AGサポーターコラム
人と器のきずなに思いをはせて
作り手の心伝わる「イッタラ展」
Special アート ライフスタイル
[ 22.10.15 ]
美しさと機能性を備えた作品を展示する「イッタラ展」=東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の女性に、コラムを書いたり、プロジェクトの活動を手伝ったりしてもらう「AGサポーター」。朝日新聞社員のAGサポーターたちからは、日々感じていることや取材を通して思うこと、AG世代にオススメしたい話題などをお届けします。
とても大切にしているお皿があります。新人記者のころ、父が初任地の佐賀に遊びにきてくれ、連れだって有田陶器市に行きました。陽光降り注ぐ窯のある町。店の軒下には、お皿が所狭しと並べられ、活気に満ちあふれていました。
初めての一人暮らし。「由起子も自炊用のお皿をいくつかそろえた方がいいね」と父と見て回りました。私は、白地に藍色で南蛮人や船が描かれた九州らしいエキゾチックな絵皿が気に入り、柄が異なる2枚を買いました。油汚れもすぐ落ち、和洋中華どんな料理にでも合うすぐれものです。
その2枚のお皿は、結婚して家庭を持ってからもほぼ毎日、使っています。転勤などで5回の引っ越しを経ても健在。一度、手を滑らせて台所の洗い場に落としてしまったことがありましたが、割れませんでした。食器棚から取り出すとき、「いつもありがとう」と心の中でつぶやき、大切に使っています。
人と器のきずなは、強いものだと思います。東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」では、ガラス作品の作り手からの「心」が感じられます。
作品のカラーバリエーションが豊富な「イッタラ展」=東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム
フィンランドのヘルシンキの北約120キロにあるイッタラ村から生まれたライフスタイルブランド「イッタラ」の設立140周年を記念して開催。歴史的なガラスの名品を中心に、陶器や磁器など450点以上を展示しています。
フィンランドの森や湖、雪や氷が作品作りに様々なインスピレーションを与えてきました。
《ボルゲブリック〈水紋〉》というシリーズは水の波紋のようなデザインを日常使いのガラス製品に採り入れています。グラスは、胴体が蛇腹のような形状になっていて持ちやすく、冷たい飲み物を入れて、しずくがついても滑りにくいそうです。
《ウルティマ ツーレ(世界の果て)》シリーズは、氷が解けてしずくがしたたる様子をデザインしています。グラスや皿の底をのぞくと、宝石のような「しずく」の造形が見えるでしょう。ユニークな発想と繊細な美しさに息をのみました。
氷が溶ける様子からインスピレーションを得たというタピオ・ヴィルカラの《ウルティマ ツーレ(世界の果て)》シリーズ=東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム
デザイナーのタピオ・ヴィルカラ(1915~85)が、春にラップランドの別荘に滞在していたときに、氷が解ける様子を見て思いついたそうです。
凍結した湖で釣りをするときの穴をイメージした、世界に10枚しかないという、ヴィルカラのガラスのオブジェもありました。渦を巻く中心は、深遠で銀河のようです。
会場では、豊富なカラーのバリエーションや、シンプルですっきりしたデザインの数々のガラス作品が楽しめます。使い込んだ木製のガラスの加工道具も展示されており、作った人の手のぬくもりが感じられるような気がしました。
吸い込まれそうな輝きを放つタピオ・ヴィルカラのオブジェ《ピルッキアヴァント(氷上釣りの穴)》(1970年)©Iittala=東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム
お気に入りの器は、生活に彩りを添えてくれます。今夜も大好きな南蛮皿に、チキンのトマト煮込みを盛りつけながら、このお皿をどんな人が作ってくれたのだろうかと考えました。夫よりも長く、私に連れ添ってくれている「伴侶」。有田陶器市での父との思い出もよみがえり、料理と一緒に盛りつけてくれました。
元気だった父も今やもう80代。誕生日には、思いを込めてすてきなグラスを贈りたいです。
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◆「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」(朝日新聞社など主催)
11月10日(木)まで東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中。
一般1700円など。オンラインによる事前予約が可能。
※予約なしでも入場できますが、混雑時はお待ちいただく場合があります。
来年以降、島根、長崎、京都ほかに巡回する予定。
取材&文&写真=朝日新聞社 山根由起子
- 山根 由起子
- 朝日新聞記者として佐賀、甲府支局を経て、文化部などで演劇や本、アート系の取材を担当。現在は企画事業本部企画推進部の企画委員。
「アートと演劇をこよなく愛しています」
山根由起子さんの「AGサポーターコラム」バックナンバーです。
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