入しているところもあるので、そういうところをご紹介できればと思っています。
- 近藤
- 期間はどのくらいですか?
- 鬼塚
- 最低1週間から1カ月です。
- 近藤
- これね、いま初めて聞きましたけど、絶対に「買い」ですよ。1週間、休みをとって旅行しながら仕事をしてみることをお勧めします。やってみて、「ないな」と思うかもしれないし、私みたいに「もう絶対東京には戻らない」と思うかもしれない。別荘を借りられるなんて最高じゃないですか。私ね、市の回し者ではありませんよ。いま初めて聞いたんですから、でも絶対、これは「買い」です。
- 次の質問は山下さんですね。「働き方、生き方を実験的にアップデート中とのことですが、拠点を東京に戻す可能性、また、知り合いが誰もいない土地に移る可能性もありますか?」とのことです。いかがですか?
- 山下
- 今も東京で仕事をしていて、毎月1週間は東京でホテル住まいをしています。今後は5年くらいかけて、上天草、山形の鶴岡と海外ではグルジアを拠点にしたいなと。全ての場所に共通するのは、知人がいること。私は、特定の場所に縁のある人と知り合って、その土地に興味を持つケースが多いです。
これからも旅をしながら、色んな場所に友達を作り、ご縁を増やしていけたらと思っています。
- 近藤
- 私もね、東京、諫早、日田、天草と拠点が増えて、できれば中南米あたりにももう一つ欲しいなと思ってるんです。拠点が増えるって、人格が増えるってことなんですよね。
- 山下
- すごくよく分かります。
- 近藤
- 多重人格になるってことは、人生が豊かになる。楽しいですよ。
さて、あっという間にお別れの時間がきてしまいました。最後に皆さんからお一言ずついただければと思います。まずは鬼塚さんから。
- 鬼塚
- 今日はありがとうございました。本音を言いますと、本当に上天草にワーケーションに来ていただけるのかという不安はあるのですが、藤川さんを始め、一緒に盛り上げていこうという事業者の方々がたくさんいらっしゃいますので、頑張っていきたいと思います。
- 藤川
- ありがとうございます。アフターコロナに向けて、ワーケーションも含めて我々も進化していかなければならないなと、思いを新たにしました。上天草は、温泉もありますし、夕日も美しい。ぜひ、いらしていただいて、良さを実感していただきたいです。
- 近藤
- 私ね、実は温泉評論家でもあるんですけど、天草の温泉は本当にいいですよ。概ねアルカリ性の泉質でとろっとしていて。すいません、また余計なことを。
- 山下
- 今日は皆さんにどこまでワーケーションについて有意義なお話ができたかなと思ったのですけれど、1週間からお試しできるということですので、ぜひいらしていただけたらなと思います。
天草は長崎県だと思っていらっしゃる方がいるんですけれども、最寄りの空港は熊本か天草になりますので、どうぞお間違えのないようにお願いいたします。
- 近藤
- あらためまして本日は皆様、ありがとうございました。
前編は<コチラ>からご覧ください。