坂本真子の『音楽魂』
藤あや子さんインタビュー〈後編〉
猫と、メンタルと、トレーニングと
「日々楽しく生きるための努力を」
Special 音楽 ライフスタイル
[ 22.11.22 ]
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクトリーダーの坂本が、音楽の話をお届けします。
演歌歌手の藤あや子さんは、今年デビュー35周年を迎えました。9月にビルボードライブ横浜で行った記念ライブでは、ライブハウスでジャズやポップスをじっくり聴かせるステージに初めて挑戦し、「35年を経てようやくできたこと」と振り返りました。最近は飼い猫のマルとオレオを写真や動画で紹介するSNS投稿も話題に。インタビュー後編では、藤さんの日々の過ごし方や、年齢を重ねることへの思いを聞きました。
今年4月に出した写真集「FUJI AYAKO」(講談社)で、藤さんは美しく引き締まった全身を披露しました。また、9月のデビュー35周年記念ライブでは、背中が大きく開いたドレスを着こなしていました。60代とは思えない、そのスレンダーな体形を保つために、日々どのような準備をしているのでしょうか。
「全ては毎日の積み重ねです。自分が毎日続けられるものを探すことが大切ですね。私の場合は、腕立て伏せを床でやるときついから、例えば洗面台とか、ちょっと高さがあって動かないテーブルで、斜め腕立て伏せを一度に30回。朝と夜に必ずやると決めて、1日に計60回やっています。そうしないとお肉は取れないよ、と自分を追い込むんです。そして、お風呂に入る前には必ずシャドー・ボクシング。『ワン、ツー』を1回と数えて、最初は計200回やっていたんですけど、さすがに息が上がって、きつくてフラフラするので、今は100回やっています。この二つは絶対にやると決めて、あとはヨガを週4日、朝に1時間半。これぐらいやらないと、体形を維持できないんです」
写真集「FUJI AYAKO」(講談社)
毎日の食事にも気を使っています。
「1食は昼過ぎに、オーガニックの食材にこだわったものを食べます。でも、ストレスになるから毎食は続けません。スイーツやパンも食べますし、食べたいものを食べるという余裕も与えてあげる。その代わりにトレーニングをやる。プラスとマイナスがフラットになるように、日々努力しています。おかげで一日の流れがすっきりするし、朝の目覚めもいいですし、よく眠れます。明るくなったら起きて、暗くなったら寝る。でも、ときどき夜更かしもしますよ。そこはおおらかに、大ざっぱに。一方でしっかりやるところはやる。それが基本です」
ヨガとの出会いは偶然に
藤さんが本格的に体を鍛えるようになったのは、50代に入ってから。当時まだ幼かったお孫さんをクラシックバレエの教室に送り迎えしていたときの、偶然の出会いがきっかけでした。
「バレエ教室で孫がぐずり出したときがあったんですね。私がいるともっとぐずるので、他の子のお母さんたちに『すみません、見ていてもらえますか。ちょっとその辺をぶらっとしてきます』と言って出て、1時間ぐらい町を歩いたんです。そうしたらヨガの体験レッスンを偶然やっていて、『体験します』と予約して、そこからスタートしました。何かきっかけがあったら、とりあえずトライすることが大事なんですね。トライしてみてダメだったらやめればいいので、自分に合うものをまず見つけること。人生は自分探しの旅なんですよ」
それから約10年、ヨガを続けてきた藤さん。ヨガの考え方に共感し、学ぶことが多かったそうです。
「『この1時間は、とにかく自分の体と心と向き合って会話してください』と言われて。『どうやって会話するの?』と最初は思ったんですけど、レッスンの最後に屍(しかばね)のポーズというものがあって、目を数分閉じて、そこから起き上がって、最後は生まれ変わった自分の魂に感謝の気持ちを伝えるんです。内臓も毎日頑張って動いてくれているわけじゃないですか。私たちの体の臓器に対しても感謝する、と言われたときに、すごいと思ったんです。『そうだよね、日々こうやって普通に動いてくれているよね、でも感謝の気持ちがなかったなぁ』と気づかされました」
「ヨガには体だけでなく、メンタルも鍛えられています。10年やって、歌にもプラスになっていますし、何が起きても常に動じない自分を作り上げられてきたかな、と思います。毎日の過ごし方がより前向きになりますし、自分を大事にしなきゃいけないことにも気づかされました。忙しいと自分のことはないがしろにしがちですけども、無理をしたらダメ。大切に、大事に生きなきゃいけないな、と思うようになりました」
孫の一言で本気に
昨年還暦を迎えましたが、「実は私、白髪染めを一度もしたことがないんです。おじいちゃんは本当に髪が黒かったので、きっと遺伝だと思います」と藤さん。
体形維持に本格的に取り組むきっかけになったのは、家族の言葉でした。
「私はお酒をやめて数年経つんですけども、それまではトレーニングやヨガをやっても、どうしてもおなか周りの脂肪がとれなかったんですね。当時小学生だった孫が一緒にお風呂に入ったとき、私のおなかのお肉をつまんで『なにこれ?』と言ったことがあって。ほっといて、みたいな感じだったんですけども(笑)、そのことが意識の中にずっとあって、お酒をやめたんです。『美しく生きたい』『美しく生きなければ』という美意識は死ぬまで持ち続けなきゃいけないと思っています」
