AGサポーターコラム
デビュー50周年 松任谷由実さんのルーツは
一歩踏み出す勇気をくれる「YUMING MUSEUM」
Special ライフスタイル ファッション 音楽 アート
[ 23.02.01 ]
ゴージャスでカラフルなステージ衣装も展示=山根写す
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の女性に、コラムを書いたり、プロジェクトの活動を手伝ったりしてもらう「AGサポーター」。朝日新聞社員のAGサポーターたちからは、日々感じていることや取材を通して思うこと、AG世代にオススメしたい話題などをお届けします。
思えば、いつも松任谷由実(ユーミン)さんの曲が人生の節々で流れていました。高校の卒業式では「卒業写真」をみんなで練習したっけ。大学時代、クリスマスの時期に「恋人がサンタクロース」が街で流れると、恋人がいない不運を嘆きました。失敗ばかりして上司や先輩に叱られていた新人記者の頃は、すがるような気持ちで「春よ、来い」を聴いていました。
「ルージュの伝言」「まちぶせ」など、好きな人を独り占めしたい女の子のドキッとする恋心も歌にしてくれ、何でこんなに気持ちを分かってくれるんだろうと思いました。
そんなユーミンへのリスペクトを込めて、ブーツをはいて東京・六本木の東京シティビューの「YUMING MUSEUM」(ユーミン・ミュージアム)に行きました。
ユーミンは1972年にシングル「返事はいらない」でデビューし、昨年、50周年を迎えました。その間、39枚のオリジナルアルバムを出し、公演回数は2500回を超え、シンガー・ソングライターとして、流行や時代を作り出してきました。展覧会では、自身のコレクション、自筆の歌詞や譜面、貴重な映像、ステージ衣装、掲載された雑誌やポスターなどを展示しています。
スカイギャラリーでピアノに座る松任谷由実さん。周囲には手書きの譜面や歌詞の複製がちりばめられています
会場に入るとすぐ、海抜250㍍から大都会を一望できるスカイギャラリーにピアノが1台。周りにはユーミンの自筆の譜面や歌詞の複製が配されています。きちょうめんな文字でつづられた歌詞は線で取り消されていたり、書き直されていたりと、推敲(すいこう)を重ねた跡がうかがわれます。
ワクワクするのは、ユーミンのルーツが分かる展示です。1976年に撮影された、生まれ育った東京都八王子市の実家の部屋の写真は、若さと、熱量と、何かが始まる前の混沌(こんとん)が満ちあふれています。当時、ユーミンは大学卒業間近でした。室内には、はやりだった観葉植物が飾られ、米軍の立川基地で買い集めていた200枚ほどのレコードもあったそうです。
ユーミンは2階にあるこの部屋の窓を開け、らせん階段を下りて「夜抜け」して、都心に遊びに行っていたのです。きっと最先端の文化や流行に触れて、さまざまなインスピレーションを得ていたのでしょう。「夜抜け」している間にユーミンの代わりとなったのは、ベッドの上にセーターを詰めて人型にこんもりさせた布団とウィッグでした。
「はじまりの部屋」のコーナーでは、この青春の思い出の詰まった貴重なウィッグも展示されています。「絶対おこさないで下さい。ゆみ」などと記した手書きのメモも展示、文字の必死な感じがほほえましいです。
「風景が浮かぶ」といわれるユーミンの歌。美大に進学したユーミンのデッサンや絵画作品、学生時代の愛読書なども展示されています。豊かな色彩感覚がユーミンらしさを感じさせます。自宅で使っていたグランドピアノも初公開、このピアノから「中央フリーウェイ」「春よ、来い」などの名曲が生み出されました。
ゴージャスなコンサート衣装29点やライブ映像も流れ、躍動感あふれるユーミンにエネルギーをもらえます。2020年には39枚目の最新オリジナルアルバム「深海の街」をリリース。「深海の街」のコンサートツアーのセットの一部も展示されており、コロナ禍の時代、どんな思いで曲を作り続けるか、進化し続けるユーミンの姿が見てとれます。
「春よ、来い」など名曲を生み出したグランドピアノを初公開=山根写す
ときめきに街の風景が一変して見えた朝も、こっぴどくふられた恋も、思いが届かないまま終わった片思いも、疑心暗鬼で眠れなかった夜も、いつもユーミンの歌声がそばにありました。何でこんなに気持ちを分かってくれるんだろうと思ったユーミンは、これまで近くて遠い存在でした。
展覧会を見てからは、すぐそばで励ましてくれているような存在に感じられるようになりました。自分という「部屋」に閉じこもってばかりいないで、一歩踏み出して、新しい世界に飛び出していく勇気をもらえた気がします。
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◆「YUMING MUSEUM」(ユーミン・ミュージアム) 〈朝日新聞社など主催〉
2月26日(日)まで、東京・六本木の東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)。
午前10時~午後10時(最終入館は午後9時)。会期中無休。◇お得情報◇
本展覧会の入場料金は当日一般2500円。事前に日時指定券の購入を推奨します。
この料金で、六本木ヒルズの「東京シティビュー」の屋内展望台と、本展覧会の両方が楽しめます(屋内展望台のみチケットは通常、当日窓口料金2200円)。
さらにスマートフォンで会場のQRコードを読み込むと、ユーミン本人の無料の音声ガイドも聴けます。
65歳以上のシニア料金や学生料金の設定もあります。公式サイト https://yumingmuseum.jp/
取材&文=朝日新聞社 山根由起子
写真はいずれも東京・六本木の東京シティビューで撮影
- 山根 由起子
- 朝日新聞記者として佐賀、甲府支局を経て、文化部などで演劇や本、アート系の取材を担当。現在は企画事業本部企画推進部の企画委員。
「アートと演劇をこよなく愛しています」
山根由起子さんの「AGサポーターコラム」バックナンバーです。
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