坂本真子の『音楽魂』
増田惠子さんインタビュー〈後編〉
「毎日を大事に、できるだけ笑顔で」
体力作りもお肌のケアもコツコツと
Special 音楽 ライフスタイル
[ 22.09.07 ]
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクトリーダーの坂本が、音楽の話をお届けします。
歌手の増田惠子さんは今年7月、ソロデビュー40周年記念アルバム「そして、ここから…」を発表しました。8月25日にピンク・レディーのデビュー46周年を迎え、9月2日の誕生日にはビルボードライブ横浜で記念ライブを開催しました。そんな増田さんがいま感じていること、音楽への思いなどを聞きました。インタビュー後編では、日々思うことや音楽との向き合い方について語ります。
歌うために、のどや体のケアは欠かさないという増田さん。朝起きて最初にすることは、鼻うがいです。20代半ばの、花粉症という言葉がまだ一般的ではなかった頃から約40年、毎朝の日課になっています。
「24、25歳の頃、風邪かと思って内科に行ったら、『ケイちゃん、これは将来、花粉症という言葉になると思うけど、アレルギーだよ』と言われたんです。『毎朝、お湯にちょっとしょっぱめの量のお塩を入れて、鼻うがいをしたら大丈夫だから』と医師に勧められて、それから毎朝やっています。鼻うがいをすると風邪をひかないですし、のどのうがいもこまめにやっています」
ボイストレーニングは約20年前、初めてミュージカルに出演すると決まったときに始めました。
「『のどの筋肉や声の出方も30代後半から変わってくるから、毎日20分でいいから続けた方がいいよ』と先生に言われて、それからは自宅で続けるだけでなく、3カ月ごとに先生のところに通って調整してもらっています。『40歳を過ぎると、のどだけでなく体の筋肉も衰えてくるので、まず体幹を鍛えてください』と言われたんですけど、20代のときのような、ハスキーでもつややかな、濡れているような声は、体幹を鍛えてもなかなか出ないんですよ。それでも、今の私が最大限できることをして歌を届けるために、ボイストレーニングもずっと続けています」
「昔の自分と比べてしまう」
多くの女性は40代、50代で、心や体のさまざまな変化に直面します。増田さんは40代のときに、私生活が大きく変わりました。
「44歳で結婚しました。それまでは一人で、仕事第一。仕事あっての自分なので、仕事に忠実に生きてきて、自分一人で自由に時間を使っていました。でも結婚して、昭和の時代に生まれた人間なので、どこか古いところもあって、おうちのことはちゃんとやりたいと思ったんですね」
毎朝、だしをとってみそ汁を作り、ごはんを炊き、魚を焼き、卵焼きを作り……。夫のために1年ほど、和食の朝ごはんを作り続けたそうです。
「最初はちょっと無理していたところもありました。そうしたら主人が『ケイさぁ、朝はトーストがいいんだよね』って。1年前に言ってくれって感じですよね(笑)」
増田さんは30代半ばにバセドウ病と診断されました。バセドウ病は、体の活動を活発にする甲状腺ホルモンが必要以上につくられ、動悸(どうき)や多汗などの症状が出るというものです。2003年から05年にかけてピンク・レディーの再結成コンサートツアーで全国を回っていた頃、首が腫れたこともありました。
「すぐにお薬を飲んだら、数値が落ち着いて治まりました。それ以降、症状が出ていないので、20年ぐらいは薬も飲んでいません。ただ、体調管理はいつも気をつけています。ちょっとでも体調に不安を感じたら、食べ物でケアしたり早めに寝たりして、とにかく体力を元に戻すことを心がけています」
健康維持と体力作りのため、クラシックバレエのレッスンを30年以上続けています。10年ほど前からはピラティスを始め、ストレッチも毎朝必ずやっています。
「ステージに立っているとき、みなさんには、すがすがしい、りんとした空気を感じてもらいたいので。バレエやピラティスのおかげか、最近は体調が悪いと思うことはほとんどないですね」
40代、50代の更年期の時期には、体が火照ったり汗を多くかいたりしたこともありましたが、「我慢できないほどつらいということはなかったですし、生きている証拠だと思っていました」と振り返ります。
「結局私はいつも、ピンク・レディーで過酷なスケジュールをこなしていた頃の自分と比べてしまうんです。ちょっとぐらい体調が良くなくても、こんなことはなんでもない、と思ってしまうんですよね。それに、プラス思考の主人が横にいる影響もあるかもしれませんが、何でも悪い方には考えないので。例えばちょっと頭が痛くても、自分で一瞬認識したら、すぐ忘れてしまいます」