そのお孫さんは現在14歳。二人で一緒に買い物に行くこともあります。
「面白いですよ。洋服を買ってほしいと言われて、よく渋谷の『109』に連れて行かれるんですけども、まさか自分がこの年齢で行くことになるとは思っていなかったので、刺激になります。若者のファッションを知って、いろいろな文化を目にすることができますし、若い子たちもすごく活気があって見ていて楽しいです。ただ、買い物が長くて、1階から上まで行って、また戻って、と振り回されています。『もう1回あのお店に行きたい』と言われて、『わかったわかった』と言いながら移動して。そういうのも楽しいですよ」
多趣味で「何でも楽しむ」
藤さん自身は、どのように気分転換をしているのでしょうか。
「何でも楽しむことです。私は多趣味なんですね。例えばプロ野球。私はもともと巨人ファンなんですけども、推しがいて、今は岡本和真選手が大好きで、グッズも持っています。ロッテの佐々木朗希投手も大好きで応援しています」
以前から絵画や書、陶芸の作品展を開くなど、アートの分野では知られている藤さんですが、「小野彩」(このさい)というペンネームで作詞作曲を手がけたり、還暦を機にギターの練習を始めたり、最近はキックボクシングに打ち込んだりもしています。また、アレンジ料理のレシピや写真をブログで公開しています。
「多趣味なのがいいのかな、と思います。絵を描かなきゃいけないときはこもって描きますし、歌を書いたり、ギターを弾いたり。毎日のように、食堂のおばさんか、というぐらい料理を作っていますし、ただボーっとして一日を終えることはほとんどないですね」
かつて山梨県内で営んでいた「ギャラリー彩」では、藤さん作のカレーが人気メニューでした。その味を忠実に再現したというレトルトの「マルオレカレー」を、現在はネット通販などで販売しています。
猫のワクチンも寄付
「マルオレ」とは、2019年から一緒に暮らす2匹の猫、マルとオレオのこと。2匹の存在は、藤さんに大きな影響を与えています。
「うちのかわい子ちゃんたちにはメロメロですし、癒やされています。もともと猫を好きではあったんですけども、夫のお母さんが保護した猫が産んだ4匹のうち2匹を引き取ったんです。もう、人生が変わりましたね。この出会いがきっかけで、今は保護猫の活動もしています。まさか自分がチャリティーの活動をするとは思っていませんでしたけども、勉強になりますし、地球上に生きているのは人間だけじゃないんだな、と思うようになりましたね。ゆくゆくは音楽で『マルオレフェス』をやりたい、と常々言っているんです」
出身地の秋田では、県が運営する動物愛護センター「ワンニャピアあきた」に猫のワクチンを寄付しています。
「『ワンニャピアあきた』にはお金で寄付ができないので、ワクチンを寄付させていただいています。まず、『猫の日』の2月22日。そして9月8日は、マルくんが黒猫であること(9月)とオレオちゃんのハチワレ模様(8日)で『マルオレの日』と勝手に設定しました。年に2回は寄付すると決めて、これは継続していきたいと思っています」
2020年以降、コロナ禍のために家で過ごす時間が増え、気づいたことが多かったと言います。
「猫って、とっても自由なんですよ。好きなことしかしなくて、めちゃくちゃ生きるのが上手。ストレスフリーな生き方は学ぶべきだと思います。特にコロナ禍で、こうやって暮らせばみんな幸せなのに、という気づきがありました。最初は私も、猫たちを飼ってあげる、と思っていましたけども、いや違うぞ、と。この子たちと一緒に暮らしていて、一緒に同じ空間で生きている。お互いに愛を与え合っているからフェアなんですね。決して『飼っている』『飼われている』ではないんです」
最近は猫の方が、自分より立場が上のように感じることもあるとか。
「それだけ私にいろいろな幸せを与えてくれましたから。豊かな気持ちにさせてくれたし、仕事を頑張ろうという気持ちに日々させてくれているし、楽しく暮らそうという気持ちにさせてくれたのも彼らだったし。その対象が私にとって猫であったというだけで、人生を豊かに生きるために、世の中の人たちは、何かそういう対象を見つけることがすごく大事だと思いますね。それは自分の家族でもペットでも、愛情を注ぎ合えるものを見つけられれば、何でもいいんですよ。一番大事なのは愛だと思います。愛がないと優しくなれないし、戦争が起きるのも愛がないからだと思うし、全ては、愛を持って生きることが大切だと思います」
SNSで「マルオレ」の写真や動画を発信すると、世代を超えた数十万人がフォロワーに。生後1カ月から1年3カ月までの写真を集めたフォトブックも発売されました。
「マルとオレオと藤あや子」(世界文化社)
「もう年だから無理」は絶対NG
年齢を重ねることは、老いと向き合うことでもあります。年齢を重ねることをポジティブにとらえるために、藤さんが心がけていることは何でしょうか?
