Dr. Hisamichi の Keep On Walkin’
スペシャル対談 Vol.5〈後編〉
山田メユミさん、足の痛みに悩んだ日々
外反母趾を改善するためのアドバイスは
Special ヘルスケア 学び ライフスタイル キャリア スポーツ 更年期 対談
[ 23.01.25 ]
26歳の時に「@cosme(アットコスメ)」を立ち上げ、日本最大のコスメ・美容の総合サイトに成長させた山田メユミさん。現在は経営者として数多くの企業に関わるほか、経済的に恵まれない女性たちに化粧品を届けるプロジェクトを立ち上げるなど、幅広い活動で多忙な日々を過ごされています。今回、以前から痛みに悩まされてきた山田さんの足を「下北沢病院」の理事長・医師、久道勝也先生が診察。更年期にさしかかるAG世代の「足病」をテーマに話し合いました。後編は「足病」の具体的な対処法についてのお話です。
- 久道
- 本日、山田さんには足の健康状態をトータルでチェックする当院の「足の見えるか検診」を受けていただきました。この検診は、足を一つの臓器と考えて、皮膚、軟部組織、腱、関節、靱帯、血流など足の全てを診るというものです。山田さんの診断結果は、外反母趾(ぼし)とそれに付随した症状、皮膚に軽度の乾燥症状があった程度で、筋力、関節可動域、歩行フォームなどの足の機能に関しては問題ありませんでした。治療するとしたら、靴やインソールに関するアドバイスということになります。山田さんくらいの年齢の方ですと足のいろいろなところが悪くなっているケースが多いのですが、非常に優秀な結果と言えます。
- 山田
- ありがとうございました。漠然といろいろ悪いのではと思っていましたが、様々な角度から診ていただいた上で問題を指摘いただき、悩みがクリアになりました。
- 久道
- 今、足で一番気になっていることはどんなことですか。
- 山田
- 長時間歩くような機会を躊躇(ちゅうちょ)してしまうなど、足の痛みが怖くて消極的になってしまうことですね。10年くらい前まではマラソンやトライアスロンをしていたのですが、すっかり遠ざかっています。特にマラソンは疲れよりも外反母趾がまず痛い。自分のウィークポイントだと感じています。
- 久道
- 実は「痛いから走るのをやめる」というのは正しい選択なのです。痛みは体が発しているSOSですから、痛みをねじふせて無理をすると、より傷口を広げてしまうことになります。
- 山田
- そうですか。ただの根性なしだと思っていました。
- 久道
- 根性系はダメです。自分を追い込むと大体ろくなことがないのです。痛みの原因を確かめてから進まないといけません。
- 山田
- 外反母趾の痛みをかばって歩くせいか、肩こりや片頭痛にも悩まされています。
- 久道
- 足は体の土台です。土台が崩れると、必ず他の関節で代償しようとしてしまう。つまり、扁平(へんぺい)足や外反母趾で体重のかかり方がおかしいと、まず足首の関節で代償しようとする。そこで代償しきれなくなると、今度は膝関節、次は股関節という風に、一番下のズレがどんどん上に上がっていくんです。ひどくなると脊椎(せきつい)、頸椎にまで上がり、時に偏頭痛を引き起こす。その土台の部分を上手に補ってくれるのが医療用のインソールとなるわけです。変形矯正のインソールは柔らかいものでなく、医療用の硬いインソールを推奨しています。自分の足にぴったりと合っていれば、硬い方がより効果的だからです。
- 山田
- ぜひ、私もオーダーメイドの医療用のインソールを試してみたいです。
- 久道
- 普段はパンプスを履かれることが多いですか。
- 山田
- そうですね。仕事でどうしてもスーツを着ることが多いので、それに合わせてパンプスを履く機会が多くなります。
- 久道
- パンプスも4センチのヒールまでは良いのですが、それ以上高いとインソールの効果が出にくくなります。医療用インソールを入れて足のアーチを持ち上げると、変形に伴ういろいろな症状が改善すると思います。また、外反母趾の親指の付け根の出っ張りが内側に入って足全体が細くなりますから、靴の選択の幅も広がります。検診後は、装具士が「靴の処方箋」というものをお渡ししています。この処方箋を伊勢丹新宿店 本館2階 婦人靴売り場にお持ちいただくと、伊勢丹の社内資格「シューカウンセラー」を持つ靴専門のスタイリストが約5千種類の中からそれぞれの患者様に合いやすい靴選びのサポートをするというサービスを提供しています。
- 山田