「今、自分でできることを」
年齢を重ねることを、増田さんはとてもポジティブにとらえているように感じます。
「年齢を重ねると、しわが増えます。でも、私の周りには素敵な女性が何人もいて、そういう方たちを見ていると、年を重ねた人の笑顔は、しわがあるからすごくチャーミングに見えるんですね。だから、せっかくいただいたしわはご褒美だと思っています」
とはいえ、美は一日にしてならず。増田さんは日々、お肌の手入れを欠かしません。フェイシャルマッサージを月1回受け、週5日は自宅で炭酸パックをしています。朝はパックをしたまま1時間ほど家事をして、入浴。オイルマッサージをしたり、ミストタオルと冷たいタオルを交互にあてたりもしているそうです。
「年々やることが増えて大変です(笑)。例えば『ケイちゃん、ちょっとほうれい線が気になるかも』と言われてからは、舌を歯に沿ってぐるぐる回す体操をお風呂の中で朝晩やっています。うちのお風呂は、お湯を循環させて炭酸にしてまた元に戻すという、アスリートの方がよく使っているものなんですけど、炭酸は乳酸を早く出したり、活性化させたりするので、すごくいいんですよ。とにかく今、自分でできることをやろうと思っています」
そして、いつも笑顔でいるように心がけています。
「年を重ねて、むっつりしていると怖い顔になるので、できるだけ笑顔でいたいんです」
そんな増田さんのリラックスタイムとは――。
「自宅のベランダでバラを11種類ぐらい育てていて、そのバラが咲いたときや、水をあげているときですね。猫ちゃんが2匹いるんですけど、猫と戯れているときは、『誰も邪魔をしないで』というぐらいリラックスして、楽しんでいます」。話しながら、増田さんは目を細めました。
ソロデビュー40周年記念アルバム「そして、ここから…[40th Anniversary Platinum Album]」通常盤のジャケット=ビクターエンタテインメント提供
「自分の心から出る声を大事に」
ピンク・レディーは8月で46周年を迎えました。
「最近、ピンク・レディーのデビュー50年のときは、何をして、どんなことを思って、どんな自分でいるのかな、と考えることがあります。あと4年ですけど、今の方が若いときの4年より早いので、日々を当たり前ではなく、大事に感じながら暮らしたいと思っています」
長く歌い続けてきた増田さんが、音楽と向き合う際に大切していることは何でしょうか。
「レコーディングは、私が命よりも大事に思っているお仕事です。また、自分の感性、自分が感じたものを大事にしていますし、自分の心から出てくる声を、おしゃべりするときも、歌うときも大事にしています。美しい声で歌い上げることは理想ではあるけれど、それだけでは届かないこともあるんです。その人が生きてきて、どんな人と会って、どんな感情を抱いて、どんな人生を生きてきたか。そういうものが体から表現されるので、日々を大事にして、人を愛して、自分のことも愛していないと、せっかく素敵な歌詞をいただいても、表現できないんですよね。日々いい意味で緊張して、感受性豊かに、いろいろなものを自分の中に取り入れていくことを大事にしていますし、聴き手に届く思いは、その人の心模様だったり生き方だったりするので、そういう歌を届けるために、毎日をとても大事に過ごしています」
今後の目標を尋ねると、すぐに「歌い続けること」という言葉が返ってきました。
「70歳まで歌いたいと、この間までは言っていたんですけど、最近はもうちょっといきたいなと思っています。ただ、歌詞を見ないと歌えなくなったらやめます。歌詞を見て歌ったら、カラオケ屋さんで歌っているのと同じになっちゃうでしょ? 今の私の目標は、声がちゃんと出て、歌詞を見なくても歌えるまでは、歌い続けることです」
「増田惠子 40th Anniversary & Birthday Live “そして、ここから・・・”」で歌う増田さん=9月2日、ビルボードライブ横浜。ビクターエンタテインメント提供
「もっともっといい歌を」
9月2日、「増田惠子 40th Anniversary & Birthday Live “そして、ここから・・・”」がビルボードライブ横浜で開催されました。白いワンピース姿で登場した増田さんは、アンコールを含め全14曲を披露。1曲目の「奇蹟の花」を歌った後、「みなさん、お元気でしたか……会いたかったです」と、胸に手を当てて感極まる場面もありました。そして、軽やかにステップを踏んだ「Del Sole(デル・ソーレ)」、女性の情念が渦巻く「観覧車」、悲しみの中に芯の強さを感じさせた「向日葵(ひまわり)はうつむかない」、少しハスキーな低音で朗々と歌い上げた「愛の讃歌」(2ndステージのみ)など、1曲ごとに違う世界観を表情豊かに聴かせました。