「日々楽しく生きるための努力をすれば自信にもつながるし、私はまだ大丈夫、と思えます。日々楽しい、と思えるようにするのは、やっぱり自分自身なんですよ。『私はもう年だから無理』と口にされる方が同世代には多いんですけども、それは絶対NGですね。これは一番良くないワードだと思います。誰のためでもなく、自分のために努力しましょう。そうすれば自信につながって、生きることがもっともっと楽しくなります。日々楽しく生きるための努力は、気づいたときにやるべきだと思います」
何かに集中したり、体を動かしたりすることが多かったからか、更年期の不調を感じたことは全くなかったという藤さん。昨年、還暦を迎えて、思うことがありました。
「還暦というボーダーラインを越えてみて、私が以前から抱いていた、赤いちゃんちゃんこのおばあちゃん、という還暦のイメージとは違うことがわかりました。61歳の今も全然元気だし、感覚も鈍っていないし、体はすごく動く。それは私がここ何十年、なんとなくやってきたことの積み重ねがあったから、です。すごくいい年の重ね方をしてきたな、と改めて思ったんですね。計算ではなく、本能でやってきたことでしたが、私にとって無駄なことはなかったし、すごくプラスになったと思います」
なんとなくの積み重ね、と謙遜しつつ、その背景には、歌うことへの強い思いがあります。
「長く歌っていきたい、声をキープしていきたい、と常に思っていますし、そのために体幹を鍛えなきゃいけない、というところから始まっているので、全てが今ようやくつながってきたと実感しています」
35周年記念ライブで歌う藤あや子さん=2022年9月28日、ビルボードライブ横浜、ソニー・ミュージックレーベルズ提供
9月28日にビルボードライブ横浜で行われたデビュー35周年記念ライブでは、前半のドレス姿はとにかく妖艶(ようえん)という表現がピッタリの、ゾクゾクするような艶っぽさに目が釘付けになりました。後半のスーツ姿はさっそうとしてかっこよく、エアロスミスの「Angel」を歌う姿は本当に楽しそうでした。35年間で培った歌の力と、日々のたゆまぬ努力があるからこそのステージ。素敵に年齢を重ねている藤あや子さんに、これからも注目したいと思います。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
写真=伊ケ崎忍撮影
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◆「藤あや子 35th Anniversary Live “THE SHOW TIME” Supported by MUSIC ON! TV」
11月27日(日) 15:00~16:30、M-ON!(https://www.m-on.jp/)で放送。
※スカパー!やケーブルテレビでご視聴いただけます。
◆シングル「鳥」 (MHCL-2963)
歌手デビュー35周年記念シングル。南こうせつさんの名曲を南さんのプロデュースでカバーしました。
1.鳥
2.秘密
3.銀河心中
4.鳥(オリジナル・カラオケ)
5.秘密(オリジナル・カラオケ)
6.銀河心中(オリジナル・カラオケ)
1300円(税込み)◆藤あや子オフィシャルサイト https://ayako.fanmo.jp/
◆藤あや子オフィシャルブログ「あや子日記」 https://ameblo.jp/ayako-fuji/
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Aging Gracefullyプロジェクト事務局:agproject@asahi.com