坂本真子の『音楽魂』
石原詢子さんインタビュー〈後編〉
やりたいことを諦めない生き方
「魂こもった、心のある歌を」
Special 音楽 ライフスタイル
[ 23.02.15 ]
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクトリーダーの坂本が、音楽の話をお届けします。
演歌歌手の石原詢子さんは、今年デビュー35周年を迎えます。4歳から詩吟を習い、「芸」の道を歩んで約50年。歌手を志して上京し、下積みの日々を経てNHK紅白歌合戦にも出場した石原さんが、長く歌い続けるために大切にしていることや日々の思いを聞きました。インタビュー後編では、年齢を重ねて感じることなどを語ります。
「40歳になってから、女性にとって40代が一番いいときだと思っていたんですけど、50歳を超えてからは、これからだと思っています」と笑顔を見せた石原さん。今年1月、石原さんは55歳の誕生日を迎えました。年齢を重ねることを前向きにとらえています。
「もちろん若い人に比べたら肌が衰えたり、朝起きたら手が痛かったり、いろいろなことがこれから先もたくさん起きると思います。でも、今だったら自由になるものがある。例えば時間、お金があって好きなことができる。自由な時間を作れるようになって、やりたいことをできる年齢になっている。とても素敵なことだと思うんですよね」
ピアノも三味線も50代で挑戦
石原さんには、50歳になってから始めたことがあります。
「子どもの頃、同級生が大きなおうちで弾くピアノの音色を聴いて、すごく憧れたんです。でも、ピアノを買ってもらえるわけもなく、私にはないもの、絶対できないものと諦めていました。それが50歳になったとき、ひょっとしたら私にもできるかも、と。今だったら、ピアノは無理でも電子ピアノなら買えるんじゃないか、と思ったんです」
約1年間、毎日1時間以上欠かさずピアノを練習した石原さんは、翌年9月のデビュー30周年リサイタルで演奏を披露しました。
「とにかく鍵盤を触って、くるくる巻ける電子ピアノを地方にも持って行って、楽屋でずっと弾いていました。夜寝るときも指を動かしていましたね。大変でしたけど、やる気になればできるんだと自分で立証しました」
さらに三味線の練習も始め、昨年10月のディナーショーで披露しました。
「三味線もずっとやりたかったんです。歌につながるものなので楽しく練習しています。いくつになっても諦めないで、やりたいことをやれたらいいですよね。そういうことを楽しめるのが、若さを保つ秘けつなのかな、と思います」
2022年10月21日、「デビュー35周年記念/芸道50年 ~ここから繫(つな)げる歌の道~ 石原詢子ディナーショー」で三味線を披露する石原さん=ソニー・ミュージックレーベルズ提供
「食べるなら運動」ストイックに
気分転換には、ゴルフか温泉旅行に行くことが多いという石原さん。特においしいものを食べる旅が好きだそうです。
「私、食べることが大好きで、お酒も飲むんです。50代になって、ダイエットをしても体重が減らなくなっちゃったんですよ。だから、運動しないと食べられない。食べるなら運動する。ストイックに考えています。体重計に毎日乗って、増えたら翌日はちょっと控えるとか。お酒もワインや日本酒が好きですけど、体重が増えたら焼酎に変えるとか。好きなものを食べてお酒も飲みたいならば、そして60代になってもその生活を続けたいなら、健康作り、健康管理を続けることが大切です」
年齢を重ねると、女性はどうしてもおなか周りやお尻に肉がつきやすくなります。体形を維持するため、石原さんは「パーソナルジムに通って筋トレをして、プールにも行きますし、歩いています」。日ごろから「じっとしていてください」とスタッフに叱られるほど、よく動いています。
「動かないと、私の年齢でキープするのは難しいですね。テレビに出てドレスを着ることがあるうちは、ちゃんとやりなさいと自分に言い聞かせています」
のどの管理も徹底しています。
「コロナに関係なく、寝るときにマスクをしています。加湿器をつけると音が気になって眠れないんですよ。だから夏でもマスクをします。それだけで加湿になりますから」
更年期の体調の変化はあったのでしょうか。