ピンク・レディーの「UFO」と「渚のシンドバッド」はもちろん振り付きで。細いピンヒールのサンダルで軽やかに歌い踊る姿は、当時と全く変わりません。観客はノリノリで、一緒に踊るファンもいました。ピアノ、ギター、チェロ、パーカッション、コーラスというシンプルな編成で、全く違和感なく聴かせたアレンジも見事でした。
その次に歌った新曲「こもれびの椅子」は、インタビューで増田さんが「64歳の私だからこそ歌える歌詞だな、と思います」と話していた作品です。増田さんの深みのある低音からは、温かく包み込むような、大きな愛を感じました。ステージで演奏するメンバーたちを見つめる、増田さんのまなざしがとても優しかったことも印象に残っています。
2ndステージのアンコールには、スタッフが用意した誕生日ケーキも登壇しました。「Happy Birthday to You」が演奏される中、ロウソクを吹き消した増田さん。少し声を詰まらせながら「本当にうれしいです。もっともっと体を鍛えて、もっともっともっといい歌が歌えるように、みなさんに届けられるように……。アンコールの歌で心を込めてお返ししたいと思います。この曲で元気になって、笑顔になって、少しでも前向きになって、明日きっといいことがあるように。がんばりましょう!」と観客に語りかけ、「Del Sole(デル・ソーレ)」で締めくくりました。
ピンク・レディーがヒット曲を連発していた頃、小学生だった私は、ほとんどの振り付けを覚えて、歌い踊っていました。2000年、ミレニアム記念のNHK紅白歌合戦を放送担当記者として取材した際は、NHKホールの舞台裏をケイさんとミーさんが歩く姿を見て、「本物のピンク・レディーだ!」と感激したことを覚えています。今回インタビューでお会いした増田さんは、芯の強さを感じさせる一方で、とてもやわらかい雰囲気を醸し出していました。日々の努力を欠かさない意思の強さと、透明感のある優しい笑顔。どちらも素敵でした。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
写真=山本倫子撮影
-
◆ソロデビュー40周年記念アルバム「そして、ここから…[40th Anniversary Platinum Album]」
生産限定盤(CD2枚+DVD)=写真=は8800円(税込み)。
通常盤(CD2枚組み)は4400円(税込み)。◆ピンク・レディー「ベスト・ヒット・アルバム」
1977年12月にシングル「UFO」と同時に全14曲入りLPで発売。2003年にCDで復刻された際、デビュー曲から1981年の解散前ラストシングル「OH!」までのシングル22曲を収録。今回は最新のデジタル・リマスタリングを行い、全31曲をストリーミングサービス、及び、主要ダウンロードサービスで配信中。
https://jvcmusic.lnk.to/PINKLADY_BEST
◆「増田惠子 40th Anniversary & Birthday Live “そして、ここから・・・”」セットリスト
9月2日(金)、ビルボードライブ横浜にて。
1stステージ 開場15:30 開演16:30
2ndステージ 開場18:30 開演19:30森丘ヒロキ(ピアノ)、齋藤純一(ギター)、中西圭祐(チェロ)、
山下由紀子(パーカッション)、YUKA(コーラス)M01. 奇蹟の花
M02. Del Sole(デル・ソーレ)
M03. 観覧車
M04. Et j'aime la vie(エ・ジェム・ラ・ヴィ)~今が好き
M05. 向日葵はうつむかない
M06. 愛唱歌
M07. 1stステージ/人生の扉、2ndステージ/愛の讃歌
M08. Key
M09. インスピレーション
M10. UFO
M11. 渚のシンドバッド
M12. こもれびの椅子
M13. すずめ
<アンコール>
M14. Del Sole(デル・ソーレ)プレイリスト「増田惠子40th Anniversary & Birthday Live“そして、ここから・・・”セットリスト」を公開中。
https://jvcmusic.lnk.to/KeikoMasuda40thlive
増田惠子オフィシャルサイト https://www.kei-office.net/
- 記事のご感想や、Aging Gracefully プロジェクトへのお問い合わせなどは、下記アドレス宛てにメールでお寄せください。
Aging Gracefullyプロジェクト事務局:agproject@asahi.com