- これまで私もいろいろな靴を試しました。今は、外反母趾用に開発された靴を通販で買っていますが、それが果たして自分にとって一番良いものなのかはわかりません。かといって、その靴を変えるのも怖い。それに外反母趾用の靴では、ファッション性はある程度諦めざるをえないところもある。友人同士でも「その靴、かわいいね」というやりとりはあっても、なかなか外反母趾用の靴についての情報交換はしないですね。
- 久道
- 働き方やライフステージによっても、靴の悩みというのは変わってきます。
- 山田
- 20~30代はヒールを普通に履いていたのですが、どんどん足が痛くなり、40代で高齢出産をして二人の子を妊娠した際には体重の負荷がかかって合う靴がありませんでした。できるだけ緩めのものを選んでいたのですが、そうすると逆に余計に変なところに力が入ってかえって痛くなる。
- 久道
- 緩い靴を履くと歩く時に一歩ごとに中でずれるんですよね。足の痛みの解決策は靴の選び方、履き方を含めて実はいろいろあるのですが、つい「医者に行くほどのことでもない」ととらえてしまう。皆さんには、足病という領域があって解決策もあるとぜひ知っていただきたいです。
- 山田
- 足の乾燥についてはどう対処するとよいでしょうか。
- 久道
- クリームなどによる保湿が第一です。またナイロンタオルでゴシゴシ洗ったりするとバリアーを壊してしまうので注意が必要です。皮膚の乾燥に関しては、女性は更年期にさしかかると女性ホルモンのエストロゲンの分泌が不安定になることがありますが、それが皮膚のバリアー機能の衰えと関係している可能性もあります。
- 山田
- お湯につかるだけでも垢が取れると聞いたので、私はあまりゴシゴシ洗わないようにしていますが、肌の水分量は少ない。頑張って保湿します。
- 久道
- アットコスメでもフットケア関連の商品は関心が高いのでしょうか。
- 山田
- 足のお悩みに関連するプロダクトは多く、20~30代の女性ではむくみやにおい対策に特に関心が高いようです。
- 久道
- むくみは血流と関連があるのです。下半身の静脈を通って心臓に戻る血流は、重力の関係で戻りづらいのですが、その際にポンプの役割を果たすのが第二の心臓と言われるふくらはぎの筋肉です。歩行の際、ふくらはぎは自然に伸び縮みするものですが、アキレス腱が硬い人はこの伸縮がうまくいかない。そうすると血流が鬱滞(うったい)し、結果むくんでしまう。ですから患者様には、アキレス腱の柔軟性は大事だとよくお話ししています。また靱帯は年齢によっても変化します。ここでもエストロゲンが鍵となっていて、分泌が減ると柔軟性がなくなっていく。そうなると、骨も変形するため扁平足の症状が進みます。このように、足の変形と更年期は密接に関係しています。
- 山田
- 女性特有の症状が多いということですね。
- 久道
- そうです。日本には医療関係者に男性が多いこともあるためか、女性医療という観点があまり浸透していません。たとえば、更年期障害の多くがホルモン補充療法(HRT)で楽になるはずなのに日本ではその情報が上手に広まっていません。それは足の医療に関しても同じことで、更年期や出産が歩行や足の変形に影響を与えること、エストロゲンの分泌が減ると足の血流に影響することは女性ならではの問題です。この領域を女性医療の視点で考えていくことも大事なことだと考えています。山田さんからいただいたアドバイスを参考にして、広く届く情報発信をしていきたいと思います。今日はありがとうございました。
- 山田
- 私もこれまで以上に足の健康に気を配るようにします、ありがとうございました。
文=草刈康代
写真=家老芳美撮影
- 山田 メユミ(やまだ めゆみ)さん
株式会社アイスタイル取締役/共同創業者 一般社団法人バンクフォースマイルズ代表理事
1972年、福岡県生まれ。95年、東京理科大学基礎工学部を卒業後、化粧品メーカー勤務を経て、99年に「アットコスメ」の運営会社となるアイスタイル社を共同創業。「Forbes JAPAN」が主催する『Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2017』の個人部門で「グランプリ」を受賞。経済産業省や総務省の審議会委員を歴任。セブン&アイ・ホールディングス、SOMPOホールディングス、セイノーホールディングスなど複数の企業の社外取締役を務める。2021年には一般社団法人バンクフォースマイルズを設立し、生活に苦しむ女性たちに化粧品を届ける「コスメバンクプロジェクト」に取り組む。
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