AGサポーターコラム
マンネリ脱却、現代アートで気分新たに
90歳の巨匠「ゲルハルト・リヒター展」
Special アート ライフスタイル
[ 22.09.21 ]
鮮烈な色合いの「アブストラクト・ペインティング」シリーズの作品などが展示されている「ゲルハルト・リヒター展」=東京都千代田区の東京国立近代美術館
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の女性に、コラムを書いたり、プロジェクトの活動を手伝ったりしてもらう「AGサポーター」。朝日新聞社員のAGサポーターたちからは、日々感じていることや取材を通して思うこと、AG世代にオススメしたい話題などをお届けします。
マンネリをどう脱却するか……ということを近頃よく考えます。部屋のクローゼットには、いろいろな色の服があるのに決まって選ぶのは青か黒、レストランで頼むのは、いつもトマト味のパスタ。
決まり切った家事の手順、作る料理のメニュー、仕事のスタイル、メールの決まり文句……。長年、同じことを積み重ねていると熟練してきますが、陳腐にもなってきてしまいます。
朝、目覚めて、洗顔して鏡を見る時、少しでも陳腐ではない自分に更新したいと思いますが、仕事疲れや家事疲れなど、日々のマンネリ疲れがどんよりとにじみ出てきています。
そんな疲れ切った自分をリフレッシュしてくれるのが、東京・竹橋の東京国立近代美術館で10月2日まで開催中の「ゲルハルト・リヒター展」です。
今年90歳を迎えたドイツの現代アートの巨匠。その作品は、ポーラ美術館が2020年に約30億円で落札したことでも話題になりました。
「ゲルハルト・リヒター展」で展示中のホロコーストをモチーフに描いた4点の「ビルケナウ」。「グレイの鏡」があり、作品が映り込んでいます=東京都千代田区の東京国立近代美術館
展覧会では、画業60年を振り返る122点が展示されています。82歳の時に完成させた、ナチスのホロコーストをモチーフにした抽象画4点の大作「ビルケナウ」は日本初公開。黒、白、赤、緑の絵の具を塗り重ねた作品からは、不協和音や沈痛な響きのようなものを感じました。
「スキージ」とよばれる長細い大きなへらを用いて制作した「アブストラクト・ペインティング」シリーズ。80代で手がけた作品も展示されています。ナイフで削った跡や絵の具のスレやハネなどが混じり合って、変幻自在な模様を生み出しています。静謐(せいひつ)だったり、カオスだったり、作品ごとに、受ける印象は様々でした。
リヒターは写真やデジタルプリント、ガラス、鏡など様々な素材を使って、いろいろな表現に挑戦してきました。まるで写真のように見える肖像画や風景画も展示されていて、同じ人が描いたと思えないほど、作風が多彩です。
会場中央にある「8枚のガラス」という立体作品は、自分や来場者の姿もガラスに映り込み、作品の世界を広げています。
「ゲルハルト・リヒター展」では、来場者も映り込む立体作品「8枚のガラス」も展示=東京都千代田区の東京国立近代美術館
昨年、89歳の時に断片的な線や面を描いた「ドローイング」の作品のコーナーもあります。震えるような細い線やぼんやりした陰影など、本人の息づかいが聞こえてきそう。
90歳になっても衰えない描く意欲。「きっといろんな表現を試して、作品を生み出すことが面白くて仕方ないんだろうな。手を動かさずにはいられないんだろう」と思いました。
「巨匠」という名声に安住せずに、挑戦を続けているリヒター。しゃかりきになっている感じでもなく、遊び心も感じられる表現の深さがあります。
展覧会から帰った後、できることからマンネリを打破してみようかと思いました。髪を切った夜、おろしたてのシャツを着た朝、新しい自分を発見するように。仕事でもプライベートでも、さびない自分でいられたらと思います。
取材&文&写真=朝日新聞社 山根由起子
- 山根 由起子
- 朝日新聞記者として佐賀、甲府支局を経て、文化部などで演劇や本、アート系の取材を担当。現在は企画事業本部企画推進部の企画委員。
「アートと演劇をこよなく愛しています」
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