AGサポーターコラム
「おおらかだが頑固」なビーグル犬と暮らして
Special ライフスタイル 学び レクリエーション
[ 22.12.14 ]
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の女性に、コラムを書いたり、プロジェクトの活動を手伝ったりしてもらう「AGサポーター」。朝日新聞社員のAGサポーターたちからは、日々感じていることや取材を通して思うこと、AG世代にオススメしたい話題などをお届けします。
10歳になったオスのビーグル犬と暮らしています。30代の終わりに子どものいない夫婦で飼い始めました。ビーグルは柴犬(しばいぬ)と同じくらいのサイズの、スヌーピーのモデルとなった垂れ耳の犬種で、性格は「おおらかだが頑固」とされています。わが家のビーグルも、まさにその通りのおじさん犬に育っています。
実はこの犬、1歳半の時に新聞ダネになったことがあるのです(「愛犬が迷子!不休の17時間 探偵雇い、チラシまき…試行錯誤」 https://sippo.asahi.com/article/10560401)。夜中に公園で散歩をしている間にいなくなり、翌日の夕方に見つかりました。てんやわんやの捜索劇から、迷い犬の探し方や迷わせない工夫など、たくさんのことを知り、この経験を多くの方と分かち合いたいと思ったのです。
記事にしようと思ったのは、事件のすぐ後に海外出張があり、機内で米映画「ゼロ・グラビティ」を見ていた時でした(以下、映画のネタバレあり。ご注意ください)。宇宙飛行士のマット(ジョージ・クルーニー)とライアン(サンドラ・ブロック)が宇宙空間で船外に投げ出され、絶体絶命の状況に。ライアンを救うため、マットは自らを犠牲にしようと決意し、命綱から手を放します。次第に遠く小さくなっていくマットの姿を見ながら、「喪失」ということ、永遠に会えないということが胸に迫り、涙があふれてきました。
犬が見つかるまでの間、車にひかれたり連れ去られたりして二度と会えない可能性を考えていました。その絶望感が、極限状況で唯一の相棒を失ったライアンの気持ちと重なったのだと思います。私はよく人から「冷静だね」と言われるタイプで、それまではドラマや映画を見ても一度も(!)泣いたことがなかったのですが、そんな自分に突然訪れた感情の振り幅に驚きました。飛行機の中で「この体験を書き留めよう」と思い立ち、犬友(いぬとも=犬つながりの友だち)宛てのメールを書き始めたところで、「せっかくなら記事に」と考えたのです。
掲載後には読者の方々から、想像以上の反響をいただきました。「マイクロチップは埋め込んでいたのか」との質問を受け、記事を改稿して盛り込みました。「迷子などとのんきに構えてもらっては困る。犬が苦手な人間にとって飼い主の手を離れた犬など、恐怖でしかない」との指摘もありました。お気楽なことに私にはその視点がなかったので、誠にその通りと反省しました。
記事には書かなかった裏話があります。犬がいなくなったとき、私と夫は夜の公園で言い争いをしていました。そのせいで、犬が走り去る瞬間を見逃してしまったのです(心配して探してくださったみなさん、本当にごめんなさい)。捜索中も、共同作業とはいえない状態でした。心の底では「相手のせいだ」と思っていたのかもしれません。後で仲直りしましたが、あのつらい時間を励まし合って過ごせていたらどんなに心強かっただろうと、今でも思い返すことがあります。
その後にも犬は、ほかの犬をかんでけがをさせてしまったり、病気をしたりして、そのたびにトレーナー(訓練士)やかかりつけの獣医師、犬友たちの力を借りながら試行錯誤してきました。
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は今年1月、「子どもを持つ代わりにペットを飼う人は自分勝手だ」と発言したそうです(BBCニュース https://www.bbc.com/japanese/59891135)。確かに人間の子どもを育て上げる責任の重さと比べれば、私は犬と「家族ごっこ」をしているととらえられても仕方がないかもしれません。
それでも自分より弱い存在を思いやり、その失敗を引き受けること、お金の使い方を選ぶこと、困ったときに頼れる友だちのありがたさなど、犬を飼わなければ知らなかったことは数えきれず、人生がより濃くなったことは確かです。犬はなぜ、朝目が覚めたその瞬間から、期待に満ちた目で語りかけてくるのでしょうか? それが散歩とごはんへの期待であっても、「今日もきっと楽しい一日になるはず」という素朴なオプティミズム(楽観主義)が伝染して、こちらも思わず笑顔になります。
この10年間に、散歩で知り合った犬の名前を書き出してみたら100頭近くになりました。この「犬友の輪」については、次回以降にお話ししたいと思っています。
文&写真=朝日新聞文化財団 安部 美香子
- 安部 美香子
- 朝日新聞社の水戸、横浜総局を経て文化部でテレビ、音楽、美術、ファッションなどを取材。現在は朝日新聞文化財団で1958年創設のクラシック音楽祭「大阪国際フェスティバル」を企画制作しています。 https://www.blog-osakafes.com/
「インドア派ですがキャンプは好き。週1ヨガをかろうじて継続中」
- 記事のご感想や、Aging Gracefully プロジェクトへのお問い合わせなどは、下記アドレス宛てにメールでお寄せください。
Aging Gracefullyプロジェクト事務局:agproject@asahi.com