「急に汗をかくようになったことはありました。でも、誰もが通る道だと思って、共存していくしかないですよね。あまり深く考えず、前向きに考えるようにしています」
飼い猫に救われて
コロナ禍で外出できなかった時期、石原さんの心の支えになったのは、2匹の飼い猫でした。
「本当にどれだけ救われたかわからないですね。外出できなかったときは、誰とも会話しない状態が何日も続いて、『そういえば私、全然声を出していないなぁ』と思ったときに、猫ちゃんに語りかけて、愛くるしい顔を見つめると心が和みました。ひとつひとつの行動もかわいいですけど、私がしょんぼりしているとひざ元に来て、じーっと見ることがあって、私の気持ちがわかるのかしら、と思うことが多々ありましたね。2匹でけんかして『こらっ』と叱ると、2匹そろってヒュッと逃げる。そういうしぐさもかわいいし、いたずらっ子の子どもができたみたいなものですね」
少し前にもう1匹増えて、現在は3匹に。
「新しく来た子は、普通に生活はできるんですけど、生まれつき、足をちょっと引きずる感じの子で、初めて見たときにピピッときたんですね。この子のめんどうを見てあげたいなと。3匹の行動を日々見ていると、この子たちのためにも元気でいなきゃ、健康が一番だな、と思います」
猫たちと一緒に=石原詢子さん提供
石原さんは、母親が亡くなった59歳より長く生きることを目標にしています。
「母が亡くなった年齢まで、あと4年。そこで今後のことを考えようかな、と思っています。60代はたぶん歌っているでしょうし、詩吟の教室を大きくしたいと思ったら、そちらが中心になっていくかもしれません。とにかく元気でいるために、60歳になったときに後悔しないために、今からちゃんと健康作りをしておきたいですね」
「笑顔でまっすぐ生きたい」
石原さんが歌うときに最も大切にしていることは何ですか、と尋ねると、「魂のこもった歌」と即答しました。
「心のある歌じゃないと、聴いてくださる方には伝わらない。それは目に見えるものではないので、歌に心を入れることを大切にしようと思って、いつも歌っています。ただ、心を100%伝えるのは本当に難しい。多くの歌い手、先輩方もそれが永遠のテーマではないでしょうか。だからこそやめず、引退せずに歌い続けるんじゃないかな、と思います」
石原さん自身が考える、自分らしさとは何でしょうか。
「まっすぐに生きることでしょうか。父親も曲がったことが大嫌いな人だったので、親譲りなのかもしれません。年々頑固になってきて、父の顔がチラチラ見える気もしますが(苦笑い)、とにかく笑顔で、自分の思った通りにまっすぐ生きていけたらいいな、と思っています」
今年1月12日、石原さんは55歳の誕生日を東京・吉祥寺のライブハウス「スターパインズカフェ」で迎えました。「石原詢子Acoustic Live vol.3 バースデースペシャル♪」と題したライブでは、第1部「オリジナルソングver.」は持ち歌の演歌を中心に構成。「詩吟がなければ、みなさんの前で歌うこともなかったと思います」と語り、無伴奏で一節を披露しました。第2部「Jun’s STORY ver.」は、デビュー前に影響を受けたという懐かしい歌のカバーを中心に構成し、父親との思い出を振り返って涙ぐむ場面も。アンコールにはスタッフが用意したバースデーケーキも登場して盛り上がりました。どんなジャンルの曲も歌詞のひとつひとつを大切に歌う、石原さんの姿が心に残りました。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
写真=伊ケ崎忍撮影
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◆デジタル配信シングル「予感」
発売元:(株)ソニー・ミュージックレーベルズ
https://www.sonymusic.co.jp/artist/JunkoIshihara/
◆石原詢子オフィシャルサイト https://junko-ishihara.com/
◆石原詢子オフィシャルブログ「詢子のひとりごと」 https://ameblo.jp/junko-i1021/